運命を壊す者3
「ただ今見える運命だけでも波瀾万丈そうだね。
流れに身を任せて何もかもを諦めると楽だけどきっとそれはキミが望んだ運命じゃないと思う。
諦めない、強い意志を持って」
「わ、分かった……」
実はエには複数の運命が視えた。
確定しない、起こり得る複数の可能性がある。
多分ジの影響だろう。
諦めて、流されるままに生きれば楽で困らない人生になる。
多少の争いはあっても持ち前の頭の回転の早さと能力の高さで解決して、結婚して、子供も作って幸せに生きることができる。
……表面上は。
「色々言ったけど、運命は絶対じゃない。
強い意志を持ってたち向かう勇気を持てば運命は変わり得るんだ」
幸せな環境なのに時折物思いに耽り、暗い顔をする。
それが本当にエにとって幸せな未来なのか。
それよりも暗い環境、辛い環境であっても目は輝き、大切な人と共に笑える方が幸せなのではないかとエスタルは思った。
これはエスタルの考えで、エが同じように考えるかわからない。
だから何も言わない。
願わくばエが心から笑っていられる運命を選んでほしい。
きっと、ジと一緒なら大丈夫だとも、そう思えた。
「運命の話はこれで終わり!
ほとんど視ることができなかったから……代わりを考えなきゃね。
とりあえずは事前に考えておいたダンジョン攻略のご褒美をあげよう!」
「やった!」
「も、もしかしてこの中から貰えるんですか?」
「おっ、良い勘してるね!
そのとーり!
僕がキミたちに見合ったアーティファクトをプレゼントするよ!」
これについてはジも流石におっ!って思う。
過去ではアーティファクトなんてものとは無縁だったのでどんなものがあって、どんなものが良いものなのかは知らないけれどアーティファクトというものは知っているし、貰えるなら欲しい。
アーティファクトとは不思議な力を秘めた魔法の道具のことで人が作ったものもあれば出自の不明なアーティファクトもある。
効果も違えば、同じ効果でもアーティファクトによっては効果の強さも違っていて、高等なアーティファクトになると天文学的な値段になる。
2度と手に入れられるものではないので金銭に換えることなどないが価値を考える上で金銭的な側面を考えちゃうのはしょうがない。
「まーずはーリンデラン!」
エスタルは跳ねるように宝物庫の奥に走っていく。
そして何かを抱えて戻ってきた。
「見たところ氷の魔法の使い手みたいだからね、そうした魔法を補助してくれるアーティファクトがいいと思うんだ。
これはかつていた氷の女王が作ったとされるアーティファクトさ!
ほい、受け取って!」
「あっ、はい!」
エスタルがリンデランに渡したのはバングル。
2匹の白い龍が絡み合うようなデザインでまるでメデリーズの額の宝石を思わせる青い石に噛み付いている。
「氷属性の魔力を強化してくれるものなんだけど普段から持ち主の魔力を貯め込んでおいて戦いの時に補助してくれるんだ。
魔力を使って持ち主を守ってくれるし、いざとなればバングルに貯めた魔力でもある程度戦えるんだ。
そしてこのアーティファクトの目玉機能は龍の胃袋さ」
「龍の胃袋とは何ですか?」
「そのアーティファクトには亜空間魔法が備わっているんだ。
つまりはただのバングルに見えてもそのバングルの中には多くの物を入れておけるんだ!」
「えっ……それって」
亜空間魔法の魔道具とは準国宝級アーティファクトにも匹敵するものである。
魔法で作られた現実とは異なる亜空間に物を入れておけるアーティファクトはかなり希少なもので持っている人も公言しないために滅多にない存在のものである。
魔道具としてリンデランを強化してくれるというだけでなく亜空間魔法の魔道具でもあるアーティファクトなんて聞いたこともない。
「エアダリウスは氷あんまり使わなくてしまいっぱなしだったから是非とも使ってよ!
まだ知らない機能もあるかも知んないしね」
「ほ、本当にいいんですか?」
「これもエアダリウスの最後の意思なのさ。
死蔵されてしまうより誰かが使ってくれた方がいいから」
「わ、わぁ……ありがとうございます!」
「うん!
キミたちが頑張って乗り超えた証だからね!」
「あ、あの……ジ君?」
「ん?」
「その……私にこれ着けてくれますか?」
嬉しさと変なことをお願いする恥ずかしさに頬を赤く染めてリンデランはそっとバングルをジに渡した。
そして期待を込めるような目をしながら右手を差し出す。
「ほーぅ」
なんだか嬉しそうに目をキラキラさせるエスタル。
若いっていいね!
手首を取ってバングルをスルッと手に通す。
サイズがやや大きいので特に手を通すのに苦労もない。
着けてやるとリンデランがヘラッと笑う。
「でもちょっと大き……」
「わっ!」
ちょっと緩すぎて手首からすぐに落ちてしまいそうだと思っていたらシュンとバングルが縮まってリンデランの手首ピッタリになる。
「ふふっ、そのセッカランマンはそれぐらいできるのさ!」
「セッカランマン……素敵ですね」
リンデランは嬉しそうに笑ってセッカランマンの青い宝石に触れる。
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