金、感情にご用心3

 斧や剣を構える姿は非常に威圧感があり、メリッサやテミュンは怯えた表情を浮かべる。


「いいか、命が惜しければさっさとこの教会から出ていくんだ!」


「何をするかと思えば言うに事欠いて脅しか。


 悪人としては二流、三流だな」


「このクソガキが、てめえだけは許さねえからな!」


 目の前がチカチカするほどの怒りに飲まれる借金取り。

 全てはジが来てから変わった。


 ジが介入を始めてからうまく行きそうだった計画の雲行きが怪しくなり、今こうして最終手段に訴えかけようとしている。

 ずっと馬鹿にしたような態度をとってくることも鼻につく。


「最後の忠告。


 剣を収めた方がいいですよ」


「うるさい!


 お前みたいなクソガキ、最初から気に入らなかった……」


「剣を下ろしなさい!」


 最後に殺せと命令を下す前に部屋に兵士が雪崩れ込んでくる。


「忠告は聞いておくもんだよ」


「ここからこの契約は仲裁官の私が引き取ります!」


 1番最後に入ってきた妙齢の女性が王国の紋章が入った身分証を見せる。


「だ、誰だお前ら!


 一体何なんだ!」


「数字だけじゃなく制度も勉強するこったな」


「早く剣を下ろしなさい!」


「……くっ!」


「抵抗を試みるようなので私の権限で制圧させてもらいます!」


 体つきは屈強でも戦闘訓練なんてしたことのないゴロツキでしかない男たち。

 あっという間に兵士たちに押さえつけられてジに見下ろされることになった。


「てめえ何を呼んだ!」


「借金取りでも契約に携わるなら国の制度の1つぐらい知っておく必要があると思うよ。


 ただまあ、今ならまだ知らなくても恥ではない、かな?」


 一般に平民や貧民にとって裁判なんて貴族が責任を問われるようなことをした時に開かれる遠い世界の話で知らない人も多い。

 ほとんどが貴族の紛争や貴族が犯した犯罪でしか行われることがなかった裁判であるが個人間の紛争が多いのはむしろ平民の方である。


 特に個人のお金の貸し借りのトラブルは常にどこかで起こっているようなもの。

 商人と個人、商人と商人でも取り引きのトラブルは絶えることなく、そのために商人における信頼とは非常に大切なものでありながら脆くて崩れやすいものでもあった。


 そこで立ち上がった男がいた。

 公平な取り引きを守り、契約書などの基本的な型を作って広く普及させた。


 国にも働きかけ、法的な整備を推し進めた。


 グレーゾーンが少なくなり反発もあった改革を推し進めたのは商人ギルドのギルド長のフェッツであった。

 前任のギルド長は事なかれ主義で商人が関わる紛争でも決して手出しはしなかった。


 しかしフェッツがギルド長になってから色々と変わった。

 5年ほどしか経っていないので未だに知らない人も多い制度であるがこの先個人の紛争も国や商人ギルドの専門家が仲裁する制度は非常に注目を浴びることになる。


 過去に戦争になって荒れ放題だった状況に漬け込んで平民を騙して金を巻き上げていた貴族がこの制度を利用して行われた裁判によって大敗した。

 貴族は財産を没収されて平民に補償された上に行いが悪質だったので爵位まで没収となった。


 平民に貴族が負けたなんて話が広まらないはずがない。

 ジは噂の又聞きのような話しか聞いたことがなかったけれど貴族が負けた事件のおかげで制度についての話が広まり、仲裁官が倒れそうになるほどの相談が寄せられた。


 そして一通り仲裁が行われると国内における取り引きは個人のものも含めてトラブルが激減した。


 後援であるフェッツが始めたこの制度をジは利用しようと思った。

 どんな証拠を持ってきても借金取りが納得するとは思えなかったし、互いに決定的な証拠を出せなきゃ仲裁官によって話を取り持つことになるので時間ができる。


 さらにまだまだ荒っぽい手段をとる連中もいるのでこうした兵士も出動してくれるのだ。


「ま、待て!


 話せば分かる……」


「話し合いを終わらせたのはそっちだ」


「頼む!


 お願いだから話を聞いてくれ!」


「大丈夫ですよ。


 マクウェル商会にも今ごろ兵士が向かってるから」


「なんだと……何を、ぐうっ!」


 上げようとした頭を再び押さえつけられる。


「何が……何が起きているんだ…………」


「ここは帰る人がいる家だ。


 住む人が大切にする家だ。


 それに俺の大切な家族がここを守りたいって言ってるんだ。

 お前らになんか渡すもんか」


「ジ……」

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