守られるべき家6

 もうそろそろだろうと思っていた。

 締め切っていたドアを開けると料理の良い匂いが食欲をくすぐる。


「ほら、あったかいうちに食べた方がみんなも喜ぶよ」


 ジが手を差し出す。

 きっとリアーネが体重をかけて引っ張ってしまえばジはそれを支えることはできない。


 だから立ち上がるのに手を添えただけの形ばかりの行為だった。

 それでも女の子扱いされたような気は決して悪いものではなかった。


 1階のリビングにあたるところに下りるとテーブルにはすでに料理が並べられていた。

 ジの家にあったイスは古くて壊れてしまったので元々あったものは一脚しかない。


 適当に箱なんかをイス代わりにしていたが最近来客があったり家にいる人も増えたのでグルゼイがイスを作った。

 素人作品で初めはがたついていたけど調整を重ねて、何脚か作るうちにグルゼイも慣れてきたのか一発でがたつかずにイスを作れるようになった。


「食べて食べてー!」


「あ、ああ……」


 日々料理の腕が上達している双子は誰かに料理を食べてもらうことも好きだった。

 リアーネが好きな肉料理を作ってニコニコと手を取って席に座らせる。


「……美味いな」


「でしょ?」


「たくさん食べて元気出して!」


 最後にまともな食事をしたのはいつだっただろうか。

 安くて腹にたまればいいと乾燥肉とパンだけで過ごしていた。


 人を思いやって作った料理はこんなにも美味しかったのか。

 料理の味を噛み締める。


「それで大丈夫そうなのか?」


 家の前で真面目に来客が来ないか待機していたユディットも席についてみんなで食事を食べる。


 今聞くかと思うがグルゼイも心配しているのだろう。


「まだこれからです。


 でも俺もただ見てるわけにはいかなそうなので」


 フィオスの名前の元になった女神様がピンチなのだ。

 貧民街も助けてもらっているのだから関係ないなんて言って放っておくことはできない。


「大丈夫そうか?」


「俺がピンチになったらお願いします」


「分かった」


 熟年夫婦のようなあっさりとした会話。

 いざとなれば手伝ってやると遠回しに言ってくれている。


「まあやるだけやるさ」


 ーーーーー


「ごめんね、また呼び出して」


「いえ、大丈夫です!」


 ジはユディットに頼んでメリッサを呼んできてもらった。

 お金が絡む話なので専門家を呼んだのだ。


 貧民街からもそう遠くないところに孤児院はあった。

 孤児院というより教会兼孤児院なのだろう古めかしい外観の建物がリアーネの育った孤児院であった。


「リアーネさんだ!」


「リアーネさーん!」


「リアーネ……さん?」


「くっ、悪いか?


 みんな私のことはさんをつけて呼ぶんだ、そんけーされてるんだ」


「そ、そうか……」


 少し拗ねたようなリアーネ。

 慕われてはいるようだから何かあってリアーネさんという呼び方が定着してしまったのだろう。


 ワラワラと子供たちが孤児院から出てくる。

 みんながみんなリアーネをさん付け呼ぶけど怖がっているとかそんな感じではない。


「リアーネさん!」


「よう、テミュン」


「顔!


 どうしたんですか!」


 グリーンがかった黒髪の女性がリアーネの頬を手で挟み込む。

 大きな青あざを見て他にケガをしていないかとグリグリ顔を動かす。


「ちょっと……失敗して」


「ちょっとじゃないでしょ!


 こんなケガして女の子がどうするんですか!」


「シスターみたいなこと言うなよ。


 どうせ嫁の貰い手なんてないって」


「もう私もシスターですぅ!


 あなたちゃんとしてれば美人なんですから少しは気をつけてみれば貰い手ぐらいいますよ。


 もう、心配ばかりかけて……」


「悪かったって。


 でも今日は説教されにきたんじゃないんだ」


「……あっと」


「はじめまして、シスター……」


「テミュンです。


 新しく入れたい子……ではなさそうですね?」


 ジだけ見ればそんな感想を抱いても仕方がない。

 けれど剣を持った青年と貧民には見えない女性を引き連れている。


「おいっ、それは失礼だぞ!」


「いいって。


 別に俺でもきっと同じこと思うと思うからさ」


「ふぅ……こちらはジだ。


 孤児院に入りたい貧民のガキとは違うからよく覚えとけ」


「ジ?


 ジって言うとあなたがよく話してくれる……」


「わーわー!


 お前ふざけんなよ!」


「もっと大人の人をイメージしてたけど……なるほどねぇ」


「何納得してんだよ!」


「失礼しました。


 どうぞお入りください。

 あまりきれいなところではありませんが、外で立ち話するよりはいいと思います」


「ありがとうございます」


「リアーネさん、今日はおみやげないのー?」


「すまないな、今日は何も……」


「ユディット」


「はい。


 これ、皆さんで食べてください」


「本当?


 ありがとう!」


「みんなで仲良く分けるんだぞ」


「分かったー!」


 メリッサを呼びに行かせるついでにお金も持たせてお土産を買うこともユディットに言い付けておいた。

 メリッサと合流してから買うように言ったので、メリッサがいれば間違ったものは買ってこなかったはずだ。


「……悪いな」


「大人のマナーってやつさ。


 気にすんな」


 訪問する相手先に軽い手土産ぐらい持っていくのがいいことぐらいジも知っていた。

 これで子供たちに邪魔もされずに話を聞くことができる。

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