意外と会う機会あるよね6
「魔獣の分もあるので、どうぞ魔獣も出してください」
「い、いえ、私は」
「フィオス」
「お、おい!」
「いいんですよ」
オランゼはジが他の人と仲が良いことを知らない。
さらっとフィオスを呼んで床に放つジにオランゼは慌てるが誰も不快に思う様子もない。
相手が止めもしないのにオランゼが必死に止めるのもおかしな話。
「ヴェライン」
「メデリーズ」
ウルシュナとリンデランも魔獣を呼び出す。
イフリートのヴェラインとカーバンクルのメデリーズである。
カーバンクルは小さい魔物なのでサイズ感はそのままでイフリートは小さくなっていた。
大きい時はとても雄々しく威圧感があったイフリートであるが小さくなると角の生えた二足歩行の獣のようである。
「お前って偉いのか?」
ヴェラインとメデリーズは呼び出されてすぐにフィオスに頭を下げた。
そういえばニノサンの魔獣もそのようなことをしていたのをふと思い出した。
魔獣が他の魔獣に頭を下げているところなんて見たことがない。
どことなく誇らしげに跳ねるフィオスはとても頭を下げられる魔獣には見えない。
「何ででしょうか?」
「わっかんないね。
特にコイツプライド高いのに」
リンデランも魔獣の行動の意味がわからずに首を傾げる。
ウルシュナは歯をムキッとするイフリートの頬を突いていた。
反抗的な態度だけどウルシュナを噛むような真似はしない。
そしてメデリーズはジにも頭を下げた。
エの魔獣のシェルフィーナも頭を下げていたなと思いながら頭を下げ返す。
ヴェラインはジのことを無視してプイと顔を逸らしてしまった。
魔獣とご挨拶なんて過去ではなかったこと。
不思議なものだけど面白いものである。
パージヴェルやルシウスに聞いてみると契約者が深く敬意を払っていれば魔獣にもそれが伝わって魔獣も相手に敬意を払うことがあるらしいと言われた。
それじゃあ私がジに敬意払ってないみたいじゃんとウルシュナはヴェラインの頬を強く突いていた。
別にウルシュナが敬意を払っていないとかジのことを何とも思っていないわけじゃない。
むしろ何とも思っていないわけじゃないからヴェラインはジのことを無視したのだ。
要するにヴェラインは契約者であるウルシュナが何かしらの思いを抱えるジのことが気に入らなかったのである。
魔獣の性格もそれぞれ。
どう対応するかは契約者にも分からないところがあるのである。
「青いカーバンクルって珍しいな」
「そうなんです。
みんな見たことないと言うのでとても貴重な子みたいです」
リンデランの魔獣はカーバンクル。
一般的には額にある宝石は赤いものなのであるがリンデランの魔獣であるメデリーズの額には青い宝石が輝いている。
「おっと」
「あら、メデリーズは人見知りするのに……珍しいですね」
フワフワとした不思議な生き物であるカーバンクル。
ジッとメデリーズを見ているとメデリーズの方からジの腕に飛び込んできた。
ウルっとした瞳で見上げてきて、どことなくリンデランにも似ている気がする。
そっと撫でてやると気持ちよさそうにしていて非常に可愛らしい。
「おお、どうした?」
「嫉妬じゃないですか?
可愛いですね」
メデリーズを撫でているとフィオスがグリグリと間に体をねじ込んできた。
見たこともない行動にジも驚き、リンデランは微笑ましそうにしている。
「分かった分かった、お前も可愛いよ」
メデリーズをリンデランに返してフィオスを抱えて撫でる。
嬉しさの感情がすぐに伝わってきて、フィオスの体がプルプルと揺れる。
フィオスの触り心地も他では味わうことのできない気持ちよさがある。
「意外と嫉妬深いんですね、フィオスも」
「な、コイツも触るか?」
「いや、指噛みちぎられそうだからやめとくよ」
ウルシュナがヴェラインを抱きかかえてジに差し出す。
ウルフが敵意を丸出しにするように歯を剥き出しているイフリートはちょっと怖い。
触ってみたかったけどタダじゃ済まなそうな気配があるのでやめておいた。
「んじゃ代わりにフィオス触らせてよ」
「何の代わりでもないけどいいぞ」
イフリートもカーバンクルも滅多にいない魔物だけどスライムもそんなにいる魔物ではない。
その面白い感触と触り心地にウルシュナとリンデランはしばらくフィオスをいじりまわしていたのであった。
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