人には言えぬ友人よ2

 真のお金持ちとは余裕があるものでこの閑静な貴族街の人は割と接しやすく優しいのでジも散歩感覚で仕事したりしていた。

 ヘギウス、ゼレンティガム両家の後ろ盾もあるのでジはこの辺りでは丁寧に扱われてもいるのだ。


 フィオスはリンデランに抱えられている。

 ゴミを食べたフィオスだけどいいのかと聞いたけど私が持ちたいからいいんですと言われて以来何故か一緒にこうしてゴミ処理をするときはリンデランがフィオスを抱えている。


 今フィオスは気に入ったのかゴミの中に残っていたお肉のかけらをまだ体の中に残してゆっくりと溶かしている。

 まだ食べられるようなものも貴族のゴミの中には多くてたまにある美味しいものを見つけるとフィオスはのんびりと味わうように溶かしたりしていた。


「フィオスはお肉好きか?」


 ウルシュナがフィオスをつつく。

 心なしかフィオスが突かれたところからお肉を離したような気がする。


「でもさー、まさかこんな人気になるとは思わなかったよ。


 王様までたくさん買ってずりーよな」


 フィオスにお肉を取りそうな奴だと思われていることには気づかずウルシュナが頭の後ろで手を組んで空を見上げる。

 ヘギウス商会に試作品があったのでウルシュナもリンデランと一緒に馬車に乗せてもらったことがある。


 揺れが少なくて快適だった。

 お嬢様であるウルシュナやリンデランも馬車に乗る機会は多い。


 特に今はアカデミーに通っていて、首都にたまたまアカデミーがある関係上馬車で通っているのだ。

 基本は寮生活を送るのがアカデミーなのだが戦争で防犯が厳しくなり、全て子供に目を行き届かせることが難しいので家が近くにある子供は通いでアカデミーに行くことになっていたためだ。


 王様、ウェルデン、フェッツときて4番目のお客様はビクシムだった。

 王様をお城まで護衛した後その足でそのままフィオス商会にまた来ていたのだ。


 その時点でもうメリッサが死にそうだったので店を閉めて次の日、朝一番に来てくれた5番目のお客様はなんとアルファサスであった。

 朝のお勤めを終えて噂を聞きつけてやってきた。


 そしてさらにその次がルシウスだった。

 仕事の都合などがあったのだが出遅れたと悔しそうにしていた。


 実はウルシュナにもせっつかれていたのだが1日ぐらいなら大丈夫だろうと思っていた。

 王様は5台だし他の人もまとめて何台か予約していったので6番目だろうが意外と待つことになった。


「どーにかしてよ、ジ。


 私の繊細なお尻が壊れちゃうだろ?」


「ウルシュナ……」


「いいでしょ、小うるさい先生もいないんだから」


「俺もさ、どうにかはしたいんだけどさ」


 このままではノーヴィスが死んでしまう。


「おじさまに頼んでヘギウス商会お抱えの工房を紹介しましょうか?」


「うーん……まあ最後にはそうした手も必要かもな」


 ただまだそういった誰かを頼るのは早いとジは考えていた。

 これまでも散々ウェルデンにはお世話になってきた。


 商品は売っても借りを作りすぎるのはあまり良くない。

 商会として対等な立場でこれからやっていきたいのに手助けばかりしてもらっては頭が上がらなくなってしまう。


 些細なプライドのようだがこうしたプライドが後々に響いてきてしまうのだ。


 それにジも何もしていないわけじゃない。

 フェッツではなく商人ギルドに対して職人の募集をかけたりはしている。


 在野の職人がいて、加わってくれるならその方がいい。


 どうにも元職人は肩書きをオープンにしたがらないので個人で探すのは難しかった。

 過去では戦争の影響で酒場に行けば元職人なんて奴がゴロゴロしていたが現在は結構安定しているので元職人さんもそんなに溢れてはいない。


「ありがとう、リンデラン。


 困ったらリンデランにお願いするよ」


「ふふっ、任せてください」


「もう商会長ってことはお金持ちってことだろ?


 なんでこの仕事続けてんだ?」


「別に商会長がお金持ちなんてことはないよ。


 この仕事続けてるのは……2人に会えるからかな?」


「……またそんなこと言って!」


「いてっ!」


「嬉しいですよ、私は……」


 オランゼの将来性に期待してとか、オランゼ側が何かあったときにジのフィオスなら対応できるからとか理由もある。

 でも今はリンデランとウルシュナとたわいない会話ができる平和な時間はジにとってもありがたいものだった。


 ウルシュナにこづかれたりするのも痛いけど仲が良い感じがして悪くない。


 与えられた区間のゴミを片付け終えるとウルシュナとリンデランを家に送り届ける。

 ひっそりと護衛が付いているので無事に帰れることは分かっているけど襲われた経験があるのでジもちゃんと紳士的に送り届けるのだ。


 双子ちゃんは元気ですか?などとヘレンゼールとちょっと立ち話なんかをしてジは帰る。


 悩みが多く、忙しいのもまた楽しいものだと思えるのは幸せなことである。


「はて……?」


 微妙な違和感。

 なんだか不思議なざわつきを覚えてジは立ち止まった。


「なんだ?」


 腕の中のフィオスはジの言葉に答えない。

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