守られるべき家4

 子供のように手を引かれるのは大きなリアーネ。

 みんなは奇妙なものを見る目で2人を見ていた。


 貧民街までそのまま来た。

 ここまで来るとまたあの子が何かをやっていると好奇の目は向けられても気にしてくる人は減った。


「あっ、おねえーちゃーん!」


「顔どーしたの?」


 家の前で遊んでいたタとケがリアーネに気づいた。

 久々に家にきたリアーネに喜んで近づくと顔に大きなアザがあることがすぐに分かる。


「こ、これはなんでも……」


「痛くない?」


「大丈夫、ここに叩く人はいないよ!」


 慌てて誤魔化そうとしたリアーネの足にしがみつく双子。

 純粋無垢な心配がリアーネの心に突き刺さる。


「ぬえぅ〜……ふうん!」


「きゃあ!」


「どうしたの、リアーネお姉ちゃん?」


 ジの心配を受けてちょっと弱っているところに双子の優しさが心に染みる。

 不思議な声を出してリアーネが双子を抱きしめて、そのまま抱きかかえる。


「苦しいよー」


「ゴメン、ちょっとだけこうさせてくれ」


「しょうがないなぁ」


「ちょっとだけね」


 そう言って双子もリアーネの首に手を回して抱き締める。


「感動的な光景……なのか?」


 まあ双子は子供の無垢さのようでありながら、まるで聖人のような包容力があると感じる時がある。

 貧民街にありながら貧民街にふさわしくないほどの真っ直ぐな性格に育っている双子に顔を埋めたくなる気持ちも分からないでもない。


「とりあえず家の中には入ろうか」


「ん……」


 双子を抱えたままゆっくりと家の方に向かう。

 しょうがないのでジがドアを開けてやる。


「何があった?」


 家にいたグルゼイも双子に顔を埋めて入ってきたリアーネにギョッとする。

 リアーネだとはすぐに分かったけれどなんで3人が1つの塊になってるのかそっとジに尋ねる。


 ジは肩をすくめる。

 何があったのかはこれから聞こうと思っていたのだ。


「あの、俺はどうしたらいいですか?」


 メリッサは途中で帰ったけど、実はユディットもずっといた。

 後援云々の時もその場にいたのだけど経験のために連れて行ったので黙ってジの後ろについて回っていた。


 フェッツとのやり取りに非常に感心した。

 そしてリアーネに対する態度にも男らしさを感じていた。


 感じてはいたのだけど蚊帳の外でどうしたらいいのか困惑し通しだった。


「うーん……来ないとは思うけど来客があったら都合が悪いことを伝えて入れないようにしてくれないか?」


「分かりました」


 少しは従者みたいなことも任せてみる。


「落ち着いた?」


「もう大丈夫?」


「……そうだな、ありがとう」


「またいつでも抱きしめてあげるから!」


「えへへっ、いつでもおいで!」


 仮に天使がいるならこういう感じなんだろうと思わずにいられない。

 ここに来たということは過去でもこの貧民街に来ていたはずなのに記憶にないのはどうしてなのか不思議だ。


 これほど目立つ存在覚えていないはずがない。

 もしかしたら目立ちすぎて何か事件に巻き込まれでもしてしまったのだろうか。


 ジとだけ話したいというリアーネの要望を聞いてジの部屋に2人きりになる。

 本来ならメリッサと食事にでも行くつもりだったけどそうし損ねたので双子とグルゼイにはご飯でも作ってもらうことにした。


「それで何があったんだ?」


 ベッドじゃなくても不便はない。

 相変わらず床にマットレスなんかを直接敷いて寝ているジはポンとそこに座るとポンポンと隣を叩いて横に座るように促す。


「……前にも言ったけど私は孤児院の出身なんだ」


 ジの横に膝を抱えて座るリアーネは少し小さく見えた。


 貧民街で過ごす子供もいる中で教会なんかがボランティアで行っている孤児院というものも存在する。

 抱えられる子供の数は多くなく常に一定の子供がそうした施設にお世話になっている。

 

 朝のお勤めや教会の清掃をしたりして将来的には神官になったりするような子もいて、貧民街が最後の最後の行き着く先だとしたらその手前ぐらいにあるのが孤児院である。

 孤児院は大体が教会でやっていることなのでお祈りだったりその教会の神様だったりを信奉したりしている。


 だから宗教に帰属したりしなくてもふとしたところにやはり教え込まれた礼儀作法が滲み出ることが多い。

 リアーネはそんな宗教的な感じが一切感じられなかった。


「今だってお祈りとかそんなものしやしないんだけど、それは孤児院のシスターが変な人でさ。


 何か手伝ったり、掃除したり、真面目に人助けするなら別にお祈りなんかしなくてもいい、神様はきっと見てるなんて言う人だった」


 リアーネがいた孤児院は貧民街とそれほど変わらなかった。

 ただ帰る場所があって飢える心配がないだけ貧民街よりもマシっていうだけの場所。


 そこの悪ガキの大将がリアーネだった。

 乳飲み子の頃から孤児院で育ったリアーネは早くから自分に親がいないことを悟っていてクソガキだった。


 どうせ親はいない。

 捨てるなら捨てればいいと孤児院の中でも暴れん坊でシスターには相当な苦労をかけた。


「でもシスターは言ってくれたんだ。


 どんなことをしても、何をしてもお前のことは見捨てないってな。


 だからって甘い人じゃなくて悪いことをすればぶん殴られたよ。

 でも飯を抜いたりすることは決してなかったし寒い冬でも火は絶やさなくて凍えさせたりしない、私にとっての母だった」

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