ゴミも情報も

「もうお前も一商会の商会長なんだ、こんなところで働く必要もないんじゃないか?」


「俺のスタートはここですから。


 まだまだ恩は返せていないですし、この仕事してると朝友達に会えますからね」


「大貴族の娘さんを友達ね」


「身分が高くて教養がある人ほど身分の差になんて気にしないものですよ」


「そこまで身分の高い人と普通は関係なんて持てないんだけどな」


 ジはオランゼのところにいた。

 相変わらず朝のゴミ処理は続けている。


 オランゼとの関係を保つために続けていた仕事だけど今となっては朝にリンデランやウルシュナと会うためにも続けている。

 仕事を終えてそのままアカデミーに、なんてこともできるので結構ありがたいお仕事だ。


「それで今日は何のようだ?」


 来れないことの連絡以外は報告も必要ない。

 それがジとオランゼの今の関係だった。


 信頼しているといえば信頼していると言える。


「今日はお願いしたいことがありまして」


「お願いだと?」


「お金もお支払いするので仕事の依頼、とでも思ってくれれば」


「仕事だと?


 貧民街にまで手を広げるつもりはまだないが……」


 オランゼの仕事は順調だ。

 揺れない馬車の前に試作で作った揺れないから騒音が出ない荷車のおかげか早朝の作業も苦情が減ったし、ゴミ出しの手間が省けると話が広まって事業も拡大していた。


 元々ジの助けがなくてもなんかなっていたので心配はしていなかった。

 いつかそのうち貧民街の方の清掃業務にも乗り出してほしいがそれはオランゼの方がもっと事業拡大をしてからで構わない。


 ジがお金を出して貧民街に事業を拡大させる気はない。


「噂を流してもらいたいんです」


「噂……だと?」


 ジがリンデランやウルシュナと仲が良いことを知っているということはもうその片鱗を知っているはずだ。


「フィオス商会は新しい商品の開発を進めていると噂を広めてほしいんです」


「それをどうやって俺にやれと?」


「ゴミを回収する人たちが少し話すだけでいいんです。


 あくまでも噂。

 それだけあれば十分なんです」


「…………」


 オランゼとご挨拶なんかには向かったけれどリンデランとウルシュナと仲が良いところまでは見ていないので分からないはずだ。

 しかしオランゼはごく普通にジが2人と仲が良いと口にした。


 それはオランゼが知らず知らずのうちにゴミを回収する人たちが見たり聞いたりしたものをさらに聞いて情報を得ているからだ。

 情報屋としての始まりをオランゼは歩みつつあるのだ。


 ただ情報屋というのは情報を集めて特定の誰かに売るのみではない。

 情報の操作そのものが情報屋の真骨頂である。


 広く浅く情報を流して民衆を操作するのもまた上手い情報屋の在り方だ。

 今回はシンプルに期待を煽ってもらう。


 ちょっと早い気もするけどオランゼの方も情報操作に慣れてないから早めにお願いしてみる。


「なるほどな……」


 手のひらの指で押しながら考え込んでいたオランゼの目が怪しく光る。

 広く人を派遣出来るという事業なんてそうそうありはしない。


 ほんの少しそんな人たちの口から噂話が漏れ聞こえさせればいい。

 それだけで噂は噂を呼び、勝手に期待は膨らみ、フィオス商会に注目している貴族たちは目が離せなくなるだろう。


「初めての試みだから上手くいかないかもしれないぞ」


「別に大丈夫ですよ」


 上手くいこうといくまいとどちらでもいい。

 売り上げの伸びがどうなるかが変わるだけで最終的には同じぐらいに落ち着いていくはずだから。


「ならやってみよう。


 久々に面白そうだ」


 もしかしたらこれが情報屋のオランゼのスタートかもしれない。


「あ、後ファイヤーリザードっていう魔獣探してるんですけど契約している人がいたら紹介して欲しいんです。


 こっちも報酬払いますから」


「じゃあどれぐらいの金額がいいのか相談だな」


 ここに至ってジとオランゼに年の差は関係ない。

 同等のビジネスパートナー。


 オランゼはジが子供であることなど忘れてしまっていた。

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