殻を破れ1

「うるせえ!


 俺に構うんじゃねえよ!」


 突然の大声に教室中の視線が集まる。

 声の主はユダリカ。


 弾かれた手、そして驚きの表情のジがユダリカの目の前にいた。


「……う…………」


 気まずそうな顔をするユダリカ。

 ここで面白いのは普通こんなことしたら気まずくて教室を飛び出していくもんだけどユダリカは変に真面目なので授業はちゃんと受ける。


 例え後ろでヒソヒソと噂されようと、ジがどんな顔しているのか確認すら出来なくても授業はとりあえず受ける。

 不思議な奴だ。


 どうしてこんなことになったのかというと、ユダリカの顔が腫れていたからだ。

 割と端正な顔立ちをしているユダリカだが今日は頬と目の辺りが腫れていた。


 気になって手を伸ばしてしまったことがユダリカの気に触れてしまってユダリカは強くジの手を振り払った。

 何があったのかと聞くこともできずに授業が終わると卵を抱えてユダリカは足早に去ってしまった。


 こんな時に仲の良い友達でもいたら聞けるんだろうけど特にそんな友達はいない。

 リンデランやウルシュナではグループが違うのであまりユダリカについて詳しくない。


 この時間なら中庭で1人かなと思ってジも向かってみる。


「おい……」


「お前……」


「んん?


 なんだ?」


 いつもは静かなはずの中庭から声が聞こえてくる。

 少しだけ嫌な予感がして気配を消してジは中庭に近づいていった。


 チラリと角から中庭を覗き込むとユダリカが数人の少年に囲まれていた。

 これはよろしくなさそうだと思うけど状況もわからず口を出すのはいくないので少し見守ってみる。


 ただこんな状況が良いものなはずはない。


「ムカつくんだよ!


 ちょっと剣ができるだけで周りをみんな見下したような目しやがってよ!」


「魔法も使えないくせに!」


 明らかに良くない言葉でユダリカを罵倒する少年たち。

 内容を聞いていると少年らの1人が剣術で優れていて、当然のことながら成績トップだろうと思ったところユダリカにトップの座を奪われた。


 少年らもユダリカに近づこうとしたこともあった。

 しかし知っての通り人付き合いの異常に悪いユダリカは少年らにも良い顔はしなかった。


 トップを取られた悔しさや嫉妬、態度の悪さや無視をされた怒り。

 それでいながら卵を抱えているという目立つ格好で魔法も使えないというちょうどよく攻撃できるポイントもある。


 肝心の本人はどこでもない地面を見つめて少年らがいないように無視している。

 周りの少年らを空気のようにように扱ってただ相手が飽きるのを待っていた。


「なんだ、無視するしか出来ないのか?


 前みたいに手ェ出してみろよ?」


 少年の1人がユダリカの頬をペチペチと叩く。

 以前にも同じようなことがあったのか。


「出せないよな?


 お前は家に捨てられたんだもんな!」


 無表情を貫くユダリカが拳を握りしめた。

 目の奥に怒りの感情が見えた。


「その目、ムカつくな!」


「なっ……!」


 少年の1人はユダリカを殴り飛ばした。

 頬が腫れていた原因はあれだったのか。


「ほら、殴り返してみろよ。


 そしたらお前はアカデミー退学で家からも追い出されんだろ!」


 なんでそんなこと分かるのだとジは思った。

 アカデミーは簡単には退学にはならないし相手のお家事情なんてアカデミーに通う子供には分からないはずだ。


 話を聞くに前にもユダリカは手を出したみたいだけどこんな状況ならユダリカの責任だけが問われることもないはずだ。

 オロネアが学長を務めているなら尚更だ。


「そんな役立たずな卵捨てちまえよ?


 それとも俺たちが焼いて食ってやってやろうか?」


 ケラケラと笑う少年。

 クスリともできない冗談にジも苛立つ。


「おい、卵取っちまえ!」


「や、やめ……」


「やめろ!」


 もう限界だ。

 飛び出したジはユダリカの卵を取ろうとした少年の顔を後ろから殴りつけた。


 殴られて転がっていく少年。

 

「な、なんだお前!」


「お、お前……どうして……」


「大丈夫か?」


「あ、あぁ……」


「おい!


 こっち無視すんな!」


 ジはユダリカに手を差し出す。

 いきなり現れたジに無視されて少年が激昂する。


 目配せをして周りに従えている少年がジの肩に手をかけようとした。


「ブギャッ!」


 ジは振り返ると問答無用で殴りつけた。


「チッ……一体なんなんだよ!


 お前俺の父親が誰だか知ってんのか!?」


「やっすい脅ししやがって!


 お前こそ俺の父親が誰か知って言ってんだろな!」


 ジの父親?

 ジも知らん。


 知ってたら教えてくれ。


「知るか!


 やっちまえ、どうせ外にはバレないから」


「バレない……だと?」


 取り巻き少年たち3人がジを囲む。

 ちょうど授業時間に突入したので周りに生徒の姿もない。


 少年たちがジに殴りかかる。

 3方向から殴りかかられてもジは冷静だった。


 魔力の感知を駆使して3人の動きを見ずとも把握している。

 前にいる少年を見ながら他の少年の攻撃もかわして素早く距離を積める。


 思い切り鼻っ面を殴りつけると踏ん張ることもなく後ろに転がっていく少年は鼻血を垂らして気を失う。


「ギュッ!」


「ギャッ!」


「な、なんなんだよコイツ……」


 体つき的には少年たちよりも小さいジ。

 しかし瞬く間に取り巻き少年たちはジに殴り倒された。

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