同じ根を持つ剣と歴史に残る天才1

「この2人を倒すことが最後の試練でーす!」


「お前がボスじゃねえのかよ?」


「ボスだけどこの人たちは僕の力で作り出したモノだ。


 つまりはこの人たちに勝てれば僕に勝ったことになるとは思わないかい?」


「んん?


 そ、そうなのか?」


「そうだよ」


「どっちにしろやるしかないんだろ?


 ライナス、変に考えないでさっさとやろうぜ」


「おう、あ、いや」


「なんかあるか?」


「なあ、ここまで俺何もしてねえからここは俺にやらせてくんねえか?」


「何言ってんのよ?


 わざわざ1人で戦う意味分かんないじゃない」


 何を思ったのか、ここにきて謎のやる気を見せるライナス。

 目立った行動といえば落とし穴に落ちただけなので名誉挽回したい気持ちは分からなくもないとジは思った。


「1人で戦うならこちらも1人だけにしようか」


「おっ、話わかんじゃないか!」


 そういうと女性の方が前に出てきた。

 ライナスに合わせてくれるようだ。


「負けそうなら下がって4人で仕切り直しだぞ」


「分かったよ」


 肩を回しながらライナスが前に出る。


「俺はライナスだ!


 家名はない、ただのライナス。


 よろしく頼むぜ!」


 ライナスの名乗りに女性はニコリと微笑むとゆっくりとお辞儀を返した。

 話せないので名乗る代わりである。


 女性が剣を抜く。

 薄桃色の美しい刃がみんなの目を引いた。


 最初から思っていたことだけど女性の立ち振る舞いには隙がない。

 奇襲しようだなんてこと考えちゃいないが狙おうとする隙すらない。


「さて、先手はライナス君に譲るよ。


 それじゃあ始め!」


 いきなりライナスが突撃していくのかと思ったけれど立ち上がりは慎重だった。

 剣を構えて睨み合ったままジリジリと距離を詰めていく。


 あと一歩で剣が届く。

 ライナスは大きく足を踏み出して剣を振り下ろす。


 落雷を思わせるような素早い斬撃を女性が剣で受けようとするが振り下ろされた剣の手応えはない。

 雷は決して真っ直ぐに落ちるばかりではない。


 剣筋を変化させてライナスは女性の剣を避けた。

 腰付近まで振り下ろされた剣をライナスは跳ね上げる。


 腕に無理がかかる動きだろうに早さを損ねることもなく繰り出される変化。

 しかし女性は全く表情も変えずにライナスの剣を下がることで避けた。


「先手は譲ったからね?」


 不思議な少年の言葉がきっかけだったように女性がライナスに切りかかる。

 薄桃色の軌跡を残して振るわれる剣はまるで花のようで、ライナスは流れるような女性の攻撃を必死に防ぐ。


「……あれはまさか」


 反撃の隙を見つけられないライナスは段々と後ろに追いやられていく。

 まだ切り傷もなくよく防げている方だけど、ただ防げているだけでその先の展開をライナスは描けていない。


 余力を残しているようにも見える女性はさらに速度を上げる。


「ライナス!」


「ライナスさん!」


 ガードが間に合わずライナスの脇腹が浅く切り付けられる。


「くっ……ナメるなよ!」


 ライナスの剣が加速して女性の剣を弾き返す。

 女性が剣を引き戻すのとライナスの姿がブレて見えたのは同時だった。


 甲高い金属がぶつかる音だけが聞こえてライナスが女性の後ろに移動した。

 すれ違いざまに切り付けたのだと分かったのは当人たちとジぐらいだった。


 グルゼイが魔力による斬撃を繰り出す一瞬の妙技を扱うならばビクシムは魔力による急激な加速と停止を己の技としていた。


 ライナスは振り向くとまた一瞬で女性と距離を詰めて切りかかる。

 剣の振る速度も凄まじく、離れて見ているから分かるけれどよく女性の方はあの距離で対応出来ているのだと感心する。


 魔力による加速を繰り返して高速で剣を振っているライナス。


「なになに、いきなりパワーアップしたの?」


「は、速いです!」


 エとリンデランはライナスの剣の速さに目を回していて気づいていない。

 ライナスが鬼のような形相をしていることに。


 あれだけの動きをして体に負担がかからないはずがない。

 最初からああしなかったのには理由があるはずだ。


「くそっ!」


 短期決戦で決めるつもりだったのに女性はやや苦しそうな顔をしながらもライナスの剣を完璧に防いでいた。

 もう長くは持たない、ライナスの方が。


 腕の感覚がなくなっていき、同時に魔力も急激に消費している。


 本来はこんな風に腕だけでやることじゃないのにもはや後戻りもできない。

 このまま押し切るしかない。


「ブッ……!」


 自分の攻撃スピードを維持することに集中していたライナスは気づいていなかった。

 女性は途中から片手で剣を持ってライナスの攻撃を防いでいる。


 速さばかりに目が向いて軽い攻撃は片手でも十分に対応できた。

 攻撃のリズムもいつしか一定になり読まれていた。


 そんなライナスの腹部に女性の拳がめり込んだ。

 攻撃と攻撃の合間のほんのわずかな隙にボディーブローを打ち込んだ。


 素早く手を引くボディーブローにぶっ飛ぶことも許されず、ライナスはフラフラと一歩下がることしかできなかった。


「ヤベ……ジ、ごめん」


 苦痛に顔を歪ませたライナスの胸に剣が突き刺さった。


「ライナス!」


「勝敗は……決したね」


 女性が剣を抜いてライナスがゆっくりと後ろに倒れた。

 ジたちが駆け寄ろうとしたがそばに寄る前にライナスは透明に薄くなっていき、そして完全にいなくなった。


 多分中庭に追い出されたのだろうけどみんなこうなっていたのか。

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