子供の力、大人の力4
その間にジも遊んではいられない。
商会の開店を迎えながら情報屋に情報の収集も頼んだ。
真っ当な借金取りであることを示すためにマクウェル商会を名乗っていたがジやメリッサもマクウェル商会について知らなかった。
何か裏がありそうだから、裏を知るために情報屋に頼むことになったけど危うく命を差し出すことになりそうだった。
ガルガトが今回は家族を失うことにならなきゃいいけどとジは思った。
少しヤキモキしたがリアーネは恐ろしい速さで戻ってきた。
水すら飲まず、昼夜を問わずに走り続けたリアーネは帰ってきてすぐに倒れた。
幸い命に別状はなかったけれどみんなにリアーネは怒られていた。
「なるほどね……」
リアーネが倒れるほど急いでくれた甲斐はあった。
だんだんと事の真相が明らかになってきた。
ケルン子爵は帳簿とシスターと交わした契約書をリアーネに持たせてくれた。
契約書はともかく、帳簿まで持たせてくれたのはただの善意ではない。
原因は返しきれなかった借金が残っていたことなのだろうが、結構大きな割合でケルン子爵が悪い。
ケルン子爵はこうした慈善事業みたいなことを手広くやっていた。
中には契約の概念がない人たちもいたりそんな慈善事業に漬け込んで騙そうとしてくる連中もいた。
なのでケルン子爵はリスクを減らすために契約書に関しては写しも含めて2枚を作るようにしていた。
別々に保管し、何かがあっても大丈夫なようにしていたのである。
しかし今回はそれが悲劇を生んだ。
ケルン子爵もかなり高齢の方で持病が大きく悪化してしまった。
そこで息子に家督を譲ってケルン子爵は子爵家で持っている領地で療養することになった。
残念ながら息子の方は慈善事業に興味がなかったのでケルン子爵は慈善事業を畳んで引退した。
帳簿や契約書も持って領地に向かったのだけどケルン子爵は何と2部あった契約書の片方を忘れてきてしまったのである。
本来なら写しとしている方も回収して持っていくなり破棄するなりする必要があったのに、体調不良や慈善事業の後処理の忙しさですっかりと頭から抜け落ちていた。
ケルン子爵の息子は首都で仕事するにあたって荷物を整理していてこの契約書を見つけた。
帳簿もなく、破棄もされていない契約書。
借金はまだ生きているものだと思った。
けれども借金の相手はボロい教会。
孤児院も営んでいてとてもじゃないがお金を持っているようには見えず、お金を借りた理由が分かった。
ケルン子爵の息子は悩んだ。
自分は慈善事業に興味もないし、だからといって借金をそのままにはできない。
自分で回収するには面倒だし、貧しい教会に請求するのも気が引ける。
そんな時にマクウェル商会が債権を買い取ると近づいてきた。
計算した借金額よりも割安にはなるが回収できるかも分からない借金なんかよりも確実な買取り金にケルン子爵の息子は借金を売った。
ここまでの出来事はわかる。
ケルン子爵が慌てて息子に連絡を取って確かめて、手紙に経緯と謝罪を書いてきた。
どうしてそんな回収できるかも分からない借金をマクウェル商会が欲しがったのか。
「人の欲に底はないか……」
教会を欲しがった理由は大きく2つのものがあった。
首都においては人口が増え続け、それに伴い居住に関して問題が起きている。
宗教関係では大神殿があるためにそこに複数宗教がまとめられて、教会などの場所を取る大きな建築物の建設は許可が降りない。
ただ大神殿も場所が場所だけに信仰する人たちの層によってはより平民に近いところに教会を構えたいと思う宗教もあるのは事実だった。
マクウェル商会の後ろ盾になっているのはこうした新興宗教だ。
イナーズ教というアルフィオシェント教と同じく弱者の救済を目的とする宗教。
大きな違いとしてはアルフィオシェント教は貧困などからの救済であるのに対してイナーズ教は犯罪を犯した者の救済を主にしている。
比較的新しい宗教で首都に自分の教会も持っていない。
なので貧民や平民に近く、自分の教会を持つアルフィオシェント教を羨ましく思っていた。
出来るなら自分たちの教会で信奉者に近い距離で活動したいと積極的であるのだ。
ただし、これは表向きの理由。
もっと根が深く、暗い理由がきっと重要なものなのだろう。
情報屋に依頼しなければ分からなかったと思う闇の理由、それは教会を賭博場にするのである。
元は本当に犯罪者の改心を目的とした綺麗な宗教だったのかもしれないが犯罪者になる者には非常に欲の深いものがいる。
改心したと思われる犯罪者には教会で働く者もいる。
だが本当に改心したのかはその本人しか分からない。
中には改心していない者がいて、そうした者は純粋に救済を目的に活動する者よりも早く立場が上になる。
そうして宗教は腐っていく。
教会として何かをやるわけにはいかないので商会を立て、それを隠れ蓑にして活動を始めた。
犯罪者の雇用を理由にして性格の荒いものを雇い、宗教活動を理由にしてだんだんと地下に根を伸ばして、今ではイナーズ教は賭博場を経営して儲けていた。
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