潜入、アカデミーを調査せよ6

 そんな学長から直接依頼を受けているなんてとんでもない話であった。


「もう!


 またジ君危ないことしようとしてるじゃないですか!」


 そんなことよりリンデランは怒っていた。

 ダンジョンに挑むことは簡単なことではない。


 知られていないダンジョンなら余計に危険が高く、明らかに危ないことをしようとしていると言える。


 少し頬を膨らませて怒るリンデラン。


「それでエさんがいるってことはまさか……」


「私はジからお願いされちゃったからねー!」


 リンデランは気づいた。

 ジの話し振りだとオロネアからお願いされたのはジである。


 なのになぜかエも一緒にいる。

 ジとエが普段から一緒にいるのではないことはリンデランも知っている。


 ダンジョンとお願いとエ。

 それらが1つに繋がった。


 鼻息荒くやれやれ感を出して勝ち誇ったような顔をしているエ。

 バッとジの方を見るリンデラン。


「なんでですか!」


「いや、何でって何……?」


「こっちより私でしょう!」


「人のこと指差してこっちゆーな!」


「私に声かけてくださったらご案内いたしましたのに……」


「ふん、あなたの案内なんていりませんよーだ!」


「あなたこそ役に立ってないで食べてばっかりじゃないですか!」


「うぬぅ!」


 睨み合うリンデランとエ。


「お前、気配消してんなよ」


 ーーーーー


「へ、ヘギウスさんにゼレンティガムさん!?」


 流石にリンデランやウルシュナは有名だった。

 是非とも手伝いたいという2人にもついてきてもらうことになったのだが生徒そのものはともかく、教室や時間の把握しているので迷子になることはなかった。


 生徒に話を聞くと声をかけたジよりもまず2人の方に目が行っていた。

 3日をかけて一通りの生徒をめぐり、覚えている内容を聞いて回った。


 大きく異なった内容の話はなく、夢であろうがなんだろうが同一の世界観に基づいた同じ現象を経験していることは間違いなかった。

 その話だけを聞くならダンジョンの難易度はともかく危険はなさそうだと思った。


 どの子も進度に差はあれ、最後には結局負けて部屋に戻っていたという記憶が最後になっている。

 つまりダンジョンの中で何かしらに負けてもダンジョンの外に出されて死なないのではないかという予測ができる。


 そんな不確実な予測を基に負けても大丈夫だろうと挑むつもりはないが多少不安の軽減にはなる。


「訳分からんダンジョンだな」


「ダンジョンについて授業で聞いたことはありますがこんなものだとは聞いたことがないです」


 アカデミーのご飯は美味しい。

 忙しくても昼前には来て、昼ごはんはアカデミーで食べる。


 なんなら朝夜も食べられるなら食べた。

 噂調査も一段落ついた。


 アカデミーの食堂で4人でもぐもぐしながら軽く話の内容を確かめる。


「実は決闘話も何人かいることも分かったしな」


 話を聞いていく中で最初にあった決闘させられるというものも経験したものがいたことも分かった。

 こちらは中庭に放り出されるので見つかる前に起きてしまえばバレずに帰ることもできる。


 決闘話をするよりも怒られたり、付き合ってるだのの話に発展することを恐れた子供たちは話を秘密にしていた。


 実際に声の主に会ったとか、ダンジョンを最後まで攻略した子供はいなかったけれどここ数年の噂話なのでダンジョンはその前からあったのだろう。


 だからといって危害を加えているのでもない。


 これまでにないダンジョンにジも困惑する。

 こんな変なダンジョンがあったら噂になっていてもおかしくないのに過去でも聞いたことがない。


「それで……ダンジョンは攻略なさるの?」


 昼時で人も多いのでウルシュナはお嬢様ぶっている。

 もうなんとなくウルシュナの口調にも慣れてきた。


「まあ最初からその依頼だからな、そうするつもりだよ」


「……その、私も連れて行ってくれませんか?」


 勇気を出したような表情のリンデラン。

 エが一緒に行くというのに自分だけアカデミーでそれを待っているなんてできない。


 ジの方から声をかけてくれていない以上それほど望まれていないことは分かっているがどうしても我慢ならなかった。


「それは……」


「私じゃお役に立てませんか?」


「いや、そうじゃない。


 リンデランが高い実力を備えていることは分かってるよ。


 でもアカデミーの子を連れていくには色々ハードルがあって……」


 本人の承諾とアカデミーの許可と親の許可がいる。

 リンデランは本人が行きたいと言っているのでそこはいいけれど大事な貴族なのでアカデミーの許可も降りないだろうし、もちろん過保護気味のパージヴェルが許すはずがない。


 気心も知れているし許されるなら一緒に行ってほしいところだけど、きっと無理だろうと思っている。

 リンデランは賢い子だ、理由を説明すれば納得してくれる。


 能力的問題ではなくて周りの問題だと説明する。


「じゃあおじいさまがイイって言えばイイんですか?」


「まあ有り体に言えばそうなるけど……」


「分かりました。


 そういうことなら一旦引きます」


「本当に分かってる?」


「はい、もちろんです」


「ほんとかなぁ……」


「まあ、私が、ジを守ったげるから安心しなさい」


 フフンと鼻息の荒いエ。

 ニコニコとして大人しく引き下がったリンデランになんだか若干の不安を覚えたジであった。

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