忠誠の騎士も成長し
ジが追いかけられている同時刻。
複数人の男たちがジの家に押しかけていた。
若干の小汚さもある男たち。
いかつい顔をしていて、小汚くはあるが貧民街の住人とはまた違っている。
ユディットとリアーネはグルゼイが見守る中家の前で組み手をしていた。
まだまだユディットの腕は発展途上でリアーネもそれなりに対応しているが近い将来本気でやらなきゃいけなくなる気配を感じていた。
「お前がリアーネ、そこのガキがユディットだな」
「なんだ、お前ら?」
「少し一緒に来てもらおうか」
男たちが剣を抜く。
「へぇ?
良い度胸してんじゃねえか……」
「リアーネ」
「あっ?
分かってるよ、殺しやしない……」
「別に殺してもいい。
ただユディットをメインにやらせるんだ」
「……面白いじゃねえか」
「えっ、俺ですか?」
程よく体も温まっている。
グルゼイとリアーネばかり相手にしていては経験も偏る。
事情は分からないけれど相手になってくれるならいい機会なのではないかとグルゼイは考えた。
「いいかユディット。
相手は本気だ。
お前がためらえば誰かがケガをする」
実際にはグルゼイやリアーネがケガする可能性はほとんどない。
ケガをするなら相手の方だ。
「何かを守るということは、時として何かを傷付けねばならない。
戦え」
「……分かりました」
「抵抗するなら腕の1本ぐらいは覚悟してもらうぞ」
男がユディットの剣を見てニタリと笑う。
ガキが持つにしては上物すぎる剣。
ただ少しの間拘束しておけばよいとだけ言われているが抵抗してくるなら事故で殺してしまってもしょうがない。
「リアーネがお前のフォローに入る。
後ろには俺もいる。
全力で当たっていけ」
「はい!」
ーーーーー
「おかえりなさいませ、会長」
「おう、遅かったじゃねえか」
ジが息を切らせて家まで帰ると家の前には10人ほどの男たちが積まれて山になっていた。
ユディットの持つ剣からは血が滴り、少なくともユディットは戦ったことがわかる。
リアーネも返り血が付いているので戦ったのだろう。
ユディットやリアーネだけじゃない。
グルゼイも家にいるからさほど心配はしていなかったけれども自分の目で安全を確認するとホッとする。
リアーネの助けもありながらユディットは男たちを瞬く間に倒してみせた。
頭数が多ければ余裕があるなどと考える愚かな男たちは1番弱そうに見えていたユディットに傷をつけることすらできなかった。
「う……うぅ……」
「おい、そんな這いずったって逃げらりゃしないぜ?」
腕の1本を失ったのは男の方だった。
這って逃げようとしていた男の服を掴んでリアーネが持ち上げる。
「は、放せ……!」
「殺そうとした相手に慈悲を求めるなよ!」
リアーネが男を投げる。
受け身も取れず地面に叩きつけられて転がった男はジの前で止まる。
「よう」
「お、お前は……」
ジの顔を見てさっと男から血の気が引く。
ジの方にも人をやったのになぜ平然とここにいるのか理解できなかった。
最悪の場合、中心にいるのはこの若い貧民の子供らしいからコイツだけは連れてこいと言われていた。
だから人数もわざわざ半々に分けて子供1人捕まえるのに過分なほどの人を送ったのに。
失敗した。
仮にこの場を乗り切っても後がない。
「ベクルード商会だね?」
「なっ……なぜそれを」
「やっぱりそうか……」
可能性はあると思っていた。
これまで手を出してこなかったので少しばかり油断してしまっていた。
「こいつら何者ですか?」
「……なんて言うんだろうな」
分かりやすく言えば敵。
手を出してきてしまった以上ややこしくなったので説明もめんどくさい。
「とりあえずユディット」
「はい」
「手紙を書くからこのことを商人ギルドにいるフェッツに伝えてほしい。
よければリアーネもユディットと一緒に行ってくれないか?
まだ襲われるかもしれないし」
「分かった。
お前の頼みなら何でも聞くぞ」
「あ、あの〜、もう大丈夫ですか?」
青い顔をしたメリッサがドアの隙間から顔を覗かせる。
仕事の大詰めをジの家でしていたメリッサは双子が外に出ないようにしながら騒ぎに震えていた。
「ジ兄!」
「ジ兄ちゃーん!」
当の双子は横に血まみれの死体があっても気にしない。
ギュッとジに抱きついて帰りを歓迎する。
「……弟子よ」
「はい、師匠」
「全て解決できるか?」
「……もちろんです。
手を出してきた代償は払わせますよ」
「そうか。
お前も忙しくしすぎて体を壊さないようにしろよ」
「ありがとうございます」
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