未来を守るんだ2

 ジは膝にフィオスを置いて撫でる。

 プルプルとしたフィオスを撫でていると気分が落ち着いて冷静に物事を考えられる。


 不満や不安はかなり高まってしまっている。

 一方的に指示して率いていくことも限界がある。


「みんなでったってどうしたらいいか俺は分かんないよ」


 早速ラは考えることを放棄する。

 良いアイデアなんて浮かばないから頭の回るやつに任せた方がいい。


 必要なことがあればその時に動けばいいと考えていた。


「そうだな……とりあえず俺の考えから言おうか」


 いきなりどうしようかと問われても困るだろう。

 ジは今後どうするかの考えをいくつかみんなに提示する。


 まずはここに留まること。

 町中でも、森の中でもどちらでもいいけど隠れてやり過ごし、誰かが助けに来てくれるのをジッと待つ。


 一応シェルフィーナによって手紙は出したし、今頃大人たちは必死に子供を探していることだろう。

 助けが来ることを期待して待つことも1つの選択肢である。


 次に誰かに助けを求めること。

 保護を期待して誰かに事情を説明して助けを呼んでもらうのだ。


 大人ならともかく子供なら悪いようにされない。

 ただ助けを求める相手をちゃんと見極めなければいけず、保護してくれるかどうか賭けになってしまう。


 上手くいけば安全に待っていられるけれど最悪の場合ローブの男に引き渡されたり、奴隷として売られたりする可能性だってある。

 それでも2つ目の選択肢としては十分に取り得ることができる。


 そして最後は自分たちで頑張ること。

 留まらず、人に助けも求めないで自力で帰ることや確実に味方と言える人のところまでどうにか向かうのである。


 過酷な選択肢。

 子供の足でどこかに行くのは簡単ではない。


 移動するということはそれだけ相手に見つかりやすくもなる。

 不安と疲労と戦いながら先の見えない道を進んでいかなければならないのである。


「……お前はどうするつもりなんだ?」


「俺は、自分で歩くよ」


 当然ジは留まって隠れるつもりも敵か味方かも分からない人に声をかけて助けを求めるつもりない。


「首都まで行くのは遠すぎる。


 だから俺は戦場になっているところまで行こうと思っている」


 何にしてもリスクはある。

 戦場となっているところの方が今いるところよりは近いのであるが場所が変わる可能性もあるし、大体戦場に近いところというのは治安が悪い。


 まだお金はあるものの物価は高くなるだろうし人攫いのような悪人もいるかもしれない。


 でも1番助かる見込みの高い選択肢でもある。

 

 何もしなくても何もしないという行動を選択したことになる。

 行動には結果が伴うもので、何かを得ようと思ったら積極的に行動するしかないのだ。


「付いてこい、なんて言わない。


 ここに留まることも自由だし、誰かに助けを求めに行ってもいい。

 好きに行動してくれて構わない。


 ただ俺は少しでも希望があるなら足でも動かす」


「……じゃあ俺はお前に付いていくよ」


「ラ……」


「俺は小難しいことを考えるのが苦手だ。


 でもお前は違う。

 道に迷った時はお前に付いて行けば大体家に帰れた。


 お前がそうするってなら、きっとそうすれば家に帰れるんだよ」


 まっすぐな信頼。


 今は貧民街で迷子になったのと状況は全く違うのであるがラはジを信じている。

 最後には一緒に家に帰ってきて、大冒険だったと笑いあった。


 今回もジと一緒なら帰れるとラは信じて疑わないのである。


「私も信じてるよ」


「私もジさんになら付いていきます」


「信じてる……まではいかないけどさ、ここでずっといるわけにもいかないのは確かだしね」


 エ、リンデラン、ウルシュナもラに同調してジに付いていくことにした。


「僕は……もう歩けない。


 それにあいつのこと放っておけないよ」


 みんなジに付いていくというのだ、選択肢なんてあってないようなもの。

 他の子もジに付いていくことを決めていく中で1人の男の子が首を振った。


 不満を爆発させて走り去った貴族の子と友達である子で体を動かすタイプではないその子はもう歩くのも限界だった。

 友達である子を置いても行けない。


 誰かに助けを求めてみるという選択肢をその子は取ることにした。

 1人2人ぐらいでやるならいい選択肢であるとジも思う。


 仮に助かることがあったら自分たちのことを伝えてほしいとその子にお願いする。


「もちろんだよ。


 君たちも頑張ってね」


 助けを求めるよりまずは走り去ってしまった子を探すといってその子はみんなから離れていった。

 ある意味勇気のある行動ができる子であるとジは思った。


「アユインはどうする?」


「ジさんに付いてくつもり。


 私を無事に返してくれるんでしょ?」


 イタズラっぽく笑うアユイン。

 また女の子に何かしたのかとエが疑いの視線をジに向ける。


「でもこのまま戦場のほうに向かうのですか?」


「基本的にはそのつもりだけどまずはもう1つの町の方に行ってもうちょっと食料なんかを買う必要があるかな」


 ちょうど戦場に向かう方向に4つ目の町がある。

 準備もしなきゃいけない。


 けれど流石にまだ逃げ出したことに気づいていないと考えるのは難しいと思っているので移動もしながら行う必要がある。

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