潜入、アカデミーを調査せよ4

「最近身の回りで変な噂、ないか?」


「変な噂……ですか?」


「そう、不思議な声を聞いたとか奇妙な夢を見たとか」


「そういえば最近変な噂を時々耳にするな」


「なんだ、あの話し方やめたのか?」


「笑われるんならやらないわ、バーカ!」


「でもやっぱその方がウルシュナらしくていいよ。


 気取ってない接しやすさがウルシュナのいいところなんだから」


「……ふんだ」


 ジやエには素顔もバレているし、こんな隅っこで会話していて注目する人もいない。

 少し顔を赤くしてお嬢様口調をウルシュナはやめた。


 馬鹿馬鹿しくなった。


「それで変な噂の話でしたっけ?


 ……そういえば最近ありますよね」


「そだっけ?」


「あれですよ、願いを叶えてくれるダンジョンって話、聞きませんでした?」


「あぁ……あー!


 誰だっけか言ってたな」


「願いを叶えてくれるダンジョン?」


 それは初耳だった。

 日々噂の内容とは容易に変化を遂げる。


 教師たちが話を聞き、まとめた時点とはまた話の中身が異なってきているのかもしれない。


「私が聞いたものでも構いませんか?」


「もちろん、助かるよ!」


「ジ君のためになるなら……でも食べてからでもいいですか?」


「あっと、そりゃもちろん」


 リンデランとウルシュナもトレーに料理を持ってきている。

 あまり話し込んでいてはせっかくの料理も冷めてしまう。


「本当ビックリしたよ、2人のこと見つけてさ。


 なんか制服着てるけどいるはずのない奴がいるからさ」


「こっちも見つかるなんて思ってなかったよ」


 結構生徒数もいるし、授業スケジュールも様々なのでいるとは思っていても意外と見つからなそうだと思っていた。


「リンデランが見つけたんだよ。


 私は分かんなかったよ。


 赤いエの方見てようやく気づいたぐらいだよ」 


「ウ、ウルシュナ!」


 チラリと見えた横顔でジだとリンデランは気づいた。

 むしろ目立つはずのエは見えていなかった。


 そんな言い方ではずっとジのことを考えているようではないかと思った。

 たまたま見つけただけ、たまたまジに似ているなと思ったら本当にジだった、それだけ。


「たまたま、偶然、奇跡的に見つけただけです!」


「ははっ、まあ俺は目立つ方じゃないからな。


 リンデランぐらい美少女で目立つなら見つけやすいだろうけどな」


「び、美少女ですか……?」


「ん、過去会った人の中でもトップクラスだよ」


「えへへ……そうです?」


 実際のところリンデランは美少女だ。

 過去底辺をウロウロしていたジはあまり女性に会う機会もなく、そんな場所に美人な人もいなかった。


 だから美人かどうかの価値観は結構緩めな方だけどリンデランは間違いないと言える。

 エも今も美少女で将来も美人だし、きっとウルシュナもそうなる。


「なんかすごいよな」


「何が?」


「こんな美少女に囲まれて飯食ってるって男子の夢だろ?」


「なっ!」


「えっ!」


「へへっ……」


 3人が3人とも顔を赤くする。


「いつからあんたそんなことサラッと言えるようになったのよ……」


「こういうのを女たらしって言うんだな……」


「へへへ……美少女って」


「な、なんでだよ!


 なんで女たらしになんだよ!」


 思ったことを口に出した。

 それも悪口じゃなく褒める方向でだ。


 なぜそれで女たらしなんて言われなきゃいけないのかジは分かっていなかった。


「リ、リンデラン?」


「ジ君になら、たらされてもいいですよ……」


「女たらしのたらしって何かたらしてんの?


 って、いやいや、そうじゃなくて!」


「スケベ……」


「変態……」


「えぇ……」


 チャイムが鳴った。

 これから授業が終わって生徒たちが食堂に集まってくる。


 納得いかなくてもとりあえずさっさと昼食を食べてしまわねばならない。


「なぜだ、なぜなんだ……」


 褒めたのにこの言われよう。

 あれだけ美味しかった料理の味がよくわからなくなってしまったジであった。


 ーーーーー


「ちょっと前まで期間限定で味違いがあったんだよ」


「えっ、ウソ!


 いいなぁ、食べてみたかった」


 ヘイトがジに向いて、エとリンデランは和気あいあいとしている。


 食堂は混んできたので場所を移して空き教室。

 他の人もちらほらといるけれどみんなだべっているだけで勉強している人もいないので話していても迷惑にはならない。


「まあ元気出してください」


「もういいんじゃないか、その話し方……」


「そうはいきませんわ」


「はぁ……なんだっけ、願いを叶えてくれるダンジョンだっけ。


 話聞かせてもらってもいいか?」


「そうでしたね。


 ええと…………最近一部の生徒の間で噂になってる話なんだ……ですわ。


 夜寝ていて、気づくと不思議な場所にいるらしいもので、ダンジョンをクリアするとお願いを叶えてくれるなんて声が聞こえてくるらしいですの」

 

 『ダンジョンをクリアせよ。クリアしたものには褒美が与えられるだろう。』


 そんな声が聞こえてきて、子供たちはしぶしぶダンジョンに挑むことになる。

 いつの間にか願いを叶えてくれるなんて話にまでなっているがこれが今アカデミーで噂になっている願いを叶えてくれるダンジョンの話であった。

 

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