未来を守るんだ1

「みんなご飯だよー」


「おっ、やっと帰ってきた!」


 身を低くして隠れていた子供たち。

 両手で荷物を抱えたジたちを見つけて駆け寄ってくる。


「やった、食べ物だ!」


 とりあえず金に糸目はつけないで手当たり次第に買ってきた。

 ちょっとしたパーティーみたいなものでみんな思い思いに買ってきたものを食べる。


「グスッ……」


「おい、泣くなよ……」


 1人の女の子が泣き出す。

 他のグループにいた貴族の女の子だ。


 今までは不安に思っていても目の前の空腹がそれを誤魔化してくれていた。

 食べ物が与えられてお腹が満たされてくると同時に先行きに対する漠然とした不安が襲いかかってきたのだ。


 これが最後のご飯になるかもしれない。

 柔らかいベッドで寝たい。

 また両親に会いたい。


「泣くなよ……俺だって……」


 大声で泣いて周りの人にバレてはいけないと若干の理性が働き、声を押し殺して他の子供たちも泣き出す。

 メソメソとして重たい空気。


「チッ……」


 横でさめざめと泣かれるとせっかくの飯が不味くなる。

 気持ちは分からなくもないけど泣いたところで目が痛くなったり体力を消耗するだけ。


 ラは小さく舌打ちする。

 泣きはしないが自分まで憂鬱な気分になってくる。


「……お前文字書けたのか?」


 憂鬱な方にいると暗い雰囲気に泣きたくなってくる。

 何か他に話題でもないかとジを見るとジは紙に何かを書いていた。


 覗き込むとそれは文字でちゃんとした文章になっている。

 ラの知るジは文字なんて書いていたことはない。


 ラは兵士として集められて訓練も始めたけれど同時に座学も叩き込まれていた。

 文字や算術ぐらいできなければ物品の管理や報告などで困ることがあるためだ。


 そこら辺が苦手なラは未だに文字を書くことも苦手である。

 ちゃんとした先生がついたってそんななのにジはさらさらと文字を書いている。


 地面に紙を置いて書いているのに字も綺麗に書けている。


 ジは紙と木炭を買ってきていた。

 剣で削って先を細くして紙に擦り付けて文字を書いていく。


 わざわざペンを買う必要はないし、多少字はつぶれてしまうが綺麗な手紙でなくても読めればいい。

 ラは綺麗だと思っているけどジはもうちょっと綺麗に書けると思っている。


 手紙は簡単な経緯と助けを求める内容。

 リンデランやウルシュナがいることも書いておけば行動も早いだろう。


「よし」


 書いた手紙をクルクルと巻いて紐で結ぶ。


「エ、これを頼む」


 手紙をエに渡す。


「私?」


「これをシェルフィーナに持たせて飛ばして欲しいんだ」


「分かった。シェルフィーナ」


 エが自分の魔獣であるフェニックスのシェルフィーナを呼び出す。

 赤い翼を広げて優雅に地面に降り立つシェルフィーナは特別小さくもない。


 やはり地下牢があったあの館にだけ魔獣を抑制する魔法がかけられていた。


「ん?」


 シェルフィーナはジッとジを見るとゆっくりと頭を下げる。

 なんだか分からないけど丁寧にされて悪い気はしない。


 とりあえずジも頭を下げ返しておく。


「シェ、シェルフィーナ、何してんの!」


 シェルフィーナが頭を下げた理由をジは知らない。

 ただエが強い思いをジに抱いているからシェルフィーナはジに敬意を払い頭を下げたのだ。


 シェルフィーナは実はプライドが高い。

 他の魔獣と仲良くすることも少なくて人に対して頭を下げているところなんて見たこともない。


 なんでよりによってジにそんなことをするんだとエは顔を赤くする。


「まあいいじゃないか」


「うぅー」


「もうちょっとシェルフィーナにはちっちゃくなってもらってこれを戦場の方向だと思われる方に飛んでもらいたいんだ」


「分かった……」


 拗ねた様子のエはシェルフィーナに話しかける。

 知能が高そうなので漏れ聞こえる会話だけでも内容を理解していると思うが念のためちゃんと伝える。


 シュルシュルとシェルフィーナがちっちゃくなってその足に手紙をくくりつける。


「あっちの方向で赤い旗のほうがこっち側の味方だ。

 

 出来るだけ前で戦ってる人じゃなくて後ろに陣取ってる偉そうな人のところに運んでくれるのが理想だけど無理はしなくてもいい」


 そもそも大雑把な方向を示しただけでは戦場を見つけられない可能性もある。

 戦争の状況が変われば戦線の位置も変わるし、これは1つ可能性を増やす行為で賭けに近い。


 魔獣は契約者と離れすぎると命令を忘れたり制御が効かなくなることがある。

 魔獣そのものの知能の高さと資質、契約者との絆などが離れても大丈夫な距離を伸ばしてくれるがどれほど離れたら危険なのかやってみる他に知ることはできない。


 シェルフィーナの能力とエとの絆を信じるしかない。


「お願いね、シェルフィーナ」


 希望を乗せてシェルフィーナは飛んでいく。

 自分の目の届かないところに魔獣を送り出すのは不安だ。


 エは飛んでいくシェルフィーナを見えなくなるまで見続けていた。


「今後どう行動するかみんなで考えようか」


 泣いていた子供たちも落ち着いてきた。

 ご飯を食べて手紙を送り出したら終わりではない。


 まだこの戦いは続いているのだ。

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