未来を守るんだ5

 悩みに悩んだけれど魔物に遭遇する不安と迷子になる可能性を考えて道を行くことにした。

 子供だけでゾロゾロと道を歩いていると不思議に思われるかもしれないけれど道なき道を行くのはリスクが大きすぎる。


 段々と会話する内容も元気もなくなってくる。


「みんな全身に魔力を巡らせるんだ」


 魔力による身体強化法。

 魔力は消耗するけれど体の負担は軽くなる。


 どうせ魔力を使うような戦闘になったら終わりだ。

 そんなに魔力を使うわけでもないし体力を残しておくことのほうが大事だと考えた。


 食事を節約し、夜はみんなで身を寄せ合って眠る。

 いがみ合うエとリンデランも夜ばかりは不安が共通の敵であって文句を言い合うこともなかった。


 次の町まではおよそ7日。

 子供の足ならもっとかかる。


 最悪の時には武器も手放すことを考えながら次の町までの道のりを半分まで来ていた。

 たまたますれ違う人もいなかったので誰かに声をかけられたこともない。


 無事に帰れるかは分からないけれど、ローブの男から逃げることはできたのかもしれないなんてどこかで思っていた。


「なんだあれ?


 魔物か?」


「……マズイ!」


 鳥や蝙蝠にも見える何か。

 しかしよく見るとそれは目玉であった。


 バタバタと羽を羽ばたかせて飛ぶ目玉がジたちのことをジッと見つめていた。

 嫌な予感のしたジは剣を目玉に投げた。


 真っ直ぐに飛んでいった剣は目玉に突き刺さって目玉は黒い霧となって消えていった。


「あ、あれ何?」


「デーモンアイだ」


「た、ただの魔物……だよね?」


「……分からない」


 分からないとは答えたけど分かっている。

 剣が刺さって消えずに地面に落ちてくれば魔物だ。


 けれどこのデーモンアイは消えてしまった。

 魔物ではない。


 デーモンアイには2種類がある。

 魔物であるデーモンアイと一時的に作り出されたデーモンアイ。


「あれは……いや、先を急ごう」


 悪い予感というものは大体当たる。

 ならこんなところで立ち止まっている場合ではない。


 みんなは分かっていない。

 まだ確定したことでもないし、ジはモヤリとした不安を胸の押し込めて歩き始める。


「ラ」


「なんだよ?


 ……なんだよ」


 ジが真面目な顔をしている。

 声を抑えるようにしてジはラの横に行く。


「もし敵に追いつかれたらエを連れて逃げてくれ」


「……なんでだよ」


「今手紙を運んでるのはエの魔獣だ。


 エに何かあれば帰ってきてしまうかもしれない。


 だからエだけはなんとしても逃がさなきゃいけないんだ。

 手紙がどこかに届くことが最後の希望なんだ」


 本当の正直なところ歩いて助けの期待できるところまでいけるなんて思っていない。


 シェルフィーナが手紙を届けてくれることがジにとっては唯一の希望である。


 エが怪我をしたり、何かされたらシェルフィーナは契約者の異変を察知するだろう。

 そのまま手紙を届けようとしてくれたらいいけどまかり間違って戻ってきてしまったら終わりだ。


 エだけは守らなきゃいけない。

 ラにならそれを任せられる。


「……お前が守りゃいいじゃん」


「守るさ。


 でもどんな状況になるかは分からない。


 なんとしてでもエを守ってくれ」


「さっきからお前自分が犠牲に……」


「見つけたぞ、クソガキども!」


 まるで黒いイナズマのように降ってきた。

 ジたちの前に立ち塞がるようにローブの男が現れた。


 しかしローブの男の様子は異様であった。

 全身が黒い。黒ずんでいるとかのレベルではなく男の体は真っ黒になっていた。


 額にはツノが生え、瞳は血のように赤い。


 まるで悪魔みたいであった。


「ケビン!」


 貴族の女の子の1人が悲痛な声を上げる。

 悪魔の男の手には頭を鷲掴みにされて持たれている少年がいた。


 1人抜け出した子を放ってはおけないと追いかけていった少年だった。

 グッタリと力なく、ただ持たれているケビンが生きているのか確認も出来ない。


「散々苦労かけやがって……お前ら覚悟しろよ」


 悪魔の男の目は完全にイってしまっている。


「みんな走れ!」


 悪魔の男の言葉を聞くつもりはない。

 剣を抜いたジは素早く悪魔の男に切り掛かった。


「早く!


 町の方に抜けるんだ!」


「……いくぞ、エ!」


「待ってよ、ラ!


 ……ジが!」


 ラがエの手を引く。

 幼くても男と女の力の差はある。


 無理矢理引っ張るラにエは抵抗するけれどラの方が力が強い。

 ラについていくように他の子供たちも鍔迫り合いをするジの横を通り過ぎて走っていく。


 悪魔の男はその変色した手でジの剣を受け止めていた。


「今更逃げられると思うなよ!」


 悪魔の男はいとも簡単にジを押し返してみせる。


「フィオス!」


 ジが自分の魔獣であるフィオスを呼び出す。

 1人よりも1人と1匹の方がいい。


「スライムで何が出来る!」


「さあな、なんでも出来るさ」


 幸い悪魔の男はジを無視するつもりはないようだ。

 逃げられたり腕を切られたりと散々煮湯を飲まされたのだからまずジをどうにかするのが優先だと思った。


 たかだかスライムが魔獣なガキにこれ以上舐められてはプライドも傷がつく。


 悪魔の男は人のものとは思えない鋭い爪でジに切り掛かる。

 いつの間にか切ったはずの手も生えてきているがその理由を考える時間もない。

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