卵を抱えた少年2

 人の運命に介入してしまう可能性があると聞いてしまったので意外と悩んだ。

 ジの行動1つで他人の運命を変えてしまう可能性がある。


 エスタルによるとちっさい運命でもない限りはそうそう簡単には壊せないらしいけど何が影響を与えてしまうのかは常にエスタルをそばにでも置かないと分からない。

 しばらく大人しくしていたジ。


 特にやるべきこともなかったし商会の方も順調で大きな貴族の馬車は作り終える見通しも立ってきた。

 そろそろ次の顧客確保もしなきゃなと思いながらまたアカデミーに忍び込んで好みの授業を受けてお昼を食べた時だった。


 背中に風呂敷で卵を背負った少年を見たのだ。


「あーとね、その子はユダリカ・オズドゥードルだね。


 半端な時期だけど最近入ってきた子だよ。


 槍術が優秀で座学もちゃんとできるけど魔獣がまだ生まれてなくて魔法や魔力に関しての実力は不明。


 寮に入ってるけど同部屋の子とも仲良くないみたいだね」


 そこでジはアカデミーの全てを知っているエスタルのところを訪れた。

 チラリと遠目に見ただけだし見間違いの可能性もある。


 こんな時にはエスタルに聞いときゃ間違いはない。

 卵を持っているという大きな特徴があるので質問して答えを得られるのも容易かった。


 お話に聞いただけだったので卵を抱えた少年について実際の年齢やジとの活動時期の重なりなどを考えたことがなかった。

 戦争で活躍したということはジとは近い年齢や生きていた時期が同じであったことに気がついた。


 遠い世界や時の話のように聞いていたけれど王国の戦争の話なんてごく身近なものだった。


「何の授業受けてるか分かるか?」


「そりゃもち。


 ちなみに関係ないけどオススメはマーロン先生の野外でも使えるお料理術だよ。


 リンデランも受けてるし、食堂の料理のいくつかもマーロン先生が考えてるんだ」


「リンデラン料理もうまいもんな。


 そんなことは今はよくて、ユダリカの受けてる授業だよ」


「オッケーオッケー。なんか適当な紙に書いて渡すよ」


「あんがと」


「何でまた卵を背負った彼に興味を持ったの?


 あんまり魔力的なところはダメだけど剣術がすごいところに共感を覚えたとか?」


「ふっ、あの子は俺なんかよりよっぽど凄いよ」


「キミより凄い子なんてほとんどいやしないよ」


「いやいや、俺は平凡な貧民の子供だろ?」


「キミが平凡な貧民の子供なら今ごろこの国は貧民でひっくり返されてるよ」


 特に嫌味でもなさそうに自分を平凡だと言うジ。

 運命云々は平凡とはいかないけれど能力的な側面で見るとジの能力は決して高くはない。


 今は人生を経験した過去があるからそれで何とかなっているけどそんなものすぐに限界を迎える。

 そもそも何もしなかったような人生なので積み重ねたものもそんなにないのだ。


 これから能力の差はあらわになっていくだろう。


「国はひっくり返るかもな……」


 そしてこれから起こる出来事にはジだけではどうしても立ち向かえないのである。


 ーーーーー


「あれがユダリカ……」


 正確にはジの年は分からない。

 回帰してきた頃からもはや何年か経っているけど未だ年は判然としない。


 調べようとしたこともあるけどジを拾ってきた爺さんは何ヶ所か貧民街を転々としていたようでジの年は分からないのだ。

 体格的にはだいぶマシになったジだけどまだ普通ぐらいの体格。


 ユダリカは割と大きめでがっしりとした体型をしていた。

 ジよりも年上だろうか。


 とりあえず取っ組み合いになったら確実に勝てない。


 教室の隅でポツンと隣に卵を置いて座っていた。


「なあ、ここいいか?」


「……好きにしろ」


 目標としては最低限王国のために戦ってほしい。

 友達になれれば良く、仲間になってくれれば最上級である。


 まずは話しかけられるぐらいの関係性は築きたい。


「卵?」


「うるさい」


「俺この授業初めてなんだけどどんな先生?」


「お前よりはマシだろう」


「君の名前は?」


「卵」


「君のこと殴ってもいいか?」


「やってみろ」


 このクソガキと思わずにはいられない。

 過去の話では触れられていなかったけれどこんな荒んだ性格していたのか。


 こりゃいじめられるわ。


 いや、こんな性格になったのも周りの環境が故かもしれない。

 過酷な環境に置かれて身を守るために攻撃的にならざるを得なかったのだろう。


 そうじゃなきゃ性格悪いって。


「みなさん、席につきなさい」


「えっ?」


 どう話しかけらいいのか悩む。

 こう考えると身の回りにいる奴はみんな気のいい人ばかりだなあとしみじみ思う。


 変に声をかけても好感は得られない。

 それどころか喧嘩になってしまいそうである。


 軽くため息をついて悩んでいると先生が入ってきた。

 中年の男性先生による講義だと聞いていたのに入ってきたのはオロネアだった。


「急きょドラム先生は体調を崩されましたので私が特別講義をしたいと思います。


 今日はそうですね……この国の状況を少しお話ししてみましょうか。


 平和に見えるこの国でも非常に微妙なバランスの上に立っていて大人たちは日々苦労して緊張感を保っています。

 他の人はこのような話はしないでしょうけどたまにはあなたたちも知る必要があることです」

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