意外と会う機会あるよね2

「……オランゼさんは俺のことを認めてくださいました。


 いきなり押しかけた俺のことを使ってくれて、受け入れてくれたから今があります。


 俺でよければお手伝いさせてください」


「ジ……」


 感動するオランゼ。

 多分この話が来たのは自分のせいだということはおくびにも出さずジはオランゼのためならという態度を押し出す。


「ありがとう……しばらく負担をかけることになるがどうかよろしく頼む」


「分かりました。


 俺はどこを担当すればいいですかね?」


「実は先方の方から中でも優秀な人をと言われていてな。


 だからこそ君のことも思い浮かんだのだ。


 君なら他の人よりも肝がすわっていることもあるし新しい区画を担当してもらおうと思っている」


「となると結構遠いですね」


「そうだな、貧民街からだと結構遠い……場所が分かるのか?」


 まだ2つの貴族の名前を出しただけなのにどこらへんなのかジが分かっているようでオランゼは驚いていた。


 オランゼもどこを担当するか最初話を聞いたとき分からなくて改めて区画を確認して驚いた。

 平民街を中心にしてそこからじわじわと広げて行っていたのに貴族街の中でもさらに高級住宅街にいきなり事業参入することになった。


 地図上で見るとゴミ捨てをやっている他の区画とは隣接しておらず、飛び地になる形になっている。

 そうした位置的なところもネックになっていた。


 馬車でゴミを運んでいては間にある貴族たちが良い顔をしない。

 上級貴族の区画なので文句は言わなくても不満は溜まるだろう。


 そう言った意味でも素早く、かつ運搬の必要もなくゴミを処理できるのはジしかいなかった。

 時間については早くから処理することに拘らないとは伺っているがそういうわけにはいかない。


 若干遠いし何回か一緒に回ってみる必要があると思っていた。

 なんとなく場所が分かっているならオランゼとしてもありがたい。


「たまたまなんとなーくあそこかなって……」


 たぶんオランゼよりも知っている場所である。


「実は明日私とその区画を担当することになるものと先方で食事会でもしないかと言われていてね……」


「なんの冗談ですか?」


「冗談なんか言わないよ……だから困っているのではないか」


「担当はまだ決まっていません、でオランゼさんだけ行ってくださいよ」


「是非にと言われているんだ。


 たとえジが担当でなくても誰かは連れて行かなければいけない」


「いやいやいや、じゃあ適当に連れて行ってください」


「ダメだ。


 ……明日来てくれれば一月分の給与を出す」


「わかりました」


 お金は大事。

 まあ変なことにもならないだろうし飯を食べるだけなら構わないだろう。


「チョロいな」


 オランゼは短い付き合いながらジについても少しどんな子なのか分かってきた。


 対価さえちゃんと払えばジは割となんでもする。

 悪い言い方をすればもらえるならお金に若干がめついところがある。


 ーーーーー


「あーぁ……」


 いざ当日となると気が重い。

 出来るだけ綺麗な格好をしてこいと言ったので割とマトモな服を着てきたのだけどオランゼの商会に行ったら服が用意してあった。


 小さくて着られなくては困るけど多少大きな分にはいいだろうと用意された服はブカブカだった。

 もうそのままでいいから行くぞと言われて馬車に乗せられたのでジはブカブカの服のままだった。


 それもまたジの気を重くさせる原因であった。

 こんなことするなら昨日服買うのにも付き合ったのにと思う。


 オランゼはもうすでに馬車の中で固くなっているし、ジの服が大きくてちんちくりんなことにも疑問を持っていない。


「失礼します。


 お約束はおありでしょうか?」


 もう見たことある景色になったなと思っていると馬車が止まった。

 外からノックがされて声をかけられる。


「あ、は、はい!


 お約束しております!」


 馬車のドアを開けて返事をするオランゼ。

 せっかく開けられる小窓のついた馬車を借りたのだからそこから返事をすればよいのに。


「オランゼ様ですね、伺っております。


 どうぞお入りください」


 門番が合図をすると門が開く。


「落ち着いてください。


 こっちまで恥ずかしくなりますから」


「グッ……なぜお前はそんなに落ち着いていられるのだ」


 なぜかって?

 そりゃ何回かこちらに来たことがあるからね。


 門からも少し馬車が進んで止まる。


 心落ち着ける暇もなく執事の人がドアを開ける。


「オランゼさん」


「あ、あぁ……」


 オランゼが馬車を降りないとジも出られない。

 ジが声をかけるとオランゼは慌てて馬車を降りる。


「ようこそ、明日の友を歓迎しよう」


「ほ、本日はお招きに預かりまして、光栄でございます。


 パージヴェル・ヘギウス様に……」


「堅苦しい挨拶はなしだ!」


 パージヴェルはオランゼの肩を掴んでウインクする。

 そう、ここはヘギウス家。


「えっとこちらが今回担当になりますジと申します」


「おおっ、こちらが……んふっ、失礼……いや、ずいぶんとしっかりとしていそうな……ふふっ」


 ブカブカの貴族坊っちゃま風の服を着たジも馬車から降りる。

 死んだ顔をしたジを見てパージヴェルが目を見開く。

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