答え合わせ3
ただエアダリウスは魔獣を帰さなかった。
けれどその後エスタルの消息は分からず、勝手に帰ったのだと言われていた。
実は帰っていなかったら?
ジは今回のダンジョンのことをこう予想した。
エアダリウスの死後、契約が切れたエスタルであったが知能の高いエスタルはエアダリウスのことを忘れずに最後まで守り抜こうとしたものがあった。
それが噂の宝物庫なのだ。
誰にも知られていない宝物庫をエスタルは守った。
時が経ち、エアダリウスとエスタルの話はただのお話としてのみ人の記憶に残るようになっていった。
それほどの長い年月エスタルは宝物庫にいた。
誰も入らず、ただその場にいた。
宝物庫にはエアダリウスが集めたアーティファクトがあり、魔力の強い魔物であるエスタルがいた。
アーティファクトやエスタルの魔力が動かずに宝物庫に滞留していき、やがてエスタルも死んで魔力はさらに散っていき、その結果に宝物庫がダンジョン化した。
「宝物庫にはドールハウスのための人形も置いてあったんじゃないか?」
ドールハウスは没になった計画なのだけどそれはダメだから没になったのではない。
ドールハウスの用意を死ぬ間際までしていたエアダリウスがドールハウスを実現させる前に亡くなってしまったので結果的に没になったのだ。
そこに無念の思いもあっただろうし、あとは動かすだけとなっていた人形たち。
それをエスタルが意図したのかは知らないが人形たちを利用したダンジョンとなった。
「これがこの不思議なダンジョンの始まりってところかな?」
「……過去の賢者と君を並べても敵わないかもね。
少なくとも君と同じ年だったら敵う人はいないだろうね」
「ただちょっと違うのは、人形があったから宝物庫になったんじゃなくてドールハウスは完成していたんだ。
宝物庫を守るために試験的に配置されていて僕に統率権があったんだ」
だから宝物庫がダンジョンになって人形が配置され、ある程度エスタルの好きにもできた。
「どうしてこんなダンジョンになって、僕が僕のままダンジョンのボスになったのかは分からないんだ。
ただまるで僕のご主人様の最後の思いが乗り移ったように子供たちを成長させて見守りたいという気持ちがすごいんだ」
「それでアレか?」
見守るどころのことではなかった。
いじめ抜かれような感じだったのに。
「はははっ、そこもご主人様っぽいかな?
期待する子には厳しかったからねー」
「暴風か……」
猛き狂う風のような魔法使い。
この国の建国に寄与したとされる天才魔法使いで風の魔法を操り、容赦のないその戦いぶりから暴風と呼ばれた。
ただ暴風と呼ばれたのは戦い方のみではない。
性格もそんなに良くない人だったのだ。
晩年はアカデミーを創設し若い者の育成に尽力して常に穏やかな笑みを浮かべているような人だったのでそのような印象を持たれているが実はそうなったのは本当に晩年の話だった。
若い頃は性悪だの、性格破綻者だの言われていた暴れん坊だった。
特に敵と気に入った相手には酷いやつだった。
エスタルはそんなエアダリウスの姿を思い出してクスクスと笑う。
あの性格の悪さも少し移ってしまったような気がする。
「ともかくだ、よく分かったよ。
君の……君たちの勝ちだ」
「そうか……じゃあ首を出せ。
苦しまないように逝かせてやる」
「え、えっ!
今そういう流れじゃなかったでしょ!」
「最初から俺は一貫していただろう」
「ご、ご褒美あげるからさ!
許し……許してぇ……」
「ジ君……」
「リンデラン?」
そっとリンデランがジの服を引っ張った。
泣き落としとでもいうのかウルウルとしてジを見上げるエスタルにリンデランが落とされた。
リンデランの魔獣もカーバンクルなので自分の魔獣と重なって見えてしまったのだ。
あんな風にウルウルとした瞳で見られるとリンデランはダメだった。
それに言うほどエスタルが悪くも思えない。
多少度が過ぎたところはあったけれどそんなに憎めるほど悪い子ではない。
見せられたのが悪夢か、良い夢かの差も大きい。
「う……」
エスタルのウルウルが通じなくてもリンデランのウルウルは通じる。
たとえ人形でもスライムを攻撃できなかったジなのだ、気持ちがわからないこともない。
女の子にこんな目で見つめられたことなどないジはどう出たらいいのかも分からない。
「……分かったよ。
リンデランに感謝しろよ!」
コイツ……とエは思った。
自分がウルウルとした目をしてエスタルをぶった切ってくれと言ったらぶった切ってくれるかしらとちょーっとだけ思った。
まあエもイラッとしたけどエスタルを殺したいほどの感情もない。
ただぶん殴りたいぐらいはある。
「ありがとねー」
「いえいえ、あんまりジ君を怒らせないでくださいね?」
本気でジが怒ったら悪魔にでも立ち向かうのだ、先ほども静かに怒るジが怖かったし怒らせちゃダメだと思った。
自分のために怒ってくれることも多いので悪いことばかりでもないけれども。
「わっかりましたぁ!
じゃあごほーびたーいむと行こうか!」
「へっ?」
「お前ふざけんなァァァ!」
「ふぉほほほほ!」
エスタルがポンと前足をたたき合わせると床が抜けた。
最後まで人をおちょくるのが好きなカーバンクルだ。
やっぱ、切っときゃよかった。
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