袋小路に逃げ込んで2

 そこまで強い連中ではないが複数人を同時に相手にするのはなかなか大変だ。

 後ろには高い壁。


 どうして壁を作って道を塞いでしまったのかは知らないけど向こう側も細い道が続いている。


「お前たちの目的はなんだ?」


 敵対商会にしてはやり方が荒すぎる。

 荒事を得意とする商会は存在しているけれどフィオス商会と商権が被っているところはない。


 それにフェッツやヘギウス、王様まで後ろにいるのに手を出してくるところなんて思い当たらない。


「最初は数日大人しくしていてもらおうかと思ったが気が変わった!


 てめえには死んでもらう。


 今ごろてめえのボロ屋も同じ目にあってるだろうぜ!」


「……なんだと?」


「お前だけじゃねえってことさ!


 ユディットとかいうガキもリアーネとかいう女もぶっ殺してやる!」


「…………なるほど」


 黒幕も目的も分かった。


「それだけ聞ければ十分だ」


「どこ行きやがる!」


 ジは踵を返して走りだす。

 しかしその先には壁。


 とうとう気でも狂ったかと男たちは顔を見合わせた。


「フィオス、長い棒を頼むよ!」


 男たちは見た。

 ジの持っていた剣がグニャグニャと形を変えて細長く伸びていくのを。


「おりゃああああ!」


 ジは長い棒状になったフィオスを地面に突き立てる。

 グニャリとフィオスはたわんで曲がる。


 ジの手にフィオスが元の棒状に戻ろうとする力がかかる。

 そのまま地面を強く蹴って飛び上がる。


 たわんでいたフィオスが真っ直ぐに戻ろうとしてジを上に引っ張り上げる。


「あっぶ!」


 想定ではもうちょっと余裕なはずだった。

 フィオスから手を離したジは高く飛び上がった。


 ほんの一瞬だけ届かないかもしれないと思った。

 腕を伸ばして壁の上側にどうにか手が届いた。


 危うく高いところからただ落下するところであった。

 バタバタと壁の上に上がる。


 スマートさのかけらもないけれどなんとか壁の上に上がれてホッと一息ついて振り返る。

 ポカンとジ見上げる男たち。


 その顔が面白くてジはクスリと笑う。


「残念だったなー!」


「な、な、なんだと!」


「覚えとけよ……お前ら後悔させてやるからな!」


 ジはまたフィオスを手元に呼び寄せる。


「待ちやがれ!」


 壁の向こうにジは飛び降りた。


「くそっ、あっち側に行くんだ、早く!」


 男たちは慌てて壁の向こうに行く道を探し始めるが無駄だ。


 もう貧民街に入ったここはジの勝手知ったる場所である。

 ここが袋小路になっていることもジは知っていた。


 反対側に回ろうと思ったらグルリと大回りしてこなきゃいけない。

 道を知っていたとしても、ついた頃にはジはいない。


「ごめんな、フィオス」


 ジはフィオスをお尻に当てて、お尻で着地した。

 多少の衝撃はあったがお尻に敷いたフィオスのおかげでケガなく下に降りられた。


「早く家に帰らなきゃ……」


 休む暇もない。

 ジは走り出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る