同じ根を持つ剣と歴史に残る天才3
「キャッ!」
「ウソッ!」
リンデランが落とした氷塊に潰されたはずだった。
完全に沈黙して動きはなかったし終わったと思っていた。
氷塊が爆発するように砕け散り、男性は全く変わらぬ姿でそこにいた。
杖を軽く振る。
それで男性の後ろに風の塊が2つ出来る。
手首を動かしてヒュンと杖の先をエとリンデランに向けた。
風の塊がまるでウルフの顔のような形を成して飛んでいく。
「下がって!」
エが前に出て渦巻く炎を生み出す。
「アイスウォール!」
しかし風のウルフはいとも簡単にエの魔法を突き破って2人に迫る。
「ダ、ダメ……」
リンデランが氷の壁を張って防ごうとするが持ち堪えられたのはほんの数瞬。
ビキリと壁にヒビが入って、次の瞬間には大きく口を開けた風のウルフが2人を襲った。
「キャアアアア!」
圧倒的な実力。
とてもじゃないけど勝てない。
エは自分に回復魔法を使ってなんとか起き上がる。
「ちょっと調整間違えたかな?」
リンデランを見ると意識はあるようだけどダメージは大きいみたいですぐには起き上がれそうにない。
「待ってて……今治してあげるから……」
「ダメです……逃げて」
そうしている間に、男性はゆっくりと2人に近づいていた。
「置いてなんかいけないよ!」
「ここで2人ともやられたら……ジ君が」
「でも……!」
「あっ……早、く!」
男性が杖を上げた。
リンデランがやったように2人の上に渦巻く大きな風の塊が出来上がり、リンデランはエに逃げるように促す。
2人まとめてやられてしまったらジの方に負担がかかってしまう。
1人でも残っていれば、逃げ回ってでも男性を引きつけることができればまだ希望はある。
「……ッ!」
死ぬわけじゃない。
だからリンデランの意図を汲んで逃げようとしたエだったが振り返って絶望する。
風で作られたウルフが2人の周りを固めている。
今度は顔だけではなく全身しっかりと作り込まれたウルフの形をしていて、2人を風の塊の下から逃すまいとしていた。
「難しすぎたか……しょうがないよね、あの人は天才だから」
腕を上げた男性は杖を振り下ろして魔法を2人に落とそうとした。
「ジ……ごめん!」
「2人はやらせない!」
「えっ?」
偉そうなこと言っといて2人かがりでも倒すことができなかった。
それでも最後まで睨みつけてやるとエは男性をグッと険しい顔で睨んでいた。
突然男性の胸から剣が飛び出してきて、エも不思議な少年も男性すらも驚いた顔をした。
不思議な少年が周りを見回すが女性の姿はない。
まさかジが勝ったのかと愕然とする。
風のウルフが形を保てなくてふわりと風と拡散して、巨大な風の塊が消える。
「ジ!」
「悪い、待たせたな」
「……もう!」
「まあ、守ってやるって言ったからな」
ジが男性の胸から剣を抜く。
驚いた顔をしていた男性は振り返ってジを見ると、ジを見てまた驚き、そして優しく笑った。
ーーーーー
全く同じ動きで戦うジと女性。
速さはほとんど互角で、力の方は多少手加減してくれているみたいだった。
ジが驚いたのも短い時間であり、女性の方も今は驚きよりも楽しさが勝るような顔をしている。
しかしジの方に戦いを楽しむ余裕はなかった。
なぜならエとリンデランが相手している男性はとてもじゃないけど勝てる相手ではないと思ったからだ。
ジの方が楽だなんて言えもしないけどまだ勝機があるのはこちらの方だと思っていた。
ジが勝たなければいけない。
それまで2人にはどうにか持ち堪えてほしい。
全く同じ動きなのでただ剣を交えるだけで進展がない。
女性は男性が勝つことを疑っていないのか男性の方を気にする素振りもない。
「ウォルテニア式剣術……」
ジは互いが使う剣術の名前を口にした。
今扱う人はほとんどいない、滅んだ国の軍隊で使われていた剣術だった。
再び同じく剣を振り、剣がぶつかり合い、最後の一撃でジの剣が女性の頬をかすめた。
均衡が崩れた瞬間だった。
「悪いな、あんたは古いんだ」
また同じ剣の軌道を描く2人だったがジの剣が女性の腕を浅く切り、すんでのところで突きを女性がかわした。
途中まで同じ型の動きなのにジの方が1つ女性よりも優れた動きを見せる。
女性の傷が増える。
全く同じ型だと思っていたけれど全く同じ型ではない。
ウォルテニア式剣術は長い歴史を持つ剣術だ。
様々な人が使ってきて、継承してきた国が滅んでもなお使う人がいた。
ウォルテニア式剣術を学んだ中には非凡な才能を持つ者もいた。
剣術の才能に優れて長らく固定化されてきた型をより優れたものに改良できるほどの人物がいたのだ。
その改良がいつ頃行われたのかはジは知らない。
誰が改良したのかも興味はないけれど、今2人が使っているのはウォルテニア式剣術であり同じ根源の技術なのであるがジの方は改良されたウォルテニア式剣術であった。
相手の攻撃に対応し、型の流れも洗練されている。
同じ型の中でも別の変化をさせるものもあってジ自身もウォルテニア式剣術がとても優れた剣術であると思っていた。
改良前も優れているが、天才たちが改良した型の方が優秀なのは目に見えている。
馬鹿正直に同じ剣術のみを使って戦うこともないのに、女性はあくまでもウォルテニア式剣術で対抗することを選んでジに押されていた。
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