過去を知るもの1

「ウルシュナ大丈夫?」


「いったぁーい……あいつ女の子の顔おもっきり殴りやがって……」


「ラ、大丈夫?」


「頭がガンガンする……」


「それは魔法で治るもんじゃないから大人しくしていなさい」


 各々道端に座って治療をしたり休んだりする。

 王様が連れてきた女性もロイヤルガードであった。


「あっ、オジ様が戻ってきた」


 そうしているとビクシムがジをお姫様抱っこするように抱えて戻ってきた。


「ジ! …………ジ?」


 ビクシムの顔が暗い。

 抱えられたジは動かず、なんだか手足の様子もおかしい。


 ビクシムの後ろから跳ねるようにしてフィオスも付いてきている。


「申し訳ありません。


 間に合いませんでした」


「な、何を……」


「この子はもう、息をしていません」


「ウソだ!」


 立ちあがろうとしてラがフラつく。


 そっとビクシムがジを地面に横たわらせる。

 手足が折れて顔や体には擦り傷だらけ、なぜか穏やかな顔をしていて満足げな表情にも見える。


「ウ、ウソ……どうして…………」


 ふらふらと近寄ったエがジに治癒魔法をかけるがジに魔法がかけられない。


「ムダだ。


 死者は治療ができない」


「うるさい!


 ジは……ジはこんなところじゃ死なないの!」


 何度やっても回復魔法であってもジの体は治せない。


「どうして……どうして!」


 助かったと思って明るい雰囲気だったのが一転、誰もが口をつぐむ。


「やめろよ。


 やめてくれよ、フィオス」


 フィオスはジの胸の上に乗っていた。


 ペタリと潰れるようにくっついたり、ポンポンと飛び跳ねたりしている。

 まるでジに起きろと言っているようで、そしてジが死んでいることが理解できないかのように。


 居た堪れなくてリンデランが泣き出す。

 それを受け止めるウルシュナも目に涙を貯めて小さく震えていた。


「やめろってフィオス……もうジは死んでるんだ」


 何をしてもジは目を覚さない。

 伝説級のアイテムならいざ知らず、子供の治療では死んだジの頬の傷すら治すことは叶わない。


 プルプルと震えるフィオス。

 感情も知恵もないと言われる魔物であるはずのスライムだったが今フィオスが何も考えていないなどとは到底思えなかった。


「フィオス……何をするつもりだ。


 フィオス!」


 フィオスが体の一部を触手のように伸ばした。

 そして先端を鉄のように硬くするとジの胸に刺した。


「何をしている!」


 ラがフィオスを引き剥がそうとするがフィオスはジにペタリとくっついて鉄化する。

 フィオスが何を始めたのか分からず全員が困惑する。


 魔獣が契約者を害することなどない。

 なのにフィオスが取った行動に誰もが理解が及ばない。


「待つんだ、少年」


「こんなことって……何が」


「魔獣はたとえ契約者が死んでも契約者を傷つけることはない。


 それなのにこのようなことをしたのには何か理由があるはずだ」


 そうでなければこの不可解な行動に説明がつかない。


 ーーーーー


「これを傷口に塗ればいい。


 2、3日すれば良くなってくる」


「ありがとう!」


「おう、もう来んなよ」


 どこかで見たある顔だ。


「医者としての技術はあるのになんで変人になっちまったんだ?」


「ふっ、まだ言うか?


 おれは救えるものは救いたいんだよ。

 ただそれだけさ」


 やたらと視点が低い。

 なんだか見え方もおかしい。


 見えないのではなく、見えすぎている。

 グルリと周り一周が見えているのだ。


 見えているともちょっと違う。

 感じられているような感じ。


 とりあえず会話する2人の男に集中する。

 1人は見たことがあると言えるのだけどもう1人は見たことがあるようなないような。


「ったく、まずは自分の身を立てることが優先だろう」


 見覚えの薄い男が見覚えのある男に紙袋を手渡す。

 

「おっ、あんがとさん。


 お前の貧乏飯美味いんだな、これが」


「褒めるんだか貶すんだかどっちかにしろ、ゴラム」


「じゃあ……お前は貧乏だ」


「おいっ」


「お前がどっちかにしろって言うからじゃないか」


「なら褒めろよ」


 そうだ、ゴラム。

 見覚えのある方の男はゴラムだ。


 変わり者の医者。

 悪いやつじゃないんだけど変なやつで、そのせいで住んでいたところを追い出された。


 頭は良いのに世の中の渡り方が下手くそなそんな奴だった。

 最後こいつとはどうなったんだっけか。


 思い出せない。


「お前はよぅ……お人好しだ」


「それは褒めてるのか?」


 見覚えの薄い男が呆れたように首を傾げる。


「俺みたいなはぐれもんにもこんな風に飯食わしてくれんだもんな、良いやつだろ。


 自分だって貧乏なのによ」


「一言余計だぞ、さっきから」


「貧乏だけど良いやつってことさ。


 ほいじゃ早速……」


 安いパンに安い肉を挟んだだけの料理とも言えないものをゴラムが口に運ぶ。


「助けてください!」


 くっちゃべってないでさっさと食べておけば2口ぐらいはいけただろうに。

 急患が運ばれてきた。


 食べかけたサンドイッチを袋に戻すと、頭を掻きながらゴラムが立ち上がる。


「こりゃあ笑い事じゃなさそうだな」


 父親と思しき男性に背負われて子供が運ばれてきた。


「何があった?」


「子供が魔物に襲われてしまって!


 息をしていないんです!」

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