意外と会う機会あるよね3

 別に服だけを見るとおかしなものでもないのだけどブカブカとさせて着ているジは服を着ているというよりも服に着られていた。

 明らかに納得のいっていない死んだ表情もなんだか面白さを感じさせた。


 普段ならあんな格好絶対にしないだろうジを見てパージヴェルは笑いを堪えるのに必死だった。


「当主様……」


「おほん……すまない。


 まあ、何はともあれそう固くなることはない。

 歓迎しよう」


 そしてパージヴェルの隣にはウェルデン。

 今回の話を最終的にまとめるに当たってはウェルデンが窓口となっていた。


 本職の商人、しかも上級貴族の身内が仲介してくれるなら相手と結託して騙してくることはないだろうと安心して任されていた。

 ウェルデンとしてもこれまで経験したことのない事業だったので興味を持っていた。


 もちろん理由はそれだけでない。


「まずは少し仕事の話をしたいと思います。


 ジさんは先に行っていてくれませんか?」


「……わかりました」


「俺が案内しよう」


 たまらなくてニヤけるパージヴェルの後ろをついていく。


「ひ、久々だな……」


「笑いたきゃ笑ってください」


「そ、そんなわけにはいかないだろう?


 お客様を……くふっ、ふっ」


「あとで覚えておいてください。


 アレはお試しですからね、回収しますよ」


「な、ちょ、ちょっと待ってくれ!


 もうアレがないと俺は外も出られん!」


「知りません」


「あ、謝るから、いや想定している価格の10倍で買い取ろう。


 どうだ?

 悪い条件ではないだろ?」


「そうですね、考えおきます」


「お、おお、そうか!


 それにその服装も似合っておるぞ!


 うん、男前っぷりが引き立つというか……」


「無駄口叩いてないで案内してくださいよ」


 ジを説得しようとパージヴェルは立ち止まっていた。

 何回か客としてきてるのでどこに連れて行かれるのかは分かってるけどジが勝手にそこに向かっていいわけじゃない。


「くぅ……た、頼むぞ」


 さっきも言ったけど試作品だからどのみち返してもらうことはウェルデンには話してある。

 泣いて縋ろうともそういう契約だから譲らない。


 笑われたことでさらにそういう気持ちになった。


「連れてきたぞー」


「あっ、ジ……さん」


「ブハッ……何だその格好!


 ハハハッ、サイズ間違えて買ったのか?」


 案の定というか、予想通りというか、通された先にはリンデランだけでなく、ウルシュナとルシウスまでいた。

 ジの服装を見てリンデランが驚き、ウルシュナが吹き出す。


「亡くなった養父が俺のためにと買ってくれたもんでな。


 まだ俺の大きさが足りないんだ……」


「あっ……ご、ごめん……」


「大丈夫、ウソだから」


「ウ……」


「人の服装笑うからだ」


「そ、そのウソは良くないぞ!」


「こんなもん残してくれるような人じゃないから構いやしないさ」


 たちの悪い冗談だったことは認める。


「……それで、そちらのご婦人は?」


 顔の見たことある面子だけでなく知らない女性も2人ほど同席していた。

 見た目でなんとなく関係性が分かるのだけど出来ればちゃんとご紹介に預かりたい。


「こちらは……」


「待って、ルー」


 黒髪黒い瞳の美人がルシウスを制して立ち上がる。

 ジの前まで来るとスッと手を差し出す。


「……お会いできて光栄です、マダム」


 本来なら膝をつくのがよいかもしれないが身長の関係で膝をつくと手に届かなくなってしまう。

 手を取りお辞儀するように女性の手の甲に頭を近づける。


 唇までは当てない。

 手の甲にキスをするフリである。


「ふふっ、マナーをご存知なのね」


「たまたまです」


「私はサーシャ。


 ウルシュナの母親よ」


 お淑やかに笑うサーシャはウルシュナにそっくりだった。

 髪や瞳の特徴からウルシュナの母親だと分かっていた。


 ウルシュナはルシウスの顔の特徴も受け継いでいてやや柔和な雰囲気があるけどサーシャはウルシュナよりも勝ち気な顔をしている。

 非常に若く見えて母親よりも年上の姉にも見えるぐらいである。


「あなたのことは主人や娘から聞いているわ。


 とても良くできた子だとね」


 貧民の子だとも聞いているはずなのにこんな試すようなことをするあたりウルシュナの母親って感じがする。


「おや、なら私も作法にのっとりましょうか」


 もう1人の見知らぬ女性も立ち上がりジに手を差し出す。

 シワがあり年齢を感じさせる手だけどとても綺麗で美しく年齢を重ねた手でもあった。


 年齢のために元々白髪なのか、歳をとったために白いのか分からない。

 動作一つ一つが上品で、それでいながら全てが自然な年配の女性。


「私はリンディアよ。


 パージヴェルの妻、リンデランのおばあちゃんになるわね。


 リンデランがお世話になっているみたいね」


 笑顔も上品で穏やか。

 リンデランはパージヴェルよりもリンディアに似ているようである。


「ご丁寧にありがとうございます。


 私はジです。


 卑しい身分ではございますので礼儀作法につきましてはご容赦ください」


 サーシャにやったようにリンディアの手の甲にもキスをするフリをする。

 本当のパートナーでもないのに実際に口をつけるのはマナー違反であるからだ。

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