子供の力、大人の力5
合法なものもあるが基本的にお金をかける賭博は法律で禁止されている。
会員が増え、お金の流れが大きくなるとどうしても目をつけられる。
バレにくい新たな賭博場が必要。
そこで考えたのが教会に賭博場を作ってしまうことだった。
人の出入りがあって貴族がお祈りに来ても不思議ではなく、かつ宗教関係に国は容易に手を出せない。
「汚いこと考えるな」
戦争で人の汚い部分を見てきたつもりだったジであるがこうした薄暗い人間の欲には反吐が出そうになる。
自分たちの私腹を肥やすために孤児院を奪い去ろうとしている。
絶対にそうはさせないと怒りを抱いた。
ーーーーー
しかしまだ分からないことや借金に関しては押し返せそうでも相手に一撃食らわすには足りないと思っていたところでジやジの家は襲われた。
危機的な状況だったがそれを打破できたことによって好機に変わった。
ユディットたちが相手取ったならず者たちも全員の命を奪ったのではなく、何人かは生かしておいた。
誰の差し金なのか、ここまで手を出してこなかったグルゼイに任せて子供には見せられないお話し合いの結果マクウェル商会の差し金だと分かった。
黒幕は分かっていたがジはこれはチャンスだと考えた。
直接的にはジのフィオス商会は関わりはないがジに手を出した以上マクウェル商会はフィオス商会に手を出した。
どうやらマクウェル商会の情報収集能力は満足なものではなかったようだ。
ジはこのことをフェッツに伝え、敵対商会から命を狙われたと吹聴した。
ついでに相談を持ちかける風を装ってウェルデンにも話をした。
フェッツやウェルデンはマクウェル商会のことを調べ始めた。
ジとの関わりなどあるはずのない商会だから簡単に調査は終わらず、賭博場経営に関わっていることまで知られてしまった。
たった1日、襲われてから次の日には期限を迎えて直接対決になるのに、短い時間でそこまで調べ上げる2つの商会にジは敵に回すと厄介な相手がいると思い知った。
さらにフェッツに話してもしかしたら敵対商会ではない可能性があることも伝えていた。
そこでフェッツは深いため息をついて仲裁官をすぐに呼んでくれたのだ。
相手は舐めていたのだ。
ジという存在を。
ジそのものは非常に無力で、何をなすこともできなかっただろう。
けれども今回の生でジは縁を繋いできた。
何かを守ろうと足掻いてきた。
そして諦めなかった。
みんなの協力があって、みんなの力がジの元に1つになって今回の借金騒動は大逆転を迎えた。
借金問題については仲裁官の預かるところになった。
ケルン子爵にも話を聞いて、帳簿や契約書を確認して金額を確定してくれる。
マクウェル商会にはフィオス商会に対する襲撃やフェッツにバレた賭博場経営の件などで強制捜査が入った。
犯罪者を多く雇っているのだから叩けば埃が出る。
多くの逮捕者を出し、暴力沙汰や違法な借金の取り立てなども表沙汰になったマクウェル商会は消滅することになった。
「それでなんの御用でしょうか?」
「いや、ちょっとだけ忠告をね」
「忠告……と申しますと?」
「嫌だなぁ、分かってるでしょ?」
大神殿。
とある一室でユディットとリアーネを伴ったジはイナーズ教の主教であるベアトリスと対峙していた。
マクウェル商会は潰すことができたがその背後にあるイナーズ教まで繋げることはできなかった。
全ての責任はマクウェル商会の関係者が背負ってイナーズ教は犯罪者を斡旋した疑いのみに留まったのである。
「大事な収入源が潰れた件はご存知でしょう?」
ベアトリスは最近主教になった人物で、元はベアトリスも犯罪者であった。
ニコニコ柔らかな笑みをイカツイ顔に浮かべていたが、ジの言葉に一瞬眉をひそめた。
「別に俺の関わらないところで賭博場を経営していても構わないんだ。
だけど俺の手の届くところ、俺の大切にするものの周りでそういうことをするのは許せない」
「…………」
凍りついたようなベアトリスの笑顔。
関わっているなどと口が裂けても言えないはずなので否定も肯定もできない。
「今回のことで分かっただろ?
俺にどんな後ろ盾があるか。
手を出しちゃいけないところにあんたたちは手を出したんだ」
イナーズ教まで叩き潰すのは無理だ。
宗教関係に手を出すことは難しいので確実な証拠もなくては調べることすらできない。
「ただ俺の手は今この町全体に伸びつつある。
次にこんなことがあったら容赦はしない。
あんたも馬鹿じゃないならここで手を引く方が賢い選択だと分かるはずだ。
イナーズ教の行いは素晴らしい。
この国ではそのまま、素晴らしい目的だけを遂行してほしいものだ」
町全体に影響力を持つとは言い過ぎだけどこれぐらい言わなきゃやってられない。
もう一度商会を作って一から賭博場を構えるのは簡単なことではない。
イナーズ教は目をつけられているし裏でコソコソやるのにも限界はある。
これ以上手出しはしないから大人しく宗教活動だけしてろ。
ジはにこやかに、遠回しにそう伝えた。
「……そうですね、我々もまだ小さな集団です。
弱き者の救済こそが我々のやるべきこと。
他に手を広げることなどもっての外でございます」
やや固い笑顔だが一切表情を崩さないベアトリス。
「よかった」
子どもらしく笑顔を浮かべるジ。
不思議な対面は終わり、ジは大神殿を後にした。
数日後ベアトリスはこの国を離れて後の仕事は別の部下に任せていった。
イナーズ教がこの国で儲けることはもう不可能だろう。
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