あなたの初めてを私に1

 ひとまず真面目に授業を受けてみることにした。

 ユダリカの隣で。


 卵が間に挟まるためにユダリカ、卵、ジという並び順だけど実質隣と変わらない。

 まずは観察してみることにした。


 エスタルに言われた。

 他人の口から聞いても本当に相手を理解することにはならないと。


 自分の目で見て自分の目でユダリカのことを知らねばいけないのだと思い知った。

 まとわりついてくるように同じ授業を受けるジを疎ましく思っているようだけどユダリカの授業を受ける態度は真面目だった。


 何かを吸収して今後に生かそうと思っていることがよく分かる。

 剣の授業ではトップの実力だった。


 魔獣から魔力の供給を受けられなくて肉体が強化できないのにしなやかで伸びやかに剣を振っていた。

 暇な時間は1人でいる。


 中庭のベンチに同席した時は舌打ちされてどっかに行かれてしまったので同じベンチに座るのはやめた。

 朝昼晩食堂で済ませていて、意外と肉より魚が好き。


 酸っぱいものがダメで夜はデザートもちゃんと食べる。

 思ったほど量は食べない。


 結構歳の割に身長とか高いのにどこから栄養を得ているんだ。


「ふっ……情報少な!」


 友達もおらず誰かと会話していることもないので漏れ聞こえる会話もない。

 見て分かること以外に情報を得られなかった。


「るせえな……」


「お前が魚のソテー好きっていう以外なんかないのかよ?」


「言うに事欠いて本人に聞くかそれ?」


「何も教えてくんないじゃん?」


「お前が黙って消えてくれたらこの場でささやいてやるよ」


「消えてたら聞こえないだろ?」


「だからだよ」


 少し進展したなと思うのは悪態でも返してくれるようになったことだ。

 全く、可愛くないやつだ。


「んじゃ、また後でな」


「2度と隣に座んな」


「へいへい」


 授業も終わり、ジはオロネアのところに向かう。

 学長室ではなく第五魔法訓練室という魔法に耐性のある部屋にやってきたジ。


「失礼します」


「あら、きたわね」


「あっ、ジ!」


「おっ、エじゃないか」


 訓練室に入るとそこにはオロネアとエがいた。

 ジが勧めてからオロネアはエに魔法の鍛錬をつけていた。


 国の兵士としていいのかというと結論はいいのだ。

 オロネアはアカデミーが忙しいと理由を付けて兵士の方の魔法訓練には関わっていない。


 教えるのも上手いオロネアに是非とも教えてほしいと国の方で頼んでいるけど首を縦には振らない。

 なので例え1人でもオロネアに習えるのなら国の方としては文句もない。


 逆にダメだと言ってオロネアの機嫌を損ねるわけにもいかないのである。


「そこのタオル取って」


「これか?


 ほれ」


 休憩用のベンチにかけてあるタオルを取ってエに渡す。

 いつも魔法使いっぽい緩めの服を着ているけど今は運動もできる服を着ている。


 こっちの服の方がエっぽいなって思う。


「あんがと」


「順調みたいだな」


「ふふん、ドラゴンぐらいは倒せるようにならないとね」


「じゃあ俺はエの後ろに隠れてれば安心だな」


「そこは俺が守ってやるからドラゴンなんか倒さなくてもいい!じゃないの?」


「ドラゴンがいるなら倒すんじゃなくて友達になってみたいな」


「じゃあ私もそうする」


「その方が楽しそうだろ?」


「なんか話がすり替わっちゃった気がするけどまあ、そうね。


 ドラゴンに乗って空とか飛んだらスゴそう」


「夢がある話だな」


 こんな会話をユダリカと出来ればいいのになぁ。

 いや、アイツがドラゴンに乗りたいとか言うのは想像できない。


 最後にゃワイバーンに乗って飛ぶんだしな。


「なんの用事で呼んだんですか?」


 エは水分補給に水筒を取りに行ったのでオロネアに向き直る。


「あの子も頑張ってるわよって見てほしかったの」


「……分かってますよ。


 エは誰よりも努力家で、優しい奴です」


「ふふっ、直接言っておあげなさいな」


「それは……恥ずかしい」


「ふふふ……初々しいわね」


「大人だって直接褒めようと思ったら恥ずかしがる人の方が多いですよ」


「嘆かわしいこと……」


「まあそれはいいんですけど、本当にそんなことのために呼んだんですか?」


「いいえ、あなたに前にお願いされた件ですが色良い返事が来ました」


「本当ですか?


 それはよかった」


 水分補給しながらエはオロネアと話すジを見る。

 オロネアはエと接する時に優しくて、ちょっとお節介で、穏やかな声色でいつもニコニコとしている。


 良くお母さんと呼んでもいいのよ、なんていうけど本当に呼んでしまいそうになる時すらある。

 でもジと話す時で時折オロネアはジのことを真剣な眼差しで見る。


 まるで対等な関係みたいなそんな雰囲気を醸しているときがあるのだ。


「すいません、無茶なお願いして」


「いいのよ。


 ちゃんと調べて問題なかったから受けたのですから。


 才能はある子みたいですが環境が良くないみたいです。

 ここに来れば縁はつなげるのでお相手も前向きのようですね」


「ありがとうございます」


「じゃあお願い1つ聞いたからお願い1つ聞いてもらおうかしら?」


「いいですけど俺に何をさせるおつもりで?」


「ただちょっとあの子と話してほしいの。


 なんでもあなたから話してほしかったことがあるそうよ?」


「俺から?


 ……なんですかね?」

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