意外と会う機会あるよね5
パージヴェルがそっと目を逸らす。
助けに行ってリンデランが死にかけたなんて言えるはずもなく詳細は語っていなかった。
なんだかパージヴェルの様子がおかしいことは丸わかりだったのでヘレンゼールを捕まえて聞き出していたのだ。
パージヴェルの秘密を決して漏らすことのないヘレンゼールもリンディアには弱かった。
だからやたらとリンデランを可愛がり自分に冷たい時があったのかとパージヴェルの中で合点が入った。
「ごめんなさいね。
ほんとはもっと早くに会って直接お礼が言いたかったのだけど中々タイミングが合わなくて」
「いえ、そんな。
貧民の俺を友達だと言ってくれる貴族の友人が出来ただけでも俺にとっては出来すぎたぐらいの幸福ですから」
「ウチの人よりもあなたの方が貴族みたいよ」
「私はちょっと家を空けていたからそんなことが起きていたなんて知りもしなかった。
実家が遠いというのも考えものだ」
娘や孫を助けてくれた人物がいて、それも一度や二度ではない。
さらにその人物のことを話す時、自分たちが見たこともない顔をしていたのだから会ってみたくもなる。
普通に招待して食事でもするつもりだったのだがたまたまジがオランゼのところで働いていることを知って、何かに利用できないかとリンディアが考えたのだ。
ジが別に事業をしていて、商会の設立を検討していることもウェルデンに聞いていた。
孫のためにと一肌脱いだ。
全ての黒幕はリンディアであったのだ。
成り上がり商家と貴族の恋物語。
どこかで聞いた話であり得ない話でもない。
どこかのおバカさんのような一目惚れの熱いアタックはなさそうだけど今時女性から働きかけてもなんらおかしいことでない。
最近の貧弱貴族子息よりははるかに聡明そうでリンディアは悪くないと思っていた。
態度も好ましい。
加えて事業の才能があることでウェルデンはジを褒めていた。
「あなたウチの娘に勝ったらしいわね?」
「……たまたまです」
「ウチのウルシュナは偶然負けるような子かしら?
何回もウルシュナが挑んだらしいけど一度も勝てなかったと聞いているわ。
もしかしたらウチの娘はすごく運が悪いということかしら?」
「それは……」
「ふふふ、あなたの方が強いでいいのよ。
ウチのお転婆娘は同年代に自分より強い人なんていないなんて鼻にかけてたからちょうどよかったわ。
そうしたところも感謝しているの」
少し怒らせてしまったかと思ったけどすぐにまたニヤリと笑うサーシャ。
お転婆娘はサーシャの方じゃないかと思わずにはいられない。
「今日は本当に食事会をするつもりだったのよ。
たまたまもう1つ理由が乗ったっていうだけの話。
こちらにお座りなさい。
もうウェルデンの話し合いも終わるでしょう」
リンディアに背中を優しく押されて席に座る。
「あなたはこっちよ」
「えっ、お母様?」
まあ若干予想していた。
ジの右隣にはリンデランが、左隣にはウルシュナが座る。
ウルシュナはサーシャに無理矢理座らされていたけど。
「えと、お久しぶりですね」
「そうかな?
……そうかもな」
リンデランたちに会うのは誘拐から帰ってきてまた大神殿に入院して以来となる。
そんなに長い時間会っていなかったようにはジには思えなかったけど子供の感覚で言ったら久々になるのだろうと思った。
過去では会いたくても会えなかったり長いこと会えないことが常だった。
段々と長い時間が空いても会えればそれで良いと思えるようになっていたのでよほど期間が空かなきゃ久々だと思わなかった。
大人の時間と子供の時間は違う。
会った時はジの方が小さかったのにいつの間にかリンデランと同じ視線の高さになっている。
初めての時からそんな時間も経っていないと思ったのに見た目の変化が少ない大人に比べて子供は日々変化していっている。
「私はなんだかジさんに助けてもらってばかりなのに、何も返せていませんね」
「俺たちは友達なんだろ?
なら助けるのは当然だし何か返さなきゃなんて考えなくてもいいよ。
何か返したいってなら別に止めないけど負担にならない程度でそのうちで構わないから」
「じゃあ少しずつ返したいのでまた会ってくれますか?」
「ん、ああ。
もちろん、そっちがいいなら会いたいな」
「ふふっ、嬉しいです」
「おかーさまうっさい……」
リンデランとジが仲良く会話をしている。
その様子を見てサーシャがお前も行け!と割と堂々とサインを出している。
ジとは仲良くなりたいけど母親の方がはしゃいでいてウルシュナは恥ずかしい。
「昔から強い人がいいなんて言ってたでしょ?」
「別にそれがジのことじゃないし!」
「身分差は私は気にしないわよ?」
「もー!」
「あははっ、まあ好きにしなさいな」
「……いいお母さんだな」
「もー、やだぁ……」
「サーシャさんはすごく楽しくていい人ですよ」
その後ウェルデンに連れられてオランゼも来て食事会が始まった。
オランゼはマナーにとらわれてガチガチになっていたけれどジは美味しい料理を堪能した。
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