潜入、アカデミーを調査せよ5

 聞けば聞くほど摩訶不思議な話だとジは思う。

 何の前触れもなく、寮に帰って布団に入って寝た。


 なんだか不思議な笑い声がして、目が覚めるとそこは素知らぬ場所であった。

 自分の他には5人の子供。


 つまりはその場所に6人の子供たちが集められる。


 そして聞いたこともない、男か女かも分からない、子供のような声が聞こえてくるのだ。

 理由は分からないけれど行かなきゃいけない気にさせられる。


 子供たちは顔を見合わせて進み出す。

 しかしどの子も中のことはあまり覚えてないらしい。


 なんだか不思議な魔物がいたような気がして、必死に戦ったのだけれど負けてしまった。

 そして気づくとまたベッドの中であった。


 あれがなんだったのか分かるはずもなくて最初は噂にもなっていなかった。

 この話が噂になり始めたのは集められた子供たちが実際にお互いがいたのだと知ったからである。


 年齢も受けている授業もバラバラ。

 故に面識などなくて子供たちは他の子供は夢の存在だと思っていた。


 しかしある時他の子供が実在していて、しかも同じ経験をしていることを覚えていた。

 最初は目立たぬ話だった。


 夢のダンジョンにいた他の子供を探していくうちに話が広まり始めた。

 そのうちにまた別の子供たちが同様の経験をした。


 1番最初にダンジョンに挑んだ子供のことは数年前の話なのでもう卒業してしまっているが累計で大体10組ほどの子供たちが挑んだらしい。


「なるほどなるほど……」


 リンデランとウルシュナで協力して話を思い出してくれた。

 誰もダンジョンだとは断言できないけれどやや入り組んだ道と何となく魔物らしきものと戦った記憶からダンジョンだとしていた。


 ペズヘンが危険は少ないと思われると言ったのはダンジョンに行ったとされる子供たちが怪我一つなかったからである。

 実際にダンジョンに行ったのかは怪しいが人を意識だけ、しかも複数人の意識を持っていくのは相当な魔法である。


 誘拐して、終わった後に戻したというのも中々無理のある話だが。


「参考になったよ。


 ありがとう」


「ん、それはいいけどさ。


 なんだってそんなもん調べてんだよ?」


 話しているうちに疲れてしまったウルシュナはいつもの口調に戻ってしまっている。

 やはり無理してあのように話していたみたいである。


 アカデミー内の噂の調査なんてなんの必要があってするのか。

 別に子供だしおかしな噂ぐらいいつでもある。


 外部の人間を招き入れてするほどのこともない。

 そんなに危険な噂が流れてもいないし。


 疑うような目でジのことを見るウルシュナ。

 下手するとどこかで制服を盗んでアカデミーに勝手に入ってきているかもしれないとまで思っていた。


 噂調査なんて用意していた言い訳、なんて考えて。


「んーと……まあ、2人ならいいか。


 その噂のダンジョンってのはな……」


「ダンジョンって……?」


「なんですか……?」


「実在するんだよ」


「えっ?」


「ほ、ほんとですか?」


 単なる噂にしてはダンジョンを経験したという人は多い。

 ただ寝ている間に起きた夢のような出来事で、ダンジョンそのものについての記憶はみんなぼんやりとしていて情報がない。


 あるとは言えないけれどないと断定するには不自然なところが多い噂。


 そんなダンジョンがあると言われてリンデランとウルシュナも顔を見合わせた。


「ね、願いを叶えてくれるダンジョンが本当にあるのか?」


「願いを叶えてくれるかは知らないけど噂になってるダンジョンだと思われるダンジョンがあるんだよ」


「なんだかフワフワしてますね」


「まだ確定的なことは言えないからな。


 ただダンジョンがあるってことだけはほぼ間違いないと思ってる」


 まだ入ったわけじゃないから扉の先がダンジョンだとは確定できない。

 あの不思議な扉をダンジョン以外で片付けようとすると結構大変なのでダンジョンだと思ってもよい。


 それに加えてこうした噂の数々。

 ジはこの噂がダンジョンに関わって、ダンジョン由来のものであると考えていた。


「で、そのダンジョンがなんの関係あるんだ?」


「まさかまた危ないことしようとしてます?」


「またってなんだ?


 俺は平穏無事が信条だぞ」


「そんなんでごまかさないでください」


「分かったよ、ただしダンジョンがあることもそうだし、これも周りには秘密だからな。


 それは守れるか?」


「もちろん」


「貴族は口が固くなきゃやっていけませんよ」


「信じてるからな?


 ……そのダンジョン俺が攻略するんだ」


「えっ!」


「シー!


 声が大きい!」


 周りの視線が集まる。

 ダンジョンがあると知れればアカデミーは大騒ぎになってしまうかもしれない。


「ご、ごめんなさい」


 リンデランとウルシュナなら信用できるし話してもいいだろうと事情を説明する。

 アカデミーに子供しか入れないダンジョンが出現して、なぜなのかアカデミーの学長であるオロネアからジがダンジョンに入るように依頼された。


 どうやらここ最近不思議な噂があると聞いてダンジョンが関わっているのではと調査に来た。


 ジはサラリと説明したが2人はポカーンとした顔をしていた。


「学長先生なんてそうそう会える人じゃないぞ……」


 年1、2回特別講義としてみることはあるけれど基本は運営陣として出てこない。

 そのオロネアから直接話を受けることなんてほとんどの生徒はいないだろう。

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