あなたの初めてを私に3
「それじゃいくよ」
「ど、どうしたらいいの?」
「何もしなくていいよ。
受け入れて、それだけでいいから」
どこからか赤い糸が出てくる。
ジの手首を伝った赤い糸はジの小指に巻き付いて、そのままエの小指にも巻きつく。
さらに先は伸びていきフィオスの体に巻きついて、シェルフィーナの体にもグルリと巻き付いた。
最後にエの親指に巻きついて、ジの親指にも巻きついて手首の方に消えていく。
グルリと長い赤い糸でジとエとフィオスとシェルフィーナが繋がる。
「古の契約。
汝、心に繋がる盟約によりて友に力を与うえるものとなるを良しとするか?」
「……うん。
ジなら、いいよ」
初めてフィオスの気持ちが分かった時のようだった。
胸に広がる温かい気持ちはエの喜びの気持ち。
手を繋いでいるドキドキした気持ちとか緊張した気持ちとか手だけじゃなくて心が繋がった感覚。
シェルフィーナの優しい感じもフィオスのこの状況を楽しんでいる感じも全部伝わってくる。
「ありがとう、エ。
いつも、これからも、そして昔からずっと感謝してるよ」
「……ん。
私もありがとうって思ってる」
赤い糸が消えていく。
同時にエやシェルフィーナの気持ちも分からなくなっていつも通りなんだかのほほんとしたフィオスの気持ちだけがじんわりと伝わってくる。
「えっと?」
「終わりかな……?」
「かなって何さ」
「俺も初めてなんだから分かんなくてさ」
「ふーん、魔力は増えた感じはする?」
「そういえばそんな感じも……」
「なにそれ、私が協力してあげてんのに」
「だってマックス増えてもフィオスもう一体分だからな。
フィオスにゃ悪いが微々たるもんだもん」
「それもそっか」
「でも増えてるよ。
ありがとう」
「うん!」
ニッコリと笑うエ。
本当に他人の魔獣から魔力がもらえるのか不安に思っていたけど詐欺じゃなかった。
それはいいんだけどこの恥ずかしいやり方だけはどうにかならないかな。
女の子相手なら望むところだけどライナスとこんなことやってみろ、ただ頭がおかしくなった光景じゃないか。
「あっ……」
「どうかしたか?」
「ううん、なんでもない。
お昼食べに行こっか」
「そうだな。
今日の日替わりはなんだろな」
ジが手を離すとエは小さく声を上げた。
名残惜しそうに手のひらを見たエの感情は幸か不幸か、ジには伝わっていなかった。
「こんなことならやはり子供の1人でも作っておけばよかったですね」
「良い相手とかいなかったの?」
そしてそんな2人の様子を伺うオロネアとエスタル。
エスタルはうっすらと透けた姿をしている。
訓練室はギリギリエスタルが現れられるところだった。
「私にも恋した時期ぐらいあったわ。
でもその人には想い人がいたの。
……今はその人の孫がアカデミーにいるわね」
「へぇ?」
「その人は炎が得意だったけどその子は氷だったかしら」
「……ふーん」
氷を使う人で炎を使う人の孫。
そんな話をアカデミーの中でも聞いたことがある気がする。
その人だったら孫の方は普通に知っている。
「昔戦場で助けられたことがあったのよ。
……別にその人に操を立てたつもりはないのだけどその後に良い出会いもなかったの」
「まあでも今は可愛い子供が2人もいるじゃない?」
「そうね。
若さからしか摂取できない何かがあるなんて言ってるお友達がいたけど今なら分かるわ」
「そんな不思議な成分があるのかな?」
「うふふ、そろそろ2人も来そうだしお暇しましょう」
オロネアはお淑やかに笑ってバレないようにこっそり訓練室の前を後にした。
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