守られるべき家5

 神に祈っても腹が膨れるわけでもボロボロの孤児院が直るわけでもないと言い、リアーネの頭を笑って撫でてくれたことは今でも覚えている。

 だからリアーネは冒険者になった。


 自分にできるのはこんなことしかないし、少しでも恩返しがしたかったのだ。

 必死になってお金を貯めて魔獣との契約を交わすと少し生活が楽になった。


 シスターは危ないことはしないでほしいとは口で言ったがリアーネのことを尊重して強くは止めなかった。


「ただ、やっぱさ、人は、死んじゃうんだよな……」


 リアーネの声が震えている。

 老齢だったシスターはあくる日、孤児院の子供たちに見守れながら眠るように亡くなってしまった。


「知らなかったんだ。


 孤児院がそんな状態だったなんて」


 シスターが死ぬのを見計らったかのように借金取りがやってきた。

 すでに元孤児だった子がシスターの代わりに孤児院のために頑張っていたのだけど借金取りに突きつけられた書類を見て驚いた。


 孤児院の経営は元々慈善事業であったこともあり非常に危ういものであった。

 その上貧民街への施しもやっているのは孤児院を経営するのと同じ教会でもあった。


 孤児院の経営は借金で成り立っていた。

 その金額は意外と大きくとてもじゃないけれどすぐにどうにかできるものでもなかった。


 みるとかなり前から少しずつ借りていたようで一回あたりの金額は大したものでなくとも積み重なっていた。

 最近になって借金する金額が増えていて、そんな時にお金を借りていたところが債権を別の借金取りに渡してしまったみたいだった。


「どうやら戦争が悪いみたいだな……」


 いつかは破綻していただろう。

 ジの記憶にもうっすらとある。


 いつ頃からか貧民街にそうした慈善の施しがなくなってしまって誰かが文句を言っていた。


 大きな都市よりも田舎の方が貧しい人が多い。

 慈善事業を行う神様は大体貧しい人の味方でその勢力域も都心よりも田舎にあることは珍しくもない。


 教会が信奉するのは女神アルフィオシェント様。

 フィオスの名前の元になった女神様だ。


 貧しい者の味方で慈愛に満ちた女神様なのだけど貧しい者は数がいても金はない。

 そしてまずかったのはアルフィオシェントを信奉する教会が王弟側についてしまったのだ。


 田舎の方に領地を与えられた王弟は自分の領地民に施しを多くしているアルフィオシェントに寄付をしていた。

 そのために王弟側に付いてしまったのだ。


 けれども戦争の結果は王弟側の惨敗。

 それだけでなく王弟は黒魔術や悪魔との関係を疑われてしまった。


 王弟側に付いていた聖職者の勢力は非常に追いやられた立場になってしまった。

 貧しい者の味方のアルフィオシェントの小さかった勢力はより小さいものになった。


 戦争で寄付金額も大幅に減ったので孤児院の経営は完全に首が回らなくなって、借金に頼らざるを得なくなった。


 このままでは借金取りに孤児院が取り上げられてしまう。

 シスターが守ろうとした孤児院。


 リアーネも守りたいと思ったのだけれどリアーネもそんなにお金を持っている冒険者じゃなかった。


「私がどうにかしなきゃいけないんだ。


 でもちょっと仕事でヘマしちゃってさ……」


 割の良い仕事にはその理由がある。

 魔物討伐でリアーネは死にかけたのであった。


 稼いだお金も治療費に消えた。

 残された時間も多くなくて肩を落として歩いているところをジに見つかってしまった。


「私あんまり頭良くないからどしたらいいのか分かんなくて……」


 泣かないけど泣きそうになる。

 有名になれれば一発逆転もある冒険者だけど基本はコツコツとやっていくしかない。


 ケガや装備のメンテナンスもあるから実はそんなに儲かる仕事でもない。

 リアーネには一気に儲ける方法なんてありはしなかったのである。


「……どうしたらいいのかな」


 孤児院は帰る場所ではない。

 無くなっても今のリアーネに困ることはないが困る人はいるしリアーネにとっては大切な場所。


「……そうだな、まずご飯でも食べようか」


「な、そんなことしているひまがあるわけ……」


 反発して立ちあがろうとしたリアーネの手を掴む。


「お腹が空いていると人は大体悪いことを考えるもんだ。


 満腹にして、脅威のない場所で落ち着いて考えるんだ」


 どうしようないこともある。

 だけどどうしようもなく思えることの中で、結構多くのことは冷静になって考えるとどうしようもないことじゃない。


 リアーネはケガもしてお金もなくて周りが見えてない。

 いつものような快活な感じがなくて、目の光はとてもか弱かった。


 追い詰められると人間何をしでかすか分からない。


「ご飯食べたら俺も考えるからさ」


「でも……」


「リアーネに関係あることなら俺にも関係あるさ」


「……ジ」


「いいか、ここに一度でも寝泊まりしたらもう家族なんだ。


 だからリアーネは俺の家族だ」


「ずるいよな……お前、カッコいいじゃん…………」


 はるかに年下の子供なのにどうしてこんなにも頼ってしまいたくなるのか。

 なんだかジなら何とかしてくれるのではないか、そんな気すらしてくる。

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