青円の商会5
注文書にはある程度ベースになる形が記載してあり、そこからどうするのかを付け足していって希望の形にする。
「5台ということですが全てご自分で?」
「いや、自分用は1台だけだ。
残りの4台はアユインと私の妻たちに贈ろうと思っている」
この国は一夫多妻が認められている。
夫人の許可や金銭的要件が法律で定められているので貴族以外が要件を満たすことは難しいが法律の要件を満たせるなら平民でも複数人の妻を持つことが出来る。
王家の血筋を絶やすわけにはいかない王様にも3人の王妃がいた。
どうにも子供ができにくい体質なのか王様はなかなか子宝に恵まれなかったために3人も娶ることになったけれどちゃんと3人とも愛していた。
そんな中で出来た子供なのでアユインのことも王様は溺愛していた。
そんな3人の王妃とアユインに1台ずつ馬車を贈ろうとしていた。
ガタガタと揺れる馬車は歩かなくていいので楽だが快適とはいえない。
ジの商会設立と商品の話を聞いて王様は他に注文が入る前に、一番最初に注文してしまおうと考えていた。
5台も注文すると作るのにも時間がかかるし王様といえど先に注文した人を後回しにして自分の分を作れとは出来ない。
さらに真っ先に王族から注文があったことは商会にとって大きな箔がつく。
互いに利益がありつつもジが得られる利益の方が大きく、恩返しになると自信もあった。
王族の金看板を利用できる商会なんてまずほとんどないのでそれだけでも凄いことなのである。
「そして馬車の作るにあたってだが我々王家で抱える職人を入れてもらいたい」
「……うちの職人が信頼できないとでも?」
「そうではない。
ジ君のことだ、腕も信用もある人を雇っているのだろう。
ただこちらにも色々あるのだ」
お忍び用の馬車ならともかく、今回は派手に店にやってきてみせたので公的にも乗れる馬車を注文するつもりだった。
そうなると必要なものがいくつかある。
「まずは家紋だ。
王家の紋章を馬車に刻んでもらう必要があるのだけどそれは誰でもやっていいものではない。
王家が抱える職人が王家の許可の元でしかやってはならないものなんだ。
後で意匠を施してもよいが初めから全体のバランスを見ながら行う方が綺麗に出来るだろう。
さらにまだもう1つ」
「まだあるんですか……」
「王家の馬車は常に狙われる可能性を想定している。
馬車の中というのはどうしても無防備で油断も生まれやすいからな。
そこで長年の研究の末に馬車に魔法を組み込むことを開発したのだ」
「……それは知りませんでした」
「王家にのみ伝わる秘密だからな。
もう発明されてから長い時間が経っているが知るものはわずかだ」
「俺が知ってもよかったのですか?」
「話さないだろうと信じている。
それにこのことが他にバレれば犯人はここにいる誰かになる。
誰でも良い、全員死刑になるだけだからな。
君たちも分かっているな?」
冗談か本気か分からない。
王家の秘密をバラせばただで済むはずはないことは分かっているのでメリッサとユディットとニックスも何度も頷いてみせる。
王家が開発した馬車を保護する魔法は詳細こそ聞かせてはもらえなかったけれど馬車の躯体に直接魔法を刻んで加工するものらしく、馬車を作る最初から参加しなければならないもののようである。
家紋を刻むことは後でもよく、なんならノーヴィスを王家で認定することもできる。
けれど魔法を刻む方は職人ではなくて多少の職人の技を習った魔法使いのやることなのでノーヴィスでは対応できない。
「もちろん君のところで作る馬車が特許を利用していることも知っている。
過程で特許技術について見聞きしてしまうことも考えられるので特許利用契約も結んでこちらの方もお金を払って秘密を守ることを誓おう」
「……わかりました。
詳細については職人同士でも話し合う必要があるとは思いますがお引き受けしましょう」
「感謝するぞ。
支払いは友人価格でいくらか前払いしよう。
……それと君のところの職人はいないのか?
是非とも挨拶をしたかったものだが」
「……誘ったんですけどね、開店に立ち会ってくれないかと。
来るお客様は貴族だろうから自分は対応出来ないと断られました」
職人サイドの意見はピーサイがこちらに来て対応することになってしまっていたのだけど彼女も職人出身の女性だから貴族の対応などはできない。
緊張が高まりすぎてとうとう開店当日に体調を崩してしまったのだ。
今はまだノーヴィスたち職人の方は仕事がないので時間はある。
勝手に細かな日程を決めてしまい、金額や好みの馬車の作りなどを聞いていく。
使われる素材から内装に至るまで王家の馬車にもフォーマットがあるようで話し合いはスムーズに進み、馬車の代金以外の使われる素材なんかの費用も王家の方から前払いしてもらえることにもなった。
入ってくる金額の大きさにメリッサが目を回しているがジも内心見たこともない金額に倒れそうな気持ちだった。
それでも初めてのお客様に対して無様な姿は見せられないと必死に自分を取り繕って対応した。
「……看板が何を模したものなのか不思議だったが君の魔獣を見て納得した」
「フィオスちゃんだったんですね」
一通り話し合いも終わってメリッサが書類を再確認している空き時間に王様とアユインはフィオスに目を向けた。
一段高い台座に大人しくフィオスは鎮座している。
冠をつけたフィオスを見て、ようやく2人は看板がスライムのフィオスだったのだと気づいた。
「青い円とは不思議なものだがものを見れば良く特徴を捉えているな」
普通は自分の顔だったり、武器屋なら武器などを看板にするものなのに魔獣のスライムを看板にするとはなかなか面白い。
シンプルで分かりやすく看板だけでも相手に伝えやすい。
丸の方が柔らかい印象なのに、王様が青い円と言うものだからジのフィオス商会は青円の商会と呼ばれるようになっていくのであった。
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