バカヤロウ3
「オーク、スケルトンときて、次は……ゴーストか?」
魔物の人形を作って売るのも面白いな。
そんなことを考え始めていた。
出現する魔物の種類は多彩さを増し、ジも舌を巻いた。
デフォルメのやり方もうまく、ある程度魔物としての威圧感を残しなんの魔物か分かるようにしながらも過度な恐怖感を与えないようにしてある。
ウルフのぬいぐるみがジは欲しかった。
第二セーフルームを出発してさらに進んでいくと魔物は1段階上のものになった。
豚にも似た容姿をしたオーク、の人形とか人の怨念が肉のなくなった骨を動かすアンデッドの魔物のスケルトン、の人形とかまた新しい魔物が出てくるようになった。
そして今度はゴーストの人形である。
後ろ姿は白い塊でやや滑稽。
本来は半透明なはずのゴーストだが人形ではそこまで再現しきれない。
浮いているのは不思議だがある意味これまでで最も弱そうに見えた。
「おっしゃ、いくぜ!」
「ライナス!」
1人飛び出していくライナス。
「もらったぁ!」
ふよふよと浮いて移動するゴーストの背中を切り付けた。
「へっ?」
確かに剣はゴーストに当たったはずだった。
なのにゴーストは切れずに何の感触もなくまるで空振ったような感覚。
「エ、魔法だ!」
「う、うん!」
グルリと振り返り、ライナスに襲い掛かろうとするゴースト。
常に準備をしていたエは素早く魔法を放ち、火の球がゴーストに飛んでいった。
「うわっ、アッチ!」
ライナスに攻撃する寸前のゴーストに火の球が当たってゴーストが大きく炎上する。
火の球の勢いに押されて飛んでいったゴーストはそのまま燃えて消えてしまった。
「大丈夫か、ライナス」
「大丈夫……だけどよ。
一体何だったんだよ?
確かに俺切ったぜ」
「それはあいつがゴーストだからだよ」
「ん?
どういうことだよ?」
「ゴーストに対しては物理攻撃は効かないからな」
魔物のゴーストには剣で切るなどの物理的な攻撃は通用しない。
神聖力の込められた武器を使うか、魔法を使わなきゃゴーストにダメージを与えられない。
どこまで再現しているか不明だったけれどゴーストの物理攻撃の効かなさも再現されているようであった。
いくら見た目が人形でもダンジョンに常識を当てはめて考えてはいけないのだ。
「今回はエがちゃんと構えていてくれたからよかったけどもっと慎重にならないと」
「……別に大丈夫だったし」
「ライナス?」
「俺も魔法使えるし、あれぐらい別に平気だった。
慎重になれって何だよ……結局やってみなきゃ分かんなかっただろ!」
明らかにイラついているライナス。
「確かにそうだが分からないなりにフォローする体制ってものがあるだろ」
「だからんなもんイラネェって言ってんだろ!」
「……いるよ」
「ちょ、2人とも!
こんなところで言い争いしてどうするのよ!」
「ライナス、お前は後ろを警戒しろ」
「なんだと?」
「集団として動けないなら下がってろ」
「なっ……」
「今このパーティーのリーダーは俺だ。
今のお前を前に出して戦わせることはできない」
「こんなかで1番弱いくせに……」
「ライナス!」
「お前のいう通りかもしれないけど少し頭を冷やせ……」
完全に雰囲気が悪くなってしまった。
ムードメーカーでもあったライナスの機嫌が悪くなってしまったらみんなの雰囲気を持ち直すのが難しい。
こういう時大人だったらもっと上手く出来るのかもしれないがみんな子供だし、ジは過去に年寄りになるまで人付き合いが少なかったので場の雰囲気を取り持つのが上手くない。
ピリついてはいるがゴーストはエやフの魔法、あるいはユディットの魔法剣が通じることが分かったので進むこと自体は問題がなかった。
「……なんだ?」
ジが抱いた感想は異様。
分岐もなく真っ直ぐに伸びた通路。
ずっと続く通路のど真ん中に3匹のゴブリンがジたちに背を向けて座っている。
「……なんか怪しいな」
ここにきてゴブリン。
しかもジッとただ座っているだけというのも何だか違和感を感じた。
「なんだよ、ただのゴブリンじゃないかよ」
「いや、ただのゴブリンだから慎重にならなきゃいけないんだ」
「チッ、なんだよそれ。
俺が行ってやるからフォローの体制でも整えてろよ!」
「おい、ライナス!」
何か嫌な予感がして違和感の正体を突き止めようとするジに業を煮やしたライナスがジの静止を振り切って飛び出した。
慌てて後を追いかけるがライナスの足が速く、あっという間にゴブリンに近づいていく。
「たかだかゴブリン……が…………」
振り返ったゴブリンはニヤニヤと笑っていた。
「ライナスッ!」
ガコンと音がして床が開いて抜けた。
罠。落とし穴。
落とし穴のど真ん中にいたライナスは何もできずに落下を始める。
「フィオス!」
「会長!」
ジがフィオスを呼び出して細長い棒状にする。
穴に飛び込まんばかりの勢いで棒をライナスに向かって差し伸ばす。
そのまま落ちていかないようにとユディットがジの服を掴んで床に剣を突き立てた。
落ちながら振り返り、ジの差し出した棒に手を伸ばすライナス。
「ライナスーーーー!」
後わずか、指先だけを掠めてその手はフィオスに届かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます