運命を壊す者1

「ぐぇ……重い…………」


「なんだって!」


「いてっ!


 2人も乗ってて重くないわけないだろが!」


「これはクマさん……ですか?」


 ジたちは固い地面、ではなく柔らかい何かの上に落ちた。

 さらにエとリンデランはジの上に落下していたので完全に無事であった。


 よく見ると落下したのは大きな人形の上。

 リンデランが覗き込むように見るとそれは巨大なクマさん人形だった。


「い、いいから降りてくれ〜!」


「あっ、ごめんなさい!」


「いいじゃんこのまま尻に敷いとけば」


「よかねぇよ!」


 2人に降りてもらって、クマからも降りる。


「ここは……」


「なんだか美術館みたいですね」


「私はそんなところいったことないから分かんないな」


「これが宝物庫ってやつだな」


 降りて改めて周りを見回すとこれまでとは全く異なる光景が広がっていた。

 広い場所に物が所狭しと並べられている。


 壁にかけられていたり、机の上に乗せられていたり、大きい物だとそのまま床に置いてある物もある。

 剣や鎧などの武器から皿やフォークなんかの食器類、なんだかよく分からない物までズラリと並んでいる。


「ようこそ、エアダリウスの宝物庫へ!」


「テメェ!」


「ふぁふぁ、いふぁいよ!」


「リンデランに言ったから殺しゃしないがこれぐらいはさせてもらうぞ!」


 一通りジたちが驚いたのを確認してエスタルが現れる。

 またくだらないことをしてくれたので怒ってジがエスタルの頬を引っ張る。


 意外と柔らかくて、思いの外伸びるのでちょっと楽しいけれど引っ張られているエスタルは楽しいどころではない。


「はーなーせー!」


 ジの手を弾いて、エスタルは頬をさする。


「痛いぞぅ……」


「くだらないことすっからだ」


「僕に厳しくない?」


「自分の行動を鑑みてから言うんだな」


「それで何貰えんの?」


 いろいろな物がある。

 エやリンデランはアーティファクトに宿った魔力を感じてワクワクしていた。


 何のアーティファクトなのかは分からないけれどどれも一級品。

 ご褒美がもらえる、そしてここに案内されたということはここにあるアーティファクトがもらえるのではないかという期待が膨らむ。


「おっとそうだね。


 まずは特別なご褒美から。


 カーバンクルは人の運命を視ることができるんだ」


「運命……?」


「そう、運命っていうのはほとんど確実に起こりうる出来事の連続なのさ」


「ええと……?」


 リンデラン、あるいはジですらエスタルの言葉が理解できない。


「そうだね、例えば明日君はある人に会うとする。


 それは運命で決まっていることだとしよう。


 すると君がその日をどう過ごそうとも、何らかの形でその人と会うことになるんだ。


 それが運命。

 その間をどう生きるのかは自由だけど決められた避けようのない出来事がいくつも連なっている」


「それを視ることができるのか……?」


「そうだよ。


 普通のカーバンクルは人の言葉を話せないから視れても伝えることはできないけど僕は特別だからね」


「変わらない出来事なのに視て教えてもらってどうなるんだよ?」


 変わらない出来事を教えてもらったところで何の意味もない。

 せいぜい心の中で準備しておくぐらいだ。


「ほとんど場合変わらないけれど変わらないものじゃないんだ。


 運命は変えられる。


 難しくて、ほとんどの人は運命なんて知らないけど知れば変えられることもあるんだ」


「変えられる……のか?」


「さっきの例で言おうか。


 ある人に会う運命があるとする。


 君はそれを知って例えば誰も出入りのできない場所に引きこもるとか、極端な話自分で命を絶ってしまうとかするとその運命は変わってしまう」


「なるほど……」


「運命に定められた出来事は連続的でたくさんあるから全部は見切れないけど大きな出来事を視ることはできる。


 だから重大な出来事について教えてあげようと思ってね。


 君たちぐらいの年齢ならその出来事に向けて努力をすれば変えられる可能性は十分にあるよ」


「運命を変えるか……」


 変えられるなら変えたい。

 これから先に起こりうる悲しみを少しでも減らしたい。


「とりあえず視るだけ視てもいいかい?」


 揺れるジの瞳を見て、悪い感触ではないとエスタルは思った。

 サッと初めてしまえば断られることもないだろうとジの運命を視始める。


 エスタルの額の宝石が淡く光を放ち始めて、ジの顔に視線を集中させる。


「そんな……バカな!」


「な、なんだよ?」


 驚くエスタルに驚く。


「ちょっと2人も見ていいかい?」


「う、うん……」


「どうぞ」


「……うん、そう、なるほど……」


 3人は顔を見合わせる。

 カーバンクルのことだしとリンデランを見てみるけどリンデランも訳が分からなくて首を振る。


 何かを考え込むので待ってみる。

 ブツブツとつぶやいているけどなんと言っているのかは分からない。


「なんと言ったらいいかな?


 ……そうだな、キミの運命は無い」


「なんだって?」


「ジ……君だっけ?


 キミの運命は壊れてる」


「こわ……えっ?」


「壊れてるって言うと聞こえ方悪いけどね。


 君には定められた運命がない。


 僕には見えないんだ」

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