攻略開始!2

 やや低めの天井に細長い通路。

 先を見ると途中分岐があったり、さらに進むと行き止まりになっている。


「角からの奇襲に警戒して進むぞ」


 階段からの道は左右と前方の3方向に分かれている。

 とりあえず階段から真っ直ぐ直進して進む。


 ジも魔力の感知の範囲を絞ってより正確に周りの状況を把握しようとする。

 分岐の曲がり角の先を確認する。


 少し進んだ先でまた分岐になっている。


 また別の分岐を確認する。

 今度は突き当たりで1方向にだけ曲がって進めるようになっている。


「……迷路か」


 何となく予感はしていたけれどいくつかの道を見て確信した。

 規模まではまだわからないがここは迷路になっている。


 やはり一筋縄ではいかなそうだ。

 迷路のような構造になっていてもこんな風に迷路となっているダンジョンが他にあるのだろうか。


「一度戻るぞ」


「えっ、何でだよ?」


「いいから」


 ひとまず迷路なことは分かった。

 なら適当に進んではいけない。


 一度階段まで戻ってきた。


「エ、紙とペンを出してくれ」


「あ、うん」


 エは荷物を漁って紙とペンを取り出す。


「いいか、迷路を簡単に攻略する方法は地図を見ることだ」


「地図なんてないぞ?」


「あるのは白紙の紙だけど……」


「そう、地図なんて持ってたら使ってるからな」


 そこらへんの察しの悪さは子供だなと思う。

 経験ってやつが圧倒的に足りていなくて考えが及んでいない。


 この純粋さがもはやジにはない。


 分かってるんだか分かってないんだか、ユディットはウンウンとうなずいている。


「だから地図を作るんだよ」


「地図を作る?」


「まあ今はとりあえず簡単に紙に道を書き込んでいくんだよ」


「あっ、なるほど」


「なるほど?」


 みんなはジの言いたいことが分かったがライナスだけは後一歩理解が及んでいない。


「ライナス……少しは勉強もしろよ?」


「う、うるせー。


 師匠みたいなこと言うなよ……」


 ビクシムも同じことをライナスに時折言っていた。

 ロイヤルガードの弟子になる以上ただの腕っ節だけではいけない。


 ある程度の頭と礼儀作法なんかもできる必要があるのだ。


 ただ、ライナスはお勉強が嫌いだった。

 机に向かうぐらいなら木の人形を木剣で叩いていた方がいい。


 ジはため息をついて紙に軽く階段の位置を書き込んで、進んだ道と見える分岐を記していく。


「はぁー……なるほど」


 やるのを見てようやく理解したライナス。

 賢いなと思うが道の複雑なダンジョンに挑むときにはこうしたやり方は一般的である。


「俺たちの目的はダンジョンの攻略だが、その前に必要な条件は全員生きて、無事にが付く。


 多少時間はかかるかもしれないけれど慎重に攻略していくぞ」


 ジの言葉にみんながうなずく。

 とは言っても道がわからないことに変わりはない。


 迷子にならない程度に突き当たって右に道があれば右に行くぐらいの簡単なルールを設けて進む。


「待て」


「なんだ、あれ?」


「魔物……人形ですかね?」


「なんだかぬいぐるみみたい」


 割とサクサクとダンジョンを進んでいく。

 曲がり角を曲がった先に何かがを見えてジはみんなを止める。


 みんなで角から覗き込んでみる。

 見た目はゴブリン、っぽい。


 ただゴブリンじゃない。

 なんていうか材質が違うのだ。


 ゴブリンの材質ってなんだと聞かれると困るのだが目の前にいるゴブリンはなんだか布っぽい皮膚感をしていて、目はボタンなんじゃないかと思う。

 魔物のゴブリンではなくて等身大ゴブリン人形がそこにいた。


 ゴブリンも人形になるとそこまで醜悪さも感じない。

 通路を行ったり来たりしてジたちには気づいていない様子である。


「……とりあえず戦ってみよう。


 変化があったってことは進んでいるはずだから」


 見ていると一定のところで一瞬止まり振り返って歩き、また一定のところに止まって振り返り、を繰り返している。


「ユディット頼むぞ。


 2人も魔法の準備を。


 ライナスたちは一応後ろも警戒しといてくれ。


 あのゴブリンがこっちきて振り返ったらやるぞ」


「分かりました」


「……今だ!」


 ユディットとジが角から飛び出す。

 少しユディットの方が前に出て、ジはフォロー出来るように構える。


 遅れてエとフも出てきて杖を構え、ライナスとパノーラは駆けつけられるようにしながらも後ろから敵が来ないように警戒する。


「ハッ!」


 素早くゴブリンに近づいたユディットは剣を振りかぶって飛びかかった。

 ゴブリンがユディットの気配に気づいて振り返った時には剣がもう触れる寸前であった。


 本物のゴブリンと戦った経験もあるユディット。

 ためらいなく振り切られた剣はゴブリンを見事に真っ二つにした。


 ゴブリンの体が切れて、血ではなく中綿が散る。

 次の瞬間中綿が淡く光る魔力の粒子となってふわりと宙に消えていった。


「な、なんだったんだよ……」


「わっかんないな……」


 なんの痕跡もなくゴブリン人形は消えてしまった。

 切って飛び出してきたのは血でなく中綿だったので間違いなくあれは人形だった。


 けれど動いていたし、動きそのものはほぼゴブリンと変わりなかった。

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