攻略開始!3

 もう少し進んでみる。

 すると同様に人形っぽいゴブリンが2体歩いていた。


 今度はユディットを下げてライナスとパノーラにチェンジして2人に一体ずつゴブリンを相手してもらう。

 ライナスについては実力を問題視していないが念の為に体を動かしておいてもらう。


 パノーラについては実力不明なので軽く腕試しである。

 

「ゴー!」


 王国の子供部隊に誘われるということは魔獣もそれなりに優秀なパノーラ。

 元々平民の下層出身の彼女は両親に楽をさせたいという思いも強く、真面目に訓練に取り組む子の1人であった。


 エも真面目に訓練に参加する側の人で、誰かと組んでやる時に真面目で人柄の良いパノーラと組んで訓練を行うことも多かった。

 なので自然と友達になって、意外と感覚も似ていてあっという間に仲良くなったのである。


 真面目に訓練に取り組んでいるだけあってパノーラの動きも悪くない。

 実戦訓練にも参加していたパノーラは恐ることなくゴブリンに近づいて頭を1刺しした。


 ライナスもその横でゴブリンを一太刀で切り倒してしまい、2人とも危なげなく勝利となった。


「なんだ、ぜーんぜん余裕じゃねーか」


「おい、油断は禁物だぞ?」


「わーてるよ。


 でもあんまり気を張り続けても疲れるだろ?」


「時として気を緩めて休むことも大事だけど油断するのとは違うぞ」


「……なんだよ、お前は俺の親かよ」


 ムッとした表情を浮かべるライナス。

 確かに気を張ってばかりいると疲れてしまう。


 強い警戒を保つ人を交代したり、ある程度安全を確保できる場所で休んだりして回復することももちろんするがそうでない時もしっかり気を張っておく必要はある。

 小さな油断が命取りになるのがダンジョンなのである。


「まあまあ、2人とも」


 ピリつく雰囲気をエが仲裁する。

 ライナスの言うことも分からないでもない。


 ジの進め方は慎重すぎると言っていい。

 先の見えないダンジョンであるからしょうがないのだけど先が見えないだけにこのペースではいつ終わるのかと言う問題もある。


「ごめん、エ。


 みんなも悪い。

 雰囲気悪くなっちゃったな」


「私はいいんだけどさ……」


「まあダンジョンに比べてみんなそれなりに実力ありそうだしな、少し早めてもいいかもな」


 少し険悪な感じはしたけれどもう少しと思って先に進む。

 もう何体かゴブリンが出たけれどエやフの魔法でも問題なく対処できることを確認した。


「ジ、なんかあるぞ!」


 ライナスとユディットが前を務めて進んでいた。

 ユディットはジに対して雑な態度をとるライナスのことがあまり気に入らないようであったがそれを言葉に出すことはない。


 曲がり角から先を見たライナスが扉を見つける。

 真っ直ぐ突き当たりにポツンと木の扉があった。


「安全な部屋?」


 扉の上には看板が備え付けられていて、『安全な部屋』と書いてある。


「入るぞ。


 俺が扉を開けるからみんな警戒してくれ」


 安全な部屋が安全である確証はない。

 これが罠の可能性も十分にあり得るので警戒して当たる。


 扉に鍵はかかっていない。

 押して開くタイプ。


 そっと少しだけ開けて、そこから扉を蹴ってすぐ横に逃げる。


「な……何もなさそう、だな」


 少し待っても魔物が飛び出してくることはない。

 扉の中には小部屋があった。


 フカフカしたソファーが置いてあり、迷路よりも少し天井が高いので圧迫感がない。


「ここは安全な部屋だよ。ゆっくり休んでね。


 ……だって」


 壁には文字が刻まれていた。

 ダンジョンに時々あるセーフゾーン、セーフルームといった場所であった。


 ダンジョンとは言いながらも親切設計。


「今日は様子見だしここらで一度引き上げようか」


 ダンジョンの構造によっては1日じゃ終わらないことも考えられるし、帰れなくなることあり得る。

 なので一応宿泊というか数日ダンジョンで過ごす準備はしていたけれどムリは禁物である。


「早くね?」


「早いけどまずはここがダンジョンだったって報告だけはしとこうぜ。


 きっと外で待ってるみんなも気を揉んでるだろうからな」


「リーダーの言うことだし従いますよー」


 どことなく態度の悪い時のあるライナスだがとりあえずはジに従ってくれているのでジも何も言わなかった。


 ーーーーー


「やはり普通のダンジョンではないようですね……」


 帰りはゴブリンなども復活しておらず、書き込んだ地図があったのでスムーズに帰ってこられた。

 ジたちが無事に帰ってくるとオロネアはホッとしたように笑顔を浮かべていた。


 みんなとはその場で解散して、ジは報告のために学長室を訪れていた。


 中はダンジョンだと言っていい。

 通常ではあり得ない空間が出来上がっていて、アカデミーにバレないようにあんなものを人工的に作れるはずがない。


 ダンジョンではあるのだが知れば知るほど通常のダンジョンとは異なっている。

 迷路型ダンジョンなのであるが、迷路型というよりは完全に迷路である。


 そして出会った魔物は魔物ではない。

 どう見ても人形であって生身の魔物とは違っている。


 なのだけれど他のダンジョンと同様に倒された魔物は魔力となって消えてしまった。

 扱いとしてはダンジョンの魔物であった。


「見てはないので何とも言えませんが魔物も魔物ではないようですね」


「そうです。


 今のところ危険度としては低いですがこの先に何があるか全く予想ができません」


「そうね……このまま慎重にお願いします。


 人形の魔物……」


「何か思い当たることでもありますか?」


 魔物が人形っぽいと聞いてオロネアは何かが引っかかったような顔をしていた。

 ジはそんなオロネアの表情が気になった。


「どこかでそんな話を見たような気がするのですが……」


 指先で机に円を描くようにして考え込む。


 記憶を探り、似たような話がないか思い出そうとしてみる。


「そうだ……確か」


「何か思い出しましたか?」


「ドールハウス計画」


「ドール……?」


 なんかちょっと不穏なワードに聞こえた。


「アカデミーでは昔から色々と教育のための企画が発案されることがあります。


 やってみるものもあるのですが当然ボツとなったものも様々あります。


 その中の1つ……かなり古い企画書にそんなものがあった気がします」


「人形を使って何かやるんですか?」


「うーん……なんとなく見たぐらいであまり記憶に残ってないのです。


 古いボツになった企画書もどこかに保存してあるので探してみます」


 ドールハウス計画。

 ヤバそうな響きに聞こえるがアカデミーでやろうとしていたことなら危険なことではないだろう。


「それともう1つお願いがあるんですが」


「何ですか?


 私にできることなら何でも協力しますよ」


「図書館を利用したいんです。


 ちょっと調べたいことがあって」


「図書館ですね。


 もちろんいつでも利用してくださって大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


「少しずつダンジョンのことも分かってきましたのでもう少しお願いします」


「ええ、こちらとしてももう気になっているので最後まで攻略するつもりですよ」

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