殻を破れ3
「すいません、問題起こしちゃって」
「いいんですよ。
男の子ってのはケンカするものだと聞いています。
むしろ問題はアカデミーの方でしょうね」
オロネアは深いため息をついた。
どんな問題にも目を通してしっかりと対処してきたつもりだったけど報告も上がってこなきゃ対処のしようもない。
もし本当に学生に肩入れする教師がいるなら調査を行い正しく処理しなければならない。
「それにしてもなぜあの子なのですか?」
「なぜと申しますと?」
「このアカデミーには多くの子がいます。
接点もないユダリカ・オズドゥードルに近づこうとする理由が分かりません。
家柄はアカデミーでも最上位クラスですが領地は遠いですしアカデミーに来始めたと思ったらあの子の側にいるようですから気になりました」
御家柄だけを見ればお近づきなりたくても理由は分かるし、リンデランやウルシュナとも知り合いなことを考えると不自然でもない。
でもジが家柄で相手を選んでしまう子でないことは分かっている。
ならばどうしてユダリカを選んだのか。
「……友達になりたかったんです。
あいつが、俺に似ている気がしたから」
「ユダリカとあなたが?」
「はい、ある時耳にしたんです。
魔獣が卵で魔力の供給を受けられずに馬鹿にされている少年がいるって。
俺の魔獣はスライムです。
魔力がもらえないわけじゃないですけど無いに等しいぐらいのものです」
今現在、回帰したこの人生でジのことを馬鹿にする人は少ない。
良く知りもしないでただジの魔獣がスライムだって聞くと馬鹿にする人はいるけれどジの知り合いでスライムのことを馬鹿にする人はいない。
けれど過去ではひどいものだった。
いい笑い話のネタだったのでジがスライムを魔獣としていることを色々な人が知っていて色々なことを言われたものだった。
心無い一言だってとても多かった。
「最初は単純な興味だったけどもしかしたらアイツは俺だったかもしれません」
過去のジは今のユダリカに似たようなものだった。
他者を拒絶し壁を作って生きていた。
手を差し伸べてくれる人もいただろうにそんな人から裏切られたり拒否されることが怖くて全てから逃げていたのだ。
回帰してようやく周りにいてくれる人がいて、そして自分が心を開けば相手も開いてくれることが分かった。
そしてただスライムだと馬鹿にしないで人を見て付き合ってくれる人やスライムそのものの価値を見出してくれようとしてくれる人もいることを知った。
出来ればこの国のために戦ってほしいとかそんなことを思っていたけどそうでなくてもいいと今は思う。
周りにいる人がみんな敵なわけじゃなく、ユダリカをただのユダリカとして見て付き合ってくれる人がいることを知ってほしいと思うのだ。
ユダリカは過去のジに似ている。
だからちょっと変えられるなら、少しでもユダリカが楽に生きられるなら変えてやりたいと考えていた。
余計なお世話かもしれないけどしないで後悔するならやってみる。
「……そう」
思っていたよりも重たくて、ちゃんと相手のことを考えていた。
「簡単に聞いてしまって悪かったわね。
ただ私は少し怒っているの」
「怒っ……えっ?
やっぱり喧嘩したこと……」
「違います。
相手は剣を取り出したのですよ?
あなたはただ何もしないで立っているだけでした。
私が来なかったらどうするつもりだったのですか!」
オロネアはジのことを心配し、そしてそのために怒っていた。
「あ……あはは、そのことですか」
「そのことですか、じゃないでしょう!」
駆けつけた時ヒヤリとした。
剣を向けられた恐怖で動けなくなったのではと思ったけれどダンジョンを攻略するような子がそんなことで物怖じするはずがない。
真っ直ぐに相手の少年を見ていたジはあえて動いていなかったようにも見えた。
「もちろん切られてやるつもりなんてなかったですよ」
「……なんですって?」
「ちゃんと防御してたのでお止めになられなくても大丈夫でしたよ。
あんなへなちょこ剣で俺を傷つけることなんか出来やしないです」
軽くウインクしてみせるジ。
当然ジは切られてやるつもりはなかった。
正確にいえば切られるつもりだったけど傷つけられるつもりはなかった。
「フィオス」
シュルルとフィオスがジの服の中から出てくる。
「おや……その子は……」
「俺の魔獣であるフィオスですよ」
ジはフィオスを呼び出していた。
剣にして対応してもよかったのだけどあえてフィオスをソードモードにしないで体に纏わせた。
ジの体に纏われたフィオスは服の中でこっそり金属化していた。
だから顔でもやられない限りは子供のヘロヘロした剣で傷つくことはなかった。
スライムでどう防ぐんだとオロネアは不思議そうな顔をしているけどジが自信満々なのでちゃんと防ぐ手立てを講じていたのだと納得はする。
「ただあまり心配をかけないでほしいです」
「うーん……分かりました……」
「その顔、そのうちまた無茶をするつもりですね」
なんだかエみたいなことを言う。
この先の人生何が起こるか分からないんだから無茶するなと言われても約束はできない。
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