同じ根を持つ剣と歴史に残る天才2

「もちろんみんな死んだわけじゃないけど……それでもお怒りみたいだね」


「気分がいいと思うか?」


 生きていると分かっていても仲間が、友達がやられていく様は気分が悪い。

 無理をしないで下がれと言ったのに下がらなかったライナスも悪いけどきっとあの女性はライナスを逃すつもりなどなかっただろうからしょうがない。


「こっちは3人でいかせてもらうぞ」


「もちろん、その代わりこっちも2人だよ」


「構わない。


 絶対にお前のことぶっ飛ばしてみんなの仇取ってやるからな!」


「やってごらんよ。


 勝てたら1発ぐらいは殴らせてあげてもいいよ」


「その言葉覚えとけよ!


 エ、リンデラン、後ろの男の方は頼む!」


 ジが走り出す。

 目標はライナスを倒してくれた女性の方。


「えっ……」


「あの動き……」


「おっと?


 これは……意外だね」


 ジと女性の剣がぶつかる。

 驚きなのはジと女性の動きがまるで鏡合わせのように全く同じだったことである。


 女性の方も驚きに目を見開いている。

 ジはそのまま流れるように次々と攻撃を繰り出し、女性の方も全く同じ動きでジに対抗する。


 グルゼイから教わっているのはただの技術だけではない。

 剣の動きを折り込んだ型があり、基本的な戦い方はそうした型を参考にして変化をさせていく。


 単発の動きなら技と表現してもよく、一連の流れなら型と呼ぶ。

 女性が見せた一連の攻撃の流れはしっかりと形作られた型の動きであった。


 女性は自分と同じ動きをしてくるジに驚いて、そして楽しそうに笑った。

 剣の速度を上げてきて、同じ動きのジを押し切ろうとする。


 しかしジも同じく速度を上げて押し負けない。


「エさん、ジ君がああしている間に2人であの人を倒してしまいましょう!」


 これまでジの戦いっぷりを目の前でしっかりと見てこなかったエは知らなかったジの実力に惚けていた。

 リンデランの言葉に我に返って戦いを優しい顔をして眺めていた男性の方に視線を向けた。


 女性の方は明らかに実力者。

 ならばこの男性の方も素人なんてことはないだろう。


 エとリンデランが杖を構えたのに気がついて男性の方も杖を持った手を上げる。


「ジのこと助けてやんなきゃいけないからさっさと終わらせるよ!


 ファイアーストーム!」


 熱く燃える炎が渦を巻き男性を襲う。

 男性は優しく笑みを浮かべたままそっと杖を振った。


 それだけでエよりも大きい炎の渦が巻き起こり、エのファイアーストームを飲み込んだ。


「なっ!」


「アイスウォール!」


 驚くエの前にリンデランが氷の壁を作り出す。


「エさん!」


 リンデランはエの手を引いて氷の壁の後ろから逃げる。

 男性の魔法に押されて氷の壁が砕け散るのはその直後だった。


「強いですね……」


 エもそれなりに魔法に自信あったのに簡単に力負けしてしまった。


「リンデラン、挟み撃ちにするよ!」


 エは走り出す。

 単純な魔法の技量では敵わない相手だ。


 しかしこちらは2人いる。

 まともに正面から魔法勝負をする必要もない。


 エが男性をリンデランと挟み込む位置に移動する間も男性はそれを妨害することもなかった。

 余裕綽々の態度に腹が立つとエは思った。


「ファイアーボール乱射!」


 エの周りに10数個と火の玉が生み出される。

 杖を勢いよく男性の方に向けるとファイアーボールが発射される。


「アイスランス!」


 リンデランもエに合わせるように氷の槍を作り出す。

 ファイアーボールとアイスランスが男性に飛んでいき、砕け散る氷を爆発が溶かして白い水蒸気が巻き上がる。


「リンデラン!」


 水蒸気の中から淡いグリーンの風の玉が飛び出してきてリンデランを吹き飛ばした。


「わっ!」


 エの方にも風の玉が飛んできて慌てて横に跳んでかわした。


 男性は全くの無傷であった。

 ほんのりと周りに緑の風が渦巻いている男性は風の壁で2人の魔法を防いでいた。


 まだその場から動いてすらいない。


「うぐぐ……」


 まだ子供だから未熟なのはしょうがない。

 しかし子供ながらに強いはずのエやリンデランをはるかに上回っている。


 本当に勝たせる気などあるのか疑問に思う。


「簡単には諦めないよ!」


 炎の玉を生み出すエ。

 反撃する暇も与えさせない。


 流石に少し動こうとした男性だったが足が動かずに視線を下に向けた。


「痛いじゃないですか!」


 男性の足が地面に氷漬けにされて固定されていた。


「吹き飛べ!」


 先ほどよりも数も大きさも上回るファイアーボールが男性を襲った。


「私だってやれますよ!」


 男性のいたところの上に巨大な氷塊を作り出す。

 物理力を持たない風の壁では防げないぐらいの威力があるはずだ。


「押しつぶせ!」


 氷塊が大きいが故にゆっくりに見えるがそこそこの速さで氷塊が落ちる。

 男性は氷塊に押し潰された、ように見えた。


「リンデラン大丈夫?」


 エがリンデランに駆け寄る。

 平気そうに見えてもリンデランは一撃食らってしまっている。


 魔法を受けて打ち付けた背中に回復魔法を使う。


「……すごい魔法だね」


「エさんも凄かったよ」


 パチリと視線が合う。


「ふふっ、治療、ありがとう」


「ううん、これぐらい……」


「いい雰囲気だけど残念ながら……まだ終わってないよ」

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