私の剣を受け取って
「ジ、この剣を、私の決意を受け取ってくれ!」
孤児院騒動が終わり、リアーネはあることを心に決めていた。
少しの間見ないなと思ったら綺麗になっていた。
容姿が綺麗とかでなく、これまでの着慣れた服と異なって下ろしたてのようなピシッとした服を着ていたのだ。
いや、なんだか顔つきも違っていてリアーネ自身もとても綺麗に見えた。
ジを孤児院に呼び出したリアーネはしばらくもじもじとお礼を述べて、少し顔を赤くしたりしていた。
チラチラと子供たちが見に来たりしていたがテミュンが宥めて連れていく。
少し立ってほしいと言われて立ち上がるとジの前にリアーネが回り込んで片膝をついた。
ギョッとしているジをよそにリアーネは背中の剣を抜くとジに捧げた。
リアーネの眼差しは真剣そのものでふざけている雰囲気はない。
「お前は……あなたは私の家を守ってくれた。
守りたいのに守れなかったものを守ってくれた」
緊張のためにリアーネの手が震えている。
もはや体の一部と言っていい剣なのに、こんな持ち方をしないせいか、それとも緊張のせいなのかとても重たく感じられた。
「最初から只者じゃないと思っていた。
危機的状況を何度も乗り越えてきた。
あなたと一緒でなければ私もどうなっていたか分からない時もあった。
……私は頭が良くない、それに自分じゃこの孤児院を救えるほどの稼ぎもない。
でも何か恩に報いたい」
リアーネの告白にジも姿勢を正した。
「こんな……こんな私が差し出せるのはこの身1つ。
だから………………いや、違うな」
リアーネは大きく首を振った。
「感謝してる、だから剣を捧げるのは違くないんだ。
ただ今回のことを感謝してるだけじゃない。
私はあなたの側にいたいと思ったんだ。
あなたがこれから歩むであろう世界を見てみたいんだ。
お側にいさせてほしい。
誰かの下につくことをよしとしなかった私を変えたあなたに仕えさせて欲しいんだ」
リアーネはジに忠誠を誓おうとしていた。
ユディットの時と同じ騎士の誓いである。
魔法を使った騎士の誓い。
しばらくリアーネを見なかったのは単に身なりを整えてくるためだけではない。
実はリアーネはユディットに教えてもらって魔法による騎士の誓いのやり方を習っていた。
リアーネは戦い方も我流だし、魔法なんて習ったこともないのでまともな魔法はほとんど使えなかった。
今更習うつもりもなかったがジに仕えるためにユディットに教えを乞うたのであった。
「本当にいいのか?」
「私が騎士なんて……笑えるか?」
「違うよ。
その誓いは一生のものだ。
辞めたいと言って辞められるものじゃないんだよ」
「……分かってる。
一生をかけてもいいと初めて思ったんだ。
頭も悪けりゃ能力だって半端だけど、この覚悟は世界一真面目なものだ。
ジ、私の主人となってくれ」
「…………分かった」
ユディットだけでも十分すぎると思っていた。
貴族でも、平民ですらない、貧民の子供が忠誠の騎士を2人も抱えるなんてあり得ないことだ。
過ぎたことでジ自身、自分が誰かに仕えられるに相応しい人なのか疑問に思わずにはいられない。
でも誰かが覚悟を持って真っ直ぐに仕えたいと言ってくるのに対してはジも真面目に応えようと思う。
収入の見通しは立っているので2人の騎士を抱えてもお金の面で困らせることはない。
長く息を吐いたジは両手でリアーネの剣を受け取る。
かっこよく片手でいきたいところだけどリアーネの大きな剣はジには重すぎる。
片手はおろか両手でも危ういかもしれない。
ゆっくりとリアーネの手から剣が持ち上がる。
よくこんなものを振り回しているのだと改めてジは感心した。
リアーネの負担にならないように踏ん張ってそっと肩に剣を当てる。
騎士を縛る忠誠の魔法が発動する。
リアーネの剣から広がった魔力は2人を包み込む。
「私は捧げる、絶対の忠誠を。
一生を持って仕え、命をかけて主人の命に従う。
我が誓いを受け取らんことを願う」
必死に暗記した誓いの言葉を噛むこともなくそらんじる。
「あなたの誓いを受け取り、リアーネを騎士としましょう」
ジが誓いを承諾する。
2人を包んだ魔力がそれぞれの中に吸い込まれていく。
胸に不思議な感覚が広がっていき、リアーネと繋がる感覚を感じる。
普通の剣じゃない上に重たくてもたついたがジはリアーネに剣を返す。
作法も正しい方法も分からないお互いがなんとなくで行う騎士の真似事。
正しいのは忠誠の魔法だけの未熟な騎士と未熟な主人の、古ぼけた教会で行われた騎士の誓いだった。
「なんていうのかな、変な感じだな」
心のどこかが繋がったような表現しようもない感覚にリアーネが照れ臭そうに頬をかく。
同時に自分が騎士としてジに仕え、ジを守るんだという思いが湧いてくる。
冒険者にも最後には誰か自分が仕えるべき人を見つけたいなんて言っている人がいた。
リアーネは誰かに仕えたいなんて気持ち理解できないでいたが今ならそいつの気持ちが分かる。
「よろしくお願いしま……」
「まずは最初の命令だ。
いつも通りのリアーネで。
騎士になったからって変にへりくだった態度なんて取らないでよ。
普段のリアーネで接してよ」
「命令じゃ、仕方ないよな?」
「そ、命令だから」
「じゃあ……よろしくな、ジ!」
「よろしく、リアーネ」
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