袋小路に逃げ込んで1
商会の方にも顔を出しつつジは忙しく過ごしていた。
なんとなくスライムのフィオスのことも認識されつつあった。
貴族がこぞって注文に来るものだからメリッサはまた気を失いそうになりながら対応していた。
この分では貴族たちはどれほど待たなきゃ馬車を手に入れられるか分かったものではない。
馬車の生産性の向上が急務となるところだけどまずは目の前にある問題を片付けなければいけない。
孤児院の問題である。
返済の期日は明日へと迫っていた。
本日商会は定休日なのだけどフィオスの頭に冠を乗せたまま帰ってきてしまったのでそれを置きに商会までジは行っていた。
フィオスを抱えての帰り道。
ここ数日メリッサには負担ばかりかけている。
ボーナスの1つでもあげなきゃいけないなと思っていた。
「…………」
ちょっとお店のディスプレイでも見る。
その後も何回か同じように店の外からチラリと商品を眺めて、すぐに立ち去ることを繰り返した。
「……ちっ、追いかけろ!」
忙しくても鍛錬は続けている。
魔力を知覚する練習は常に続けていて、目に見えないところでも魔力があれば何かがあると分かるまでになっていた。
まだ集中力を必要とするが過去に到達した境地までもう少しで手が届きそうだった。
帰っている短い間に少しでも鍛錬しようと魔力感知の練習をしていた。
すると一定の距離でずっとついてくる人がいることに気づいた。
気のせいかと思ったが付いてきていると思われる人に意識を集中させる。
それぞれに集中すると体を覆う魔力が感じ取れ、見えてなくてもなんとなく人の造形まで分かってくる。
明らかに同じ人なことは確認した。
時折立ち止まってみると相手も立ち止まる。
一切後ろを振り返りもしないのでバレているなんて思いもしなかっただろう。
走り出したジを数人の男が追いかける。
まだ平民街に近くて土地勘がない。
「待てクソガキ!
盗んだものを返せ!」
考えたものだ。
大人が理由もなく子供を追いかければ不自然だ。
しかし何かを盗んだ子供を追いかける体を装った。
日常的とはいかなくてもそれなりにみることがある光景。
横を走り抜けて行っても止めるほどのことではない。
相手もまだ本気で追いかけてきていない。
人通りが多くて目立つのできっともっと人通りの少ないところで何かをするつもりなのだ。
「フィオス!」
「そっちだ!」
「グッ!」
角を曲がったジは急ブレーキをかける。
フィオスがジの右腕にまとわりつき、先の尖った形となって色が変わっていく。
金属のように硬くなったフィオスをまとったジの右腕は一本のランスのよう。
まだ剣になるには少しばかり切れ味が鈍い。
だから考え方を変えてとりあえず先を尖らせて槍のような形を作ることを優先してみた。
角を曲がってきた先頭の男の脇腹を思い切り突き刺す。
走ってきた勢いもあって深くフィオスが男の脇腹に突き刺さる。
これが普通の槍だったら引き抜くのに苦労したろうが普通の槍ではなくフィオスである。
「な……!」
前を走っていた奴の腹から槍が飛び出してきた。
動揺を見せる男たちをよそにジはフィオスを元に戻してまた走り出す。
「あの野郎どこに武器を隠し持ってやがった!」
「お前あっちから周り込め!」
チラリと後ろを振り返ると10人ほどが追ってきている。
相手取るにはやや多すぎる。
1人仲間をやった以上手加減もしてくれないだろうしどうにか人数を減らすか上手く逃げるしかない。
相手も馬鹿じゃない。
角を曲がるジを警戒して、角から距離を空けて曲がってくる。
それでも大人と子供の足では差がある。
徐々に距離が詰まっていく。
「こっちだ!」
「チッ!」
人を分けて別方向からジを追いかけてくる。
平民街の大通りに向かいたいのに相手に誘導されて人通りが少ない方に逃げるしかない。
ただしジはそれほど焦ってもなかった。
「……ビュッ!」
「何してやがる!」
角を曲がってきた男が盛大に転んで顔面を地面に打ち付ける。
足元には薄く広がったフィオス。
ずるりと滑って手もつけずに顔から地面にダイブしてしまった。
ジはフィオスを再召喚してすぐに手元に戻す。
「手間かけさせやがって……」
とうとうジは袋小路に追い込まれてしまった。
息を切らせた男たちは逃げ回って仲間も傷つけたジに対して怒りの表情を浮かべている。
「ソードモードだ」
「てめえどこから武器を……」
「ぐわっ!」
先手必勝。
今度は1本の剣のような形を作るフィオス。
まだ人を切るには物足りないフィオスだがジは魔力を巧みに操って魔力の斬撃を生み出して男を切る。
人を泥棒扱いして追いかけ回した連中がまともなはずがない。
ジは躊躇いなく1人を切り捨てて次に移る。
「こいつただもんじゃないぞ!
お前らも早く剣を抜け!」
2人目がなす術もなくジに切られた。
そこでようやくジがただの子供ではないことに気づいて男たちが剣を抜く。
「道を塞げ、絶対に逃すな!」
ここで逃してはまた面倒なことになる。
しっかりと退路を抑えてジを袋小路にジリジリと追い詰める。
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