攻略開始!1
「これが噂の〜?」
「ち、違うってば!」
ライナスは師匠も含めて話の早い出来るやつだった。
声をかけたら二つ返事でやると。
師匠であるビクシムも当然の如く行ってこいと送り出してくれた。
戻ってすぐだったためにライナスにも友人をご紹介願うつもりがあまり時間がなくてそこは諦めた。
代わりにエに2人ほど人を紹介いただいた。
平民出身のパノーラと貧民出身のフである。
どちらも女の子でパノーラは濃い茶色の髪や目のエと同じ歳ぐらいの子、フはエよりも少し年上で若草を思わせる明るいグリーンの子だ。
事前に会うつもりだったのだけどタイミングが合わず、本番当日の初顔合わせとなった。
エの友達だし大丈夫だろう。
フは魔法使いで風属性が得意。
パノーラは槍を使う接近戦闘職であった。
参加メンバーはジ、エ、ライナス、ユディット、パノーラ、フとなる。
前衛4人、後衛2人となってしまったが、前衛を交代交代で休みながらできるので半々でなくても構わない。
バランス的には良い方だと思う。
「どうかご無事で。
攻略するよりもケガなく帰ってきてくださることの方が大切ですので」
見送りにはオロネアが来ていた。
他にも手の空いている教員や王国の騎士が何人か。
ライナスの師匠であるビクシムも来ている。
これらはただの見送りだけでなく、ダンジョンに入った後異変が起きた場合に対処するための人員であった。
地下ではダンジョンに挑むという時でも上では生徒たちが授業を受けている。
ダンジョンから魔物でも飛び出してきたら大変である。
「分かっています。
今日は軽く行くつもりなので」
相当実力のある冒険者パーティーだとか専門に組まれたダンジョン攻略隊などでないなら1回で、しかも1日で攻略しようなどとは考えてはいけない。
まずどんなダンジョンでどんな魔物が出るのかを知る。
ダンジョンの材質、構造、広さ、セーフティルームの有無。
固い魔物か、柔らかい魔物か、魔法に強いか、魔法に弱いか、苦手な属性、得意な属性。
中には入ったら出られないダンジョンもあるので数日かける準備はするけれど少しずつ攻略していくのが真っ当で危険の少ないダンジョン攻略というものだ。
まずは本当にダンジョンなのかを確認して軽く中の様子を見る。
明かりが必要かも分からない、何が出るかも分からないので軽く見学する程度に止めるつもりだ。
近くに魔物がいて、戦えそうなら戦ってもいいだろう。
「忘れるな、常に冷静にだ」
ライナスにビクシムが声をかける。
すぐに熱くなるライナスにビクシムはどんな時も冷静になるように常に言ってきた。
「分かってますって!
ダンジョンぐらいパパッと攻略してきますよ!」
「……まあいい。
ちゃんとリーダーの言うことも聞くんだぞ」
ライナスのことは心配だがジがいるなら大丈夫だろう。
未熟な弟子に温かい目を向けて優しく肩を叩いた。
「はい!
行って参ります!」
「ほんじゃ行くぞ。
気を引き締めろ!」
「そうやって入るのかよ!」
ジとユディットは知っているのでサラッと扉をすり抜けて中に入っていった。
てっきり扉を開けて入っていくものだと思っていたみんなはビックリしていた。
ライナスとエは顔を見合わせる。
「おい、早く来いよ」
「じゃあ事前に言えよ!」
頭だけ扉をから出してみんなを呼ぶジ。
一回体験したらなんてことはないけれど初見で扉をすり抜けていくのは勇気がいる。
「ほら、ライナス、エ」
ジは扉から手を出して2人の手を取る。
「ちょ、まっ!」
引っ張って2人を扉に引き込む。
一瞬ぶつかるかもとライナスが目をつぶる。
しかしなんの衝撃もなく、引っ張られるままに数歩前に出た。
パッと目を開けるとニヤつくジの顔。
その後ろに階段が見える。
「大丈夫だろ?」
「あ、ああ……」
「ふ、不思議だね」
キョトンとするライナスとエ。
目の前でジがすり抜けて入っていったので分かっていても自分が通り抜けたのだと思うと変な感じがある。
むしろなんの感覚がないことに変な感じがある。
エがパノーラとフも招き入れて6人で階段の前に立つ。
少し年上だったフも問題なく入ることができて安心した。
先頭にジとユディット。
真ん中にエとフ。
後ろにライナスとパノーラ。
後衛を守るように布陣して階段を降りていく。
暗いことも懸念していたが光る石が天井に嵌め込まれていて外のように明るかった。
『ふふふ、いらっしゃーい!
自らここに来たのは君たちが初めてだよ!
君たちはどんな冒険を、戦いを、機転を、そして友情を見せてくれるかな?
是非とも僕のところまでおいでよ……』
「い、今のはなんだ?」
「このダンジョンのボスの声さ」
「子供の声だったぞ?
それに魔物が話せるなんて……」
「ライナス」
「なんだよ?」
「常識は捨てろ。
ここは子供しか入れない、なんて時点でもうおかしなダンジョンだからな」
「……分かった。
とりあえず後ろは任せとけ」
階段を降り切ったところであの不思議な少年の声が聞こえてきた。
楽しそうな声色をしているけれどこちらは緊張しかない。
ダンジョンがあればその中には魔物がいる。
そしてダンジョンのボスは魔物。
当然の知識だしほとんどのダンジョンはそうだろう。
そして魔物が話すことなんて基本はない。
これも常識的考え。
ライナスの疑問も至極真っ当なものである。
けれどここは普通のダンジョンではない。
おかしなダンジョンである。
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