意外と会う機会あるよね1

 戦勝ムード。

 内紛が始まってから1年が経ち、王弟側はほとんど負け寸前にまで追い込まれていた。


 というのもビッケルンのことが大きかった。


 誘拐された子供たちを助けるためにロイヤルガードが2人も出て軍の一部を率いてビッケルンを攻めた。

 敵も想定していなかった攻撃に簡単に侵入を許してしまった。


 ジによる事前の情報により、何かの儀式を展開しようとしていることがわかっていた。

 地図やビッケルンの勢力と照らし合わせて子供が捕らえられていそうなおおよその場所を割り出して迅速に行動した。


 その結果リッチや悪魔といったものが見つかってひどい戦いになった。

 幸いにしてリッチを操るためのライフベッセルを悪魔が身近に置いていたためにリッチを討伐することはできたのであるが何体かの悪魔には逃げられてしまった。


 1箇所だけ先に察知されて子供を取り戻すことができなかった場所があったことを除いて、他の子供は取り戻すことができた。

 続いてビッケルンのところに向かったのだけれどすでにもぬけのからでビッケルンは逃げた後だった。


 ただ慌てて逃げ出したのかそこには黒魔術を研究していた痕跡が残っていた。

 リッチとも戦ったわけであるしビッケルンが禁忌とされる黒魔術に関わっていたことは確実であった。


 そしてビッケルンは王弟側の大きな支援者でもあった。

 王弟が黒魔術に関わっていたとか、ビッケルンが関わっていたことを知っていたかなんて本当のところは関係ない。


 黒魔術や悪魔と関わることで得られた利益を受けて王弟が戦争をしていたということだけで十分で、聖騎士たちが王弟に話を聞きたいと向かったのだが王弟側は拒絶した。

 ただでさえ戦況は王弟側が大きく不利なのだ、ここで王弟が抜けるわけにはいかない。


 結果的に王弟は黒魔術に関わりがあったとみなされることとなった。

 聖騎士が王様側につき、王弟側についていた聖職者は王弟側から離れた。


 王弟が抜けても抜けなくても結果に変わりはなかった。


 治療を担う聖職者の脱落が起きてしまったので戦況はさらに傾いた。

 戦争は加速して王弟側は敗戦を重ねて追い詰められつつあった。


 すでに大勢は決した。


 元より首都においては戦争による重たい雰囲気なんてないに等しいものであったが、勝ちが見えたとあってはみんなの気分も上向いていた。


「助けてくれ、ジ」


 そんな中で浮かない顔をしていたのはオランゼであった。

 いつものように仕事を終えて報告に来たところでジを呼び止めた。


 オランゼがジを呼び止めるなんて珍しい。

 険しい顔をしたオランゼはジの前に紅茶と砂糖の入った容器を置く。


 砂糖を使うことをやや渋るオランゼが好きに使えと砂糖をジの前に置くことはそうない。

 それだけ大事な用事があると自然と察する。


 せっかくジが想定していたよりも被害なく、早く戦争も終わりそうだというのにここでなんの問題が起きたというのか。


「何があったんですか?」


 オランゼが助けてくれなどとジに言う事態が思いつかない。

 ジがオランゼを助けられることなんてあるはずもない。


 最近また事業も拡大したばかりで順調だと聞いた。


「実は事業拡大の話が舞い込んできたんだ」


「はぁ……」


 なんだ、悪い話じゃなさそうではないか。

 心配して損したとザッと紅茶に砂糖を入れる。


「それが貴族街の一等地の話でな、是非ともこの話を引き受けたいところなのだが問題がある」


 とうとうそんなところから話が来るまでになったのか。

 おそらくオランゼの事業も過去よりも早いペースで進んでいる。


 ジが前に担当していた小うるさい貴族との摩擦もないようで事業は上々。


「非常に向こうも好意的に話を持ってきているのだけれど今はタイミングが悪い。


 つい先日新しく雇った人も本格的に投入して事業を拡大したばかりなんだ」


 今から人を探したり仕事を覚えさせたりすることは難しい。

 事業拡大もして人の移動もあったのでここからさらに余裕を捻出することはできない。


 今回の相手は貴族の中でもさらに上の人々になる。

 期待に応えねばならず、過剰に期間を引き伸ばすこともできない。


 現段階で自力で上手いこと話をまとめる方法がない。


「ここ最近お前さんも忙しいようだが1つ力を貸してほしい」


 思いついた解決策は1つだけだった。


 ジは1番早く報告に来る。

 余力を残して仕事をしているしジの仕事の仕方なら人を増やしたりせずに仕事を振ることができる。


「……ちなみにどこの貴族ですか?」


 ゴミ捨て事業に好意的な貴族なんて思いつかない。

 何かの意図があってオランゼに近づいているのだとジは少し警戒感を持った。


「今回話が来たのはゼレンティガム家が主導してとのことだが、どうやらゼレンティガム家とヘギウス家が話をまとめて持ってきたもののようだ」


 意図がありました。


 心を落ち着けようとジは少し緩くなった紅茶を流し込む。


「なぜいきなりウチに興味を持ってくれたのか分からないが貴族なのにやたらと好意的でな。


 俺も未だに信じられないぐらいだよ。


 4大貴族の2つがこの事業を受け入れてくれたのなら俺の商会はもっと大きくなれる。

 このチャンスを逃したくはないんだ。


 ジ、大変なのは分かるが俺のことを助けてはくれないか?」

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