子供の力、大人の力1
「思いの外隙間風とかはないんだな」
「実は教会の補修は子供たちが率先してやってくれているんです」
ジケが孤児院を最初に訪れた当初に時はさかのぼる。
目についたのはところどころ補修された孤児院の中だった。
お世辞にも綺麗とはいかないが古くてダメになったところに板が打ち付けてあったりした。
借金取りをひとまず追い返したジはとりあえず子供たちにも挨拶しておこうと思って子供たちのところに向かう最中に孤児院の中を軽く観察する。
テミュンによると古くて風が入ったりする場所があると子供たちがどこからか木の板を持ってきて直してくれる。
不思議なもので教えたこともないのに子供たちの中にはこうした手先を使った作業をやってくれる子がいる。
「これなんかは今1番年上の子が作ったんですよ」
女神像の足元に置いてあった木製の女神像。
まだ7割ほどの出来上がりだけど女神像だと分かるクオリティである。
ジも過去に暇を持て余した時に木彫りを趣味にでもしてみようとしたことがあったけれど指を切り落としかけて以来すぐにやめてしまった。
自慢げなテミュンはジが木彫りの女神像を褒めると満足そうに笑った。
「あっ、シスター!」
「リアーネさん!」
教会の裏にある囲まれたスペース。
話し合いの最中邪魔をしないようにと比較的大きな子が小さな子を連れて遊んでくれていた。
テミュンやリアーネを見て駆け寄ってくる子供たち。
リアーネさんなんて呼ばれながらも子供たちはリアーネを慕ってくれてはいるのだ。
「えっと、新しい子?」
ジよりも幼いぐらいだろうか、まだものの分別が若干甘い子がジを見て首を傾げた。
自分達と同年代ぐらいの子。
しかもお金持ちそうには見えない。
そうなら新しく孤児院に来ることになった子供、と考えても仕方ない。
「い、いや……違うよ…………んふっ」
笑いを堪えるリアーネ。
ジ本人も多少成長はしたけれどいつまで経っても垢抜けない感じがあることは自覚しているので怒りもわかない。
「こら、シャンテ!
お客様になんてこと言うの!」
「ご、ごめんなさい……」
「いいんだよ」
見たところ10人ほどで男の子と女の子が半々。
「ケントです……」
ジッとうかがうようにジのことを見つめる男の子。
ジよりも少し年上ぐらいに見える子で子供たちの中でも1番年上らしい。
話を聞いてみると前のシスターが生きていくには必要なことだと子供たちに文字や簡単な計算を教えていたことが分かった。
真面目そうな女の子なんかはそれなりに計算能力もありそうだ。
女神像を彫っていたのは誰なのか聞くとジのことを見つめていた男の子ケントが彫ったものだった。
褒めると少し照れ臭そうにしていたケントは変なくらいに大人しいと周りの子が不思議がっていた。
軽く孤児院の子供たちの自己紹介を受けて、意外と悪くなさそうだとジは思った。
ジは孤児院の子供たちを雇うつもりだった。
当初は単にお金を出して救済するつもりがあったのだがお金だけ出して終わりでは結局後々に同じことを繰り返してしまうことになる。
テミュンなり子供たちなりにお金を稼ぐ手段がなければ最後には借金という手立てしかなくなってしまうのだ。
シスターは良い相手がいたから借金に困ることはなかったが借りられる相手がいなければ悪徳な相手しか貸してくれない。
そうなると返済力のないこの孤児院はあっという間に閉鎖に追い込まれるだろう。
どうするかは決めていなかった。
ジに斡旋できる仕事なんて限りがあるし子供たちの適性も分からない。
テミュンに何か商会関係で手伝ってでももらおうと考えていたが、孤児院の修理を見て思いついた。
先行投資だ。
誰かが酒を飲んでクダを巻いていた。
ある天才騎士がいたがそいつが天才として花開くことができたのは俺のおかげだと。
才能を見抜き、まだ何も持っていない頃からお金をかけてのびのびと才能を伸ばせる機会を与えた。
結果的に天才とまで呼ばれる存在になったのだが、どうやらそいつはそのことを鼻にかけすぎて天才騎士に見捨てられてしまったらしい。
最後には話聞かせてやったんだから奢れと詰め寄られたので覚えている話だが、若いうちから機会と場を与えてやれば才能がなくてもそれなりにできるようになるなんて言ってもいた。
孤児院の子供たちにも機会と場を与えるのはどうかと考えた。
これから商会が開店することになると馬車の作り手は圧倒的に足りなくなる。
考えられる対策は既存の職人を雇い入れることぐらいなのだけど馬車を作ると知れ渡っているので保安上の問題や信頼の出来る職人といったものを探すのは楽じゃない。
即効性はないが信頼ができて腕のいい職人を得られる方法として今から孤児院の子供たちを職人として育てるのだ。
長い目で見なきゃいけないけど面白いやり方ではないか。
計算が得意な子はメリッサにつけてそちらの仕事をできるようになってもらってもいい。
自分が子供で雇ってもらった経験があるのに、子供を雇って育てるという発想がなかった。
「あ、あの!」
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