卵を抱えた少年3

 オロネアが指を振ると空中に水で出来た簡易的な地図が浮かび上がる。


「この国は西を帝国と接しています。


 帝国は表面上この国とは関係性は悪くないですけど実際のところは微妙な関係にあります。


 このアカデミーにも帝国出身の子は多くないのです」


 そんなこと言っていいのかとジは驚いた。

 隣の国との関係が水面下で良くないなど本来言っては良くないだろう。


「どうしてそうなのかは……流石にここで言うことは出来ませんね。


 それは各々自分で調べてみてください。


 自分の目や耳でしっかりと調べることは大切ですよ」


 バチリとオロネアと目があった。

 オロネアがいきなり授業なんかをしに来たのは自分がいたからだとジはなんとなく察する。


「そして東は海に面していて海上貿易が盛んであり、南はいくつかの国と国境を共にしています。


 そして皆さんがあまり知らないのは北方地域ではないでしょうか。


 北方は正確には国ではなく、この国では蛮族と呼ばれる少数部族が……」


 真面目に授業を聞く。

 成績が出ることもテストを受けることもないのでそんなに真面目に授業を受けなくてもいいのだけどせっかく受けるのなら真面目に受けるのだ。


 オロネアの説明は分かりやすかった。

 なんとなくで覚えていた国に関する知識をしっかりとまとめてくれていて改めて置かれた状況を考える基礎になりそうだ。


 卵を挟んで隣に座るユダリカも真面目に授業を受けている。


「ということで北方の蛮族はこの国の歴史と共にありこの国を悩ませてきたのですね。


 ……少し早いですが授業はここまでにしましょうか。


 他国あるいはこの以外の外との関係は何も良いものばかりではありません。


 良いところばかりでも、悪いところばかりでもなくそれぞれの目でしっかりと考えてみてください」


 子供相手だからと誤魔化そうとしないでしっかりと教えてくれる。

 話し方も上手く題材としては子供に飽きが来そうなものだったのに最後まで聞けてしまった。

 

 オロネアがする特別授業の人気が高いのも納得だ。


「どうでしたか?」


「お久しぶりですね、学長」


「ふふっ、そんなにかしこまらなくてもいいですよ。


 なんでしたら……」


「ちょちょちょ!」


 お母さんと呼んでもいいですよ。

 オロネアがジに会う時にいつも言う常套句。


 別にそれはいいしなんなら呼んでやろうかと思うこともあるが今は流石に周りの目がある。

 こんなところでそんなことを言われてしまっては目立ちすぎて好きに潜入出来なくなる。


 ただでさえオロネアに話しかけられただけで目立っているのに。

 ユダリカが隣にいるおかげでユダリカに話しかけているとみんな勘違いしてくれているけどあまり長話するとバレてしまう。


「エさんは結構来てくれますよ?」


「そっちが来てるならいいじゃないですか?」


「あら、男の子も女の子もどちらも欲しいと思うのはわがままかしら」


「そんなことはないですけど俺とエの2人なら贅沢かもしれませんね」


「ふふふ、エさんも会いたがっているので時折でいいから顔を出してくださいね」


 お淑やかなのに意外とオロネアは押しが強い。

 気に入っているとも口にだして言うので困るけど嫌な感じもしない。


「……すまないな」


「…………どうせ昼メシ食べるだけだから」


 オロネアが目の前にいて移動する機会を逸してしまったユダリカはジとオロネアの会話が終わるまで怪訝そうな顔をして視線を逸らしていた。

 卵を風呂敷で包んで背中に背負う。


 頑なな態度で険しい顔してんのにちゃんと卵は大切に抱える姿は好感が持てた。


「何ニヤついてんだよ」

 

「いや、なんか可愛いと思ってな」


「はっ……はぁっ!?


 可愛いとか何言ってんだよ!」


「いやだって……」


「う、うっせえ!」


 途端に顔を赤くするユダリカ。


「お、お前変態なんじゃねえの!」


「えっ……」


 よく分からない暴言を吐かれてよく分からないままに立ち去られてしまった。

 理由も分からず立ち尽くすジ。


 可愛いと言われるのが嫌だったのか。

 年頃の男の子なら確かに可愛いと言われることに抵抗感があるかもしれない。


 それとはちょっとばかり違う反応にも見えたけど。


「ま、いいか」


 このまま教室にいても何にもならない。

 ジも移動することにした。


「日替わり」


「日替わりねー」


 正直な話アカデミーになんで来てるかっていう理由のいくらかは学食が食べられるからである。


「なんでここ座るんだよ!」


「なんでって昼時だしお前の周り空きばっかじゃん」


「お前さっきから俺のこと馬鹿にしてんのか?」


「一緒に飯食ったぐらいで馬鹿にしたことにはならんだろ?」


 ジは学食に来てユダリカの前に座った。

 卵を隣に置いているのでしょうがなく真正面に座ることになった。


 ユダリカの周りはぽっかりと空いていて目立っていたし、誰も座っていないから簡単に座れた。

 なんでこんなことになってるのかは疑問だけど聞いたところでジの態度が変わるでもない。


 ユダリカはジのことをすっかり警戒してしまっている。

 是非とも仲良くなりたいのに今のところ上手くいっていない。

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