未来を守るんだ4
「あれだな、俺のこと好きでいてくれる女性かな」
「なんかふんわりした解答だな」
最終的にはどんな子であれ、自分のことを好きでいてくれるならそれでよいと思い始めた。
「考えてもみろよ。
こちとら貧民だぜ?
それでも好きでいてくれることってすごいでかいことだと俺は思うんだよ」
「そんなもんなのかなー?」
「そうだよ。
俺もお前も貧民だから気づかないだけでまだまだ貧民には厳しい世界なんだよ」
「現実的だな。
なんかさ、こう……夢ってないのかよ?」
「何の夢だよ?」
「そだな……金も仕事も心配ないとしてだ、理想の相手ってどうしてもあるだろ?
もしくはほんとに夢でもいいや」
「夢か……」
考えなかったことでもない。
でも日々が忙しく目の前のことに忙殺されてそんなに未来のことなんて考えたことがなかった。
過去では色々なことを考えた。
女性関係もそうだし、見返してやるとか金を稼いでやるとか考えて歯を食いしばったこともある。
時には周りの状況が最悪でただただ命あるだけでもありがたく、生き延びたいとだけ考えていたこともある。
それを夢と呼んでいいのかもジにはわからない。
「そうだな、年寄りになるまで生きてフィオスと俺と……それと嫁さんとでのんびりお茶でもすすっていられたら幸せかな」
ふと思い出すのは死ぬ少し前の記憶。
全てが終わって、全てが落ち着いた頃にはジは年老いていた。
世界中の不幸を背負ったような気持ちになって1人離れたところに住んでフィオスと一緒にいた。
変わり映えもしなくて、面白みもない人生の終盤だと思っていたけれど思い返すとのんびりとして心穏やかでいうほど悪くもなかった。
コップを二つ用意してフィオスとお茶するのは人生の楽しみだったし、最後にあんな風に終わるのも悪くない。
そこに今度は心を開くことができるパートナーが1人いてくれたら最高ではないか。
たわいのないことを止めどなく話して、苦いお茶を飲んでフィオスを撫でる。
ずっとつまらない生き方をしていたと思っていたけどなんだかそうでもなかったように今は思えてきた。
「なんだか年寄りくさいな」
「ステキじゃないですか」
「別にケチつけるようなつもりなんかないぞ。
ただもっと若い時の話を俺はしたくてな……」
話を聞いていたリンデランがジの横に近寄る。
若者らしくない夢を語るのは確かだけどリンデランもジの話が分からないわけではなかった。
貴族というのは忙しい。
常に責任を持って行動するべきで休める時なんて少ないものだとリンデランは思っている。
パージヴェルはだいぶ歳になっても動いていたい人なので参考にはならないけれど、今はいないリンデランの祖母は穏やかで落ち着いた余生を過ごしていた。
リンデランは祖母のことが好きで、賢い人で尊敬もしている。
ただの落ち着いたご婦人ではなかったようではあったのだが。
有力貴族として日々努力していかなきゃいけないが例えば子供ができて任せられるようになったら余裕を持った生活ができるだろうかと考えることもある。
リンデランぐらいの年頃でそのようなことを考えるのは珍しい。
けれど責任や義務を負うことを真面目に考えて、その先に自分の人生があると考える貴族も少なくはないのである。
最後の時を好きな人とゆっくりと過ごしたいなんてとても大人で素敵な考えだとリンデランは思う。
「私もそのように穏やかに晩年を過ごしたいですね」
「そうか?
リンデランは貴族だからあれだけど、俺は自分で手摘みした葉っぱで作った苦いお茶もどきだぞ」
「むしろいいじゃないですか。
じゃあ私は野苺でも取ってクッキーでも焼きましょうか?」
「それは美味しそうだな」
リンデランが前に作ってくれたものを思い出す。
この時点でも相当できたものだったのでおばあちゃんになるまで続けていればかなりの腕前になっているだろう。
「じゃあ私もなんか作れるように練習しとくよ」
「どうしてエさんがそこに入ってくるんですか?」
「あんたこそどうしてジとお茶することになってんのよ?」
「俺の分の茶もあるか?」
「もちろんあるさ。
ただで摘めるもんだからな。
……そうだな、年老いてもみんなで会うことができたら、最高だな」
貴族だからもう会うこともないと思っていたリンデランやウルシュナともこうして度々会えている。
兵士となって過去に疎遠になったエやラともまた一緒にいれている。
素敵な友人たちとこの先も付き合っていくことができて、みんながしわくちゃになってもこうして会うことができたら最高であるかもしれない。
「守るんだ……」
幸運なことに魔物に会うこともなくジたちは4つ目の町にたどり着いた。
日持ちのする食料を中心に購入し、簡易的なリュックも買った。
必死に貯めたお金も残りわずか。
これは次にどこかに辿り着けた時の食料費となる。
もっとたくさんお金があったのなら地図でも欲しかったけれどとてもじゃないけど手が出なかった。
ここから先は地図もない。
ジが見せてもらった地図を頼りにして進んでいくしかない。
食料も節約するしかなく、ただ希望を強く持って進むしか残された道はないのである。
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