子供の力、大人の力3
スライムを見て子供たちは可愛いと目を輝かせ、大人たちは首を傾げる。
「まあ見てなって。
頼むぞ、フィオス」
フィオスに形なり、材質なりの変化を練習させているとドンドンと覚えが早くなり、多少の知性を持つと言ってもいいぐらいに賢くなった。
まだまだ子供にも劣る知能だけどただプルプルしていただけのスライムに比べたらかなりの進歩である。
ニョッと体の一部を伸ばしてフィオスは鍵穴に自分の体を押し付けた。
外から見ていると分からないが鍵穴の中にフィオスは自分の体を入れていた。
ミチリと鍵穴がフィオスで満たされたらフィオスは鉄化をする。
「な、なんか色変わってるよ!」
見たことがない人から見るといきなりフィオスの体がおかしくなったようにも見えるだろう。
しかしこれは意図してやっていることなのでジは驚きもしない。
鉄のように硬くなった部分にジは手をかけて回す。
フィオスは力がないので自分では鍵も回せないのである。
カチャリと音がして女神像の台座の前側が少し開いた。
「おおっ!」
フィオスの思わぬ活躍に歓声の声が上がる。
「それじゃ開けるよ」
ジが代表して台座を開ける。
高めの台座の中は空洞になっていて結構広い。
中には手帳のようなものや紙の束が置いてあった。
「メリッサ、悪いけどこれ、確認してもらえる?」
「はい、分かりました」
ジはメリッサに紙の束を渡す。
見た感じもしかしてと思った。
手帳の方は何冊もあって何の手帳なのか予想もつかない。
「これは……」
「なんだ?」
「日記だな……」
内容は日記だった。
シスターの部屋にあった日記はある種の業務日誌のようなものだった。
台座に隠されていた日記はもっと踏み込んだ、シスターの個人的な日記だった。
古いものから死ぬ直前のものまであった。
パラパラとめくって内容を確認する。
全部日記かなと確認してくと一冊だけ内容が違った。
「こ、これだ!」
ただの日記かと肩を落としかけた時だった。
他の日記と同じような手帳で一冊、内容の違うものがあった。
メリッサにも見てもらったが間違いない。
日記の一番下に金銭の受け渡しに関する内容をまとめてある帳簿が隠してあるように置いてあった。
「会長、いいですか?」
「何かあったか?」
「この契約書なんですけど、おかしいんです」
「おかしい?
何が」
「この孤児院にもあって、かつ借金取りが持っていた契約書は利子についての文言が書かれているんです。
ですがこの契約書は利子の文言が書かれていなくて、それ以外の文章は全く一緒なんです」
「つまりどちらかが偽物だと?」
「うーん……ちょっと分かりませんが……
見たところここに隙間はあるので利子に関する文言を勝手に書き足すことはできます」
「……今忙しいのは分かってる。
後でやってくれた手当も付けるからこの帳簿も見てくれないか」
「もちろんやります。
ここまで来たら私も最後までお付き合いさせてくださいよ」
「ありがとう」
他の日記ももしかしたら何かヒントになることや、取引に関してもっと細かく書いてあるかもしれない。
ジたちはいくらかはテミュンに任せいくらかは日記を持ち帰って内容を調べてみることにした。
人の日記を読むのは少しばかり忍びないが緊急事態だからシスターも許してくれるだろう。
ケントのおかげで厳しそうだった展望に光が見えてきた。
お礼を言うと照れ臭そうに頭をかいていたのはとても子供らしくて、どうにか助けてあげたいものだとジは思った。
メリッサには帳簿のチェックを任せてリアーネと2人でシスターの日記を読む。
ユディットは商会のためにクモノイタを作らなきゃいけないので隣の家に帰っていった。
無言でペラペラと日記をめくっていく。
あんまり内容を読まないように気をつけながら借金についての記述がないかを探す。
「くっ……うっ……うぅ…………」
子供に関する話が多い。
あんなことをした、こんなことをした、あれで笑った、これで怒ったなんて、よく子供たちを見ていたことが分かる。
シスターの人となりが分かって胸が熱くなっていると、リアーネが泣き出した。
我慢するような嗚咽がだんだんと大きくなり、我慢できなくなった大泣きし始めた。
「リアーネ……大丈夫か?」
親代わりだった人の日記だ。
読むのは思い出してしまって辛いのかもしれない。
「うっ!」
心配するように立ち上がって手を伸ばしたジをリアーネが抱きしめた。
座ったリアーネが立ったジを抱きしめるとちょうど胸の辺りにリアーネの顔がくる。
若干力が強すぎて背骨が悲鳴を上げているけれど、少し震えて声を押し殺すように泣くリアーネにかける言葉が見つからない。
迷ったけれどここは男として優しくしてやらねばならない。
エにもしたようにギュッと優しく抱きしめ返してあげる。
一瞬リアーネの体が大きく震え、何度もシスターと呟きながら涙が枯れるまで泣き続けた。
メリッサが調べてくれた帳簿では一緒に置かれていた利子の文言がない借金の方が正しく、借金取りが要求してきた利子も上乗せされた金額では合わないこと。
さらに帳簿を見ると少額の古い借金はシスターが返していたことなどが判明した。
契約書のサインや日記から借りていた相手を特定して、オランゼからたまたま話を聞くことができた。
「私が行く。
私とケフベラスなら早く行って帰ってこれる」
後日、ケルン子爵の場所も判明し、どうにか直接話を聞かなきゃいけないと思っていた。
その時にリアーネは自分が走っていくと立候補してくれた。
大きな黒いオオカミのような魔物、ケフベラスにまたがり、ことの詳細を書いた手紙を持ってリアーネは出発した。
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