同じ根を持つ剣と歴史に残る天才4
正直言ってジの剣に関する才能は低かった。
同じ師匠に師事して同じタイミングで同じように学んだらライナスの方が遥かに優秀で、もしかしたらエの方がジよりも上手くなっていたかもしれない。
だからジは努力した。
今はそんなに余裕もないけどグルゼイの弟子になったころはまだ余裕もあったし、エもライナスも出ていてしまったので暇を持て余していた。
ひたすらに型を繰り返した。
思い通りに体が動かなくて、想像したように剣が振れなくて悔しい思いをした。
出来なければ何回でもやればいい。
才能がなくて覚えが遅くても努力すればいい。
今ジはそれなりに強いがそれは剣の才能などという恵まれたものがあったからではない。
泣きそうなほどの劣等感に苛まれながらも諦めなかった努力の結果が現れているのだ。
過去の天才たちが改良してきた型も難しい変化もジは自分のものとしてきた。
女性の剣がジの脇腹をかすめる。
ズキリと痛む脇腹に本当にこのダンジョンの中では死なないのか疑問に思える。
ただジは止まらない。
これをやると相手の剣を防ぎきれないことはわかっているがそれも織り込み済みで攻める。
その代わりに腕をいただく。
鬼気迫る表情のジの剣が女性の腕を切り飛ばす、この光景を見てるものはいなかった。
「……俺も少し楽しかったよ」
型は腕を切り飛ばして終わりではない。
ニヤリと笑う女性。
同じ剣を持つものとしてなんとなく心が通じた気がする。
脇腹から肩にかけて下から上へと斜めに女性を切り裂いた。
この女性が本気で戦ったならジは勝つどころか短い時間でも持たなかった。
なのにこの女性はあえて同じ剣術の型だけを使いジと勝負した。
声を出せない代わりに剣で会話した、そんな気持ちにさせられた。
最後まで楽しそうに笑いながら女性は消えていった。
是非とも会ってみたい人だったな。
「キャアアアア!」
その時2人の声が聞こえてきた。
魔法にやられて転がるエとリンデラン。
意外と深かったのか脇腹の傷が痛むが女性に思いを馳せている場合ではない。
やはり男性は強かった。
魔法は剣以上に鍛錬が難しく年齢や才能がその強さに大きく関わってくる。
仮に才能が同等でも重ねた月日の差は大きい。
それに、彼に慈悲はない。
仲間は絶対に守るが敵と認めたものは徹底的に叩き潰したなんて話があったはずだ。
2人に男性が近づいていく。
「間に合え……!」
ジは走り出して、完全にトドメを刺すつもりの男性の胸に向かって剣を突き出した。
「2人はやらせない!」
バレるなり何かの反撃なりあると思っていたのにあっさりと胸に剣が吸い込まれていった。
「ジ!」
「悪い、待たせたな」
「……もう!」
「まあ、守ってやるって言ったからな」
ジは男性が本当にやられたのか疑いながらも剣を抜く。
運が良かった。
女性のことは信用しているが当然のことながら男性は警戒も行っていた。
しかし魔法による警戒、しかも魔力を感知するものだった。
ほとんど魔力がないと言っていいほどのジ。
幸か不幸かジは魔法による感知に引っ掛からなかった。
魔法でしか感知していなかった盲点をたまたまジがつくことになったのだ。
男性は振り返った。
そこには自分の年齢の半分にも行かなそうな少年がいた。
驚いたが、こう思った。
また彼女らしいことをしたのだな、と。
これだから飽きないのだ。
男性は女性を倒したジに対して優しく微笑みかけるとスーッと姿が薄くなって消えていった。
「あっはっはっはっ!」
「面白そうだな」
「まさか倒しちゃうだなんてね!
くぅ〜魔法バトルの方を見ててそっち見てなかったよ……
僕の記憶の影響が大きいからね、彼女は君を気に入っちゃったのかな?
何はともあれ君たちの勝ちだ」
パチパチと拍手をしながら不思議な少年がジに近寄ってくる。
エとリンデランがやられかけていたのだ、何も面白くない。
「そうか。
じゃあ本体出てこい。
ぶった切っておわりにしてやるよ」
「はははっ、最後まで嫌ってくれるね?
……まあ僕を倒すのはご褒美をもらってからでもいいとは思わないかい?」
「ご褒美?」
「そ、ダンジョンをクリアする目的はご褒美があるからさ。
魔物の魔石だったり、中には何かお宝があることもあるだろ?
君たちはダンジョンをクリアした。
だからご褒美があって然るべきだ。
道中の魔物は偽物だから魔石とか素材とか手に入らないしね」
「ご褒美ってなんですか?」
リンデランの治療を終えて2人もジのそばにくる。
話は聞こえていた。
貰えるものがあるなら是非とももらっていきたい。
こんなに苦労したのだし、初めてのダンジョン攻略だから記念になる何かがあれば嬉しいとリンデランは思った。
ついでにウルシュナにちょっと自慢してやろうかななんて思ってもいた。
「おっ、話が分かるお嬢さんだ。
……もう何をあげるのかは決まってるけれど、1つチャレンジをしてみないかい?」
「なんだと……?」
「いやいやいや!
そんな怖い顔しないで!
何かと戦うとかそんなことじゃないんだ。
少しクイズに挑戦してもらいたいなと思ってさ。
正解したらご褒美増やしてあげちゃう」
「なんでそんなことわざわざ……」
「さてクイズです!
僕はなんでしょうか?」
人の話も意向も聞かず不思議な少年はクイズを出した。
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