ドラゴンって意外とキレイに見える3

「そうか……」


「おい、ジ!


 どうすんだ!」


 もう壁はすぐそこまで迫ってきている。

 時間はない。


「大丈夫だ!」


「何がだ?」


「ドラゴンなんていない!」


 壁にゆっくりと背中が押され始める。


「いいか、俺のことを信じてくれ!


 あのドラゴンは偽物で、目の前にいないんだ!


 聞こえる声も硬い鱗も、そしてこれから来るだろう攻撃も全部幻だ!」


 ラインの中に足が入った。

 途端にドラゴンが咆哮し、口に赤い火がちらついているのが見えた。


 ブレスが来る。

 全てを焼き尽くす、大人だって防げないだろうドラゴンのブレス。


「あれも全て幻だ!」


 みんながジを見る。

 その眼差しは真っ直ぐにドラゴンを睨みつけていて、とても気休めの冗談を言っているようには見えなかった。


 ドラゴンの口が開かれ、真っ赤なブレスが飛び出してきた。

 正面のジを襲い、壁にぶつかってみんなのところにも炎が広がってくる。


「うわああああ!」


 逃げ場などない。

 ドラゴンのブレスに包まれてみんなの姿が見えなくなる。


「ここまできて……1人か。


 驚いたよ」


 ブレスが晴れ、ジの姿が見える。


「……ダメだったか」


「ウルシュナ……そんな」


 リンデランが口に手を当てた。

 エもライナスもリンデランもいるが、ブレスが無くなった後にウルシュナの姿はなかった。


「彼女は信じきれなかったみたいだね。


 あのドラゴンが偽物だって」


 みんなはジの言葉を真っ直ぐに信じ、ブレスに身を委ねて受け入れた。

 しかしウルシュナは信じきれなかった。


 目の前のドラゴンに対する疑念を払拭しきれずブレスの熱さを想像した。

 そしてそれが現実となった。


 いつの間にかドラゴンの頭の上にあの不思議な少年がいた。

 中性的で穏やかに見えた笑みも今では非常に憎たらしく思える。


 そう、あのドラゴンは偽物だ。

 人形だからとかではなく目の前に見えているドラゴンはいない。


 見えていると思い込んでいるだけなのだ。

 ジはそれに気づいた。


 フィオスは半透明で向こう側が透けて見える。

 考え込んで地面を見つめている時にハッとした。


 このドラゴンには影がない、と。

 フィオス越しに見える地面にはジとフィオスの影があるし、みんなの影もある。


 けれどドラゴンには影がなかったし、ユディットを足で押し潰そうとした時もそうだった。

 つまり目の前に見えてはいるがドラゴンは存在していないのである。


 いないのだ、声が聞こえるはずもない。

 そう思うとドラゴンはただ見えているだけになった。


 体を震わせる咆哮もただドラゴンが頭を上げたようにしか見えず、ブレスの中にあってもわずかな風すら感じない。

 地面も焼け焦げていないし全ては自分が生み出した幻想のダメージなのだ。


「すごいな、4人も残るだなんて予想外……」


 指を打ち鳴らしてドラゴンを消して地上に降りてきた不思議な少年の首をジは有無も言わさず切り落とした。


「うおっ……マジでか」


「そう来ると思ったよ」


「こっちも分かってたさ」


「うえぇっ!


 首がしゃべってるよ!」


 落とされた首が話してみんなが驚く。

 この不思議な少年にも影がない。


 つまり不思議な少年も何かしらの魔法で目の前にいるように見えているだけの偽物である。

 首まで切られたように見せかけるのは大層手の込んだことだ。


「あってそうそう切りかかってくるなんてことやりはしないかなと思ったのにほんとにやるとはね」


 体がふらふらと手を伸ばして頭を拾い上げて首にセットする。


「逆逆……よいしょ」


 前後逆につけられた頭を回して正しい方向に戻す。


「ババーン、はじめましての人もいるね。


 僕がこのダンジョンのボスだよー!」


 敵意もなさそうにニッコニコとする不思議な少年だけどライナスとリンデランは怪訝そうな顔をして距離を取る。


「えー!


 なんでそんな顔するのさー!」


「だって……ジのことこんな怒らせるやつ信用なんかできねえよ」


「ジ君が嫌いなら私も嫌いです」


「もちろん私も嫌い」


「そんな顔しても嫌いだよ」


 全員に拒否されて悲しそうな顔でジを見るがこうなったきっかけはジ。

 ジもきっぱりと渋い顔して嫌うものだから不思議な少年は膝から崩れ落ちてうなだれる。


「俺の友達を傷つけたんだ、ぶっ飛ばしてやるって思ってたよ。


 さっさと出せよ、本体」


「ちょ……ほんとに冷たくない?」


「うるせえ、このダンジョンさっさと終わらせるぞ」


「ま、待って待って!


 まだ終わりじゃないんだ!」


「そうだな、お前を倒しておしまいだ」


「は、話聞いてくれよー!」


「イヤダ」


「い、いいのか!


 それなら一生出てこないぞ!」


「はぁ?」


「このまま引きこもっちゃうぞ!」


 コイツ……という感想しか出てこない。

 ガチで怒るジにみんなかける言葉もない。


「終わりじゃないならなんだ。


 早く次を出せ。


 さもないとオロネアに頼んでここの入り口がある部屋を岩で埋めるからな」


「わ、わっかりましたぁ!


 えーい!」


 不思議な少年がパンと手を打ち鳴らすと2人の人が現れた。

 中年に差し掛かったぐらいの男女。


 男の方はローブ姿で優しそうな顔をしていて、女性の方は腰に剣を差し楽しそうに笑っている。

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