フィオス商会2

「だから俺はしたい仕事しかしない。


 そして俺はお前さんと仕事をしてみたいと思ったんだ」


「ノーヴィスさん……」


「だから聞きたいんだ。


 お前さんがどうするつもりなのか。


 俺たちをどう守ってくれるのかを」


 ジにとっては大きな決断。

 これ以上は責任がジにつきまとうことになり、人の人生を背負わなきゃいけなくなってしまう。


 心の中に葛藤があって決めきれなかった答えを出す時がきたのだ。


「俺は……自分の商会を作るつもりです。


 考えていたのはこちらの工房との提携ですが商会の傘下に入ってもらうことも必要ならやるつもりです。


 ただ……」


 貧民街の子供が作った商会の下につくことになる。

 商人ギルドに認められた商会の元にあるならば容易に手を出すことはできなくなるけれど、その商会長はジになってしまう。


 そうなるとノーヴィスの工房とはいえなくなってしまう。

 ジの商会が抱える工房となってしまうのだ。


 実質的な変わりはないのかもしれないけれど職人にはそのようなところに大きなプライドを持つ人もいる。


 それでいいのか。

 ジは完全に商会の下に置くのではなくこのまま製作等を依頼する提携の工房ぐらいの関係で良いのではないかと思っていた。


「俺は構わねぇ。


 大切なのはどんな仕事をするかだ。

 そしてお前さんが持ってきた仕事は俺の心を燃やしてくれた。


 子供に言わせちゃならないな……俺から頼もう。

 俺を、俺の工房や弟子もまとめてあんたの元で働かせてくれないか」


 ノーヴィスが立ち上がってジに頭を下げる。

 もうとっくに覚悟はできていた。


 自分は工房を持つ器ではなく、あくまでも1人の職人として腕を振るう方が性に合っている。


 弟子にもこのことは伝えてあるし嫌なら他の工房を紹介するとまで言ってあった。

 ただノーヴィスの工房は1人も離れなかった。


 みんなノーヴィスの判断に従い、ノーヴィスの腕を信じていた。


 下手すれば自分の孫ぐらいの年齢層の子供に頭を下げるなんて普通の人でもできることではない。


「分かりました。


 商会を作ります。

 そしてノーヴィスさんには俺の商会の傘下に入っていただきたいです」


 こんな男の覚悟を受けてはジも引くことができない。


 今この時が新たなる商会が生まれた瞬間なのであった。


「俺はこれから一商会員になるわけだから肩の荷が下りるってもんだ」


 ニヤリと笑うノーヴィスと握手を交わす。


 こうなってくると忙しくなる。

 商会を作りますで勝手に出来るものではない。


 やると言ったのはいいけど後のやらなきゃいけないことを考えると気は重い。


「これからよろしくな、商会長」


「よろしくお願いします、商会員」


「ふふん、そうでなくちゃな」


 ーーーーー


 ジはヘギウス商会を訪ねた。

 商会を作ることの相談もあるし、必要なこともあった。


「あら、ウェルデン会長はいらっしゃいませんよ?」


 子供が単独で商会を訪ねてくることなんてない。

 ましてジは前にパージヴェルに連れられてヘギウス商会に来て、ウェルデンに会っていた。


 ヘギウス商会の人たちからすると何者なんだあの子はとなる。

 当然知っている人もおらずウェルデンも何も言わなかったのでひっそりとジはヘギウス商会の中で丁寧に扱わねばいけない人物であることになっていた。


 アポイントも無しに訪ねてきてもヘギウス商会の人はジに丁寧に接してくれる。


「いえ、今日はエムラスさんにお会いしたくて来ました」


「エムラスさんですか?


 お約束はおありですか?」


「いえ、ありません。


 でも決めましたと伝えてください」


「あっ……はい。


 少々お待ちください」


 不思議そうな顔をして受付の人がエムラスを呼びにいく。


 以前にエムラスはジに同行してノーヴィスのところに行っているので2人は面識があるのだけどギルドの人からするとどこで知り合ったのか疑問だった。

 エムラスはすぐに出てきた。


「年寄りをずいぶんと待たせるものですな」


 待てど暮らせどジからの連絡も無い。

 なので前にした提案は過ぎたことで断られたものかと考えていた。


「すいません、色々俺も大変で」


「それで決めたとは?」


「俺、商会を作ろうと思うんです」


「おおっ!


 それではまさか……」


「そのつもりです」


「これはこれは!


 あの子もあなたにお会いできることを楽しみにしておりました。


 ここでは何ですから……1つ会議室を使わせてもらうよ。

 それとメリッサを呼んできてもらえないかな?


 前に言った資料を持ってくるようにも伝えてくれ」


「はい、わかりました」


 エムラスは商会員に声をかけた。

 メリッサが誰なのかは聞かずともジにも誰だか分かっていた。


「今日は商会を作るためにどうしたらいいのかの相談と以前に言っていただいたスカウトの件について来ました」


「まあ待ちなさい。


 今我が孫娘、メリッサが来るだろうからそれからでも遅くはない」


「失礼します」


「良いタイミングだ」


 会議室に若いメガネの女性が入ってきた。

 エムラスと同じ緑に近いブルーの瞳の赤毛の女性で真面目そうな顔をしている。


「え、ええとはじめまして!


 私はメリッサと申します。

 お爺さま……エムラスさんにはお話伺っております!」


「メリッサ、ここではいつも通りで構わないよ」

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