子供の力、大人の力2

 契約書だけでなく何か契約の中身について言及があるものはないか、テミュンに探してもらうことにした。

 ジは一応貧民救済の活動もしているのでお世話になり、フィオスの名前の元になったアルフィオシェントに感謝のお祈りでもしようと女神像の前にいた。


 お礼を心の中で言ってフィオスを見せてお名前少しいただきましたと報告する。

 教会に行く機会も時間もないのでこの機会に色々お願い事もしておく。


 振り返るとケントがいた。


「どうかした?」


 女神像の足元に置いてある木彫りの女神像を彫っているのはこのケントだった。

 手先が器用で孤児院の補修もやってくれているのはケントの働きが大きい。


 是非ともスカウトしたいのだけど変と言われるほど口数少ないケントはジに壁を感じさせて、どこか距離がある態度を取っていた。

 無理に話を聞き出すこともしないし、嫌なら距離を詰めることもない。


 人と仲良くなるのに時間が必要な人もいるので気長に行こうと思っていた。

 唇を結んで黙り込んでいるケントは何かを決断したような表情をしている。


 ケントが次の言葉を言うのをジは待った。


 ここはケントの意思を尊重して聞き出したりはしない。


「あ、あんた……あなたがリアーネさんの言っていた救世主……なんですよね」


「きゅ、救世主……?」


 思わず眉を上げるジ。


「リアーネさんが言ってました。


 貧民街に住む少年だけどとても頭が良くて、優しくて、頼もしくて、まるでアルフィオシェント様が遣わしてくれた救世主のようだと」


「そ、そうなんだ」


 裏でリアーネはジのことを褒めちぎっていた。

 会っても普通に褒めるのだけど直接は言いにくい言葉はどうしてもある。


 敬虔に宗教を信じていなくてもやはり小さい頃から孤児院で教え込まれてきた習慣や考え方というものはある。

 ある程度神様のことは信じているし感謝もする。


 こんなことになる前の話だけど才覚のあるジのことをリアーネはお話のような救世主だと表現していた。

 本人から誉められるのではなく第三者から聞く褒め言葉にジも照れる。


「シスターの秘密だと思ったし誰に言ったらいいのか分からなかったから言わなかったけど……


 実はシスターは何かを隠していたんだ」


「どういうことか、詳しく教えてもらえる?」


「これが本当に役に立つかは分からないんだ……でも俺は見ちゃったんだ。


 シスターが女神像の足元に何かを隠しているところを!」


 ケントは1番年上になってだいぶ落ち着いてきたがもっと幼い頃はヤンチャでいうことの聞かない悪ガキだった。

 シスターにもよく怒られたし、お祈りだってサボっていた。


 しかしある冬のこと、寒さが厳しくて夜な夜な子供達が身を寄せあって寒さに震えて耐えていた時、ケントは初めて女神像にみんなが無事冬を乗り越えられるように祈った。

 そのおかげかは分からないがどうにか冬を乗り切り、それ以来ケントは女神像へ祈ることをやり始めた。


 ただこれまで祈ってこなかったのでみんなと一緒に祈るのが恥ずかしく、夜みんなが寝静まった後にこっそりと抜け出して女神像に1人祈っていた。


 ある時ケントがいつものように祈りを捧げに行くと女神像の前にシスターがいた。

 シスターも夜に祈りを捧げることがあるのかと思って見ていたらシスターは女神像の足元で何かをしていた。


 カチャリと音がして何かガサゴソとやってまたカチャリと音がする。

 何をやっているのか分からなかったが何回かそんな場面を目撃するうちに何かを女神像の足元にしまったり、取り出したりしていた。


 まだまだ子供だったケントにはそれがなんなのかまではわからなかったし、女神像に祈りにきているのがバレると恥ずかしいので声をかけることもなかった。


「女神像の足元に……」


 ジはテミュンたちを呼んでケントの話をかいつまんで説明した。

 テミュンもリアーネも他の子供たちもそのようなものがあるとは知らなかった。


「ここに何かがあるって?」


 木彫りの女神像を退けて女神像の足元にある台座をみんなで見てみる。

 なんの変哲もない、女神像の一部である台座。


 リアーネが掴んで揺すってみたりするが何もない。


「ね、これは?」


「ん?


 これは……」


 孤児院の女の子がクイっとジの服を引っ張った。

 台座の横、下の方を指差しているのでその先を視線で辿る。


「あっ」


「なんかあったか?」


「これかな?」


 台座の下に小さな穴が空いている。

 下の方が四角く下に伸びたその形は鍵穴であった。


「鍵穴だって?


 テミュン……」


 リアーネに視線を向けられたテミュンは首を振る。

 こんなところの鍵なんてもの見たことがなかった。


 何かがこの中にある予感が全員にあるのだけど鍵がないことには開けられない。


「……本当はこんな方法使っちゃいけないんだけど、開けてもいいかな?」


「ええ、どの道鍵がなくては使えないところですから。


 見た目が悪くなってしまうので壊す以外なら好きに開けてください」


「分かった。


 フィオス」


 ジはフィオスを呼ぶ。


「わっ、スライムだぁ。


 可愛い!」


「スライム……でどうするつもりですか?」

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