運命を壊す者2

「だからそれってどういうことだよ!」


 一気に不安になるジ。

 運命が視られるとか眉唾ものの話なんて軽く聞いておけばよいと思ったけどいざ不穏なことを言われると気になってしまう。


 運命が壊れているなどとても聞こえのいい言葉ではない。


「これは悪いことでもあり、良いことでもあるんだ。


 どう言ったらいいのかな……そう、キミは運命という鎖から解き放たれて自由になったんだ。


 重たくて悲しい運命も、明るくて楽しい運命もキミを捕まえることは出来ない」


「一々言い回しが小難しくて分かんないぞ」


「キミの運命はない……つまりキミがどう生きるかは全てキミ次第なんだ。


 会いたいと思ってもその人に会えるかは分からず、何もしなくても何も起きずにキミの人生の時は進む。


 キミの人生はキミ自身が動いていかなきゃいけない。


 これは悪い点でもあって良い点でもあるんだ。

 何事もキミが自分で考えて自分で動くのは大変なことだけど、無限の可能性も秘めている」


 驚きが一転楽しそうな顔をするエスタル。


「そしてもう一個。


 運命に囚われない人は他人の運命にも影響を与えるんだ」


「どういうこと?」


「分かりやすい例としては死の運命だ。


 重たくて黒くていやーな運命で避けられる人なんてほとんどいない。


 だけどキミは他人の運命に介入して死の運命すら壊してみせることができるのさ!


 いや、ただの例だけど身に覚えもあるんじゃないのかい?」


 エスタルはリンデランに視線を向ける。


「どうしてわかるんだ?」


「否定しないんだね?


 ふふっ、リンデラン、キミの運命はとても少ない」


「す、少ない……んですか?」


 どう捉えたらいいものか。

 ジのようなものなのか、それとも少ないと悪いことなのか。


「別に運命の多少はあるから少ないからって気にすることはないけどキミの運命は少なすぎるんだ。


 まだまだ子供で長い時間が与えられているのに予定された運命があまりない。


 それはつまりキミの運命は何かを乗り越えたってこと。


 本来予定されていた終わりの運命を乗り越えて予定されていない運命を歩んでいるんだ」


 ジは言葉を失った。

 思い当たる節がありすぎて何も言えない。


 ジはリンデランの運命を壊した。

 元々リンデランはあの廃屋で死を迎えるはずだったのにそこにジが介入してリンデランの死の運命とやらをぶっ壊したのだ。


 そこで終わるはずの人生だったのだからその後に予定された運命はないはずである。

 けれどごくごく稀にそうした運命を乗り越えられる人もいる。


 なので一応運命を乗り越えた先の運命も少しだけどあったりするのだ。


 リンデランの運命は極端に少ない。

 そして暗くて重たい運命のかけらも視えた。


 何かの運命を壊して乗り越えたのだとエスタルは視た。


「運命が少ないからほとんど好きに生きられるけど他人の運命に介入できるかは分からないかな」


「やっぱり……そうだったんですね」


 リンデランが熱っぽい視線をジに向ける。

 あの日あの時リンデランは死ぬはずで、ジがそれを助けてくれた。


 胸がカーッと熱くなる。

 ドキドキとして、胸の熱が顔まで上がってきて苦しくなる。


 分かっていた。

 分かっていたけれどジはリンデランの命を運命という争いようもない大きな波から救ってくれた。


 死ぬのが決まっていたのにそこから助けてくれただなんてどう恩返ししたらいいのか。


「ね、ねえ、私は!?」


「エちゃんはねぇ……普通」


「ふ……!」


「ふつー」


「ええ〜!」


「いやいや、そんなもんだよ?


 でもちょっとだけジ君の影響が視られるからもしかしたら本来とは異なった人生を歩むことになるかもね」


「ふーーーーん……」


「そんな不満そうな顔されてもなぁ……」


 エはジがケガしたことは知っていてもリンデランとの出会いについて詳細には知らない。

 なんだか自分の知らない話が2人の間にあってすごくズルいと思った。


「まあもしかしたらジ君の周りの人はもうかなり影響を受けているかもしれないね。


 ただ気をつけてね、キミが行動すると変わる。


 良い方にも、悪い方にもだ。

 死の運命を壊すこともできるし、あるいはキミがその人にとっての死の運命になることだってできるかもしれないんだ」


「死の運命を……壊す、か」


「でもごめんね。


 偉そうに言って運命結局視れなくてさ」


「えっ、私は視れるんじゃないの?」


「視れるけど……多分意味がないよ?」


「なんでなんで?」


 エの運命が普通だというなら視れるはず。

 それに視れないのではなく意味がないとはどう言った理由だろうか。

 

「言っただろ?


 キミはもうジ君の影響を受けてるって。


 キミがジ君と2度と会わないなら運命はそのままかもしれないけど……」


「……そんな訳の分からない運命のためにそんなことしないよ!


 あっ、いやっ、別に一生一緒にいるとかそういう訳じゃなくて、約束したし!


 約束したから一緒にいるし……まあ、一緒にいたいってなら?」


「なんでいきなり上から目線になんだよ?」


「だからエちゃんの運命視ても変っちゃうかもしれないから意味がなくなっちゃうんだ。


 ただ……」


「ただ?」

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