どんな苦境でも6
過去ではこの時期ならまだまだ戦いは拮抗していたはずなのにだいぶ王弟側が押されていた。
ビッケルンからはまだ距離があるものの想像していたよりは押されて戦線はビッケルンに近づいていた。
やはりパージヴェルやルシウスが生きていることは戦争にも影響を与えている。
戦争の進みが早く、終わりも早そうな気配がしている。
ただ戦争の進みが早いがゆえにもしかしたらこんな出来事が発生したのかもしれない。
戦争の裏で秘密裏に進められていた行為が戦争の加速によって多少のリスクを冒しても進めなければいけなくなった可能性もある。
「うん、まあ……予想通りかな」
「そう……」
その予想とやらが明るいものでないことはジの表情をみれば分かる。
「とりあえず食料とかを買って早めにみんなのところに戻ろうか」
長居は無用だ。
とりあえず地形的なものは分かった。
さっさと買って行きたいところだけど大量に食料を買っていくと怪しまれかねないので3人で手分けして食料を買う。
「あんたどこでこんなお金稼いでんの?」
結構な量の食料、それにみんなに就寝の時にも使えて顔も隠せるようにローブを買った。
決して金額的にも少なくない買い物だけどポンとジはお金を払ってしまった。
見習い子供兵士のラや神殿に行ってそっちからも少し貰っていたエでもまだこんなに払うことはできない。
まだ子供だから給料が少ないのは当然だ。
なのにジは特に惜しそうでもなさげにエからすれば大金を払ったのだ。
実は心の中で泣きながら払っていたのだけどみんなのためなら仕方ないと自分に言い聞かせていた。
生まれ変わったとて貧乏性は治らないのである。
「どこでったって俺にも考えがあるってお前らが出ていく前に言ったろ?」
「そーだけどさ」
考えがあっても貧民は貧民。
ジに起きた変化なんて魔獣契約をしたぐらい。
悪くいうつもりはないけれどジの魔獣はスライムでありそれで何が出来るとは思えなかった。
実際スライムで稼いでいるのだけどエには、いやきっと他の誰であっても考えつきはしなかっただろう。
エとラは家に住まわせてくれて食べ物やなんかをくれたジに感謝していた。
だから兵士となって活躍できるようになればジのことを養っていくぐらいのことは考えて2人で話していた。
ジがそれを受け入れるかは別の話だけど。
過去でも2人は世話を焼こうとしてくれていたけどその時はジが拒絶した。
今ならそれも悪くないと思う。
「今度は俺がお前を養ってやるぐらいには稼いでるよ」
「は、はぁ!?
別にそんなの……いや……じゃないけど」
「それに、どんな状況でも、どんなに苦境であっても、お前のことは守るから」
過去エは最後までジを気にかけてくれていた。
なんの因果か優しかったラもエも逝ってしまい、最後まで周りを拒絶して心を閉ざして生きていた自分だけが残ってしまった。
再び与えられたこの人生が夢だとしても、どんなことが待ち受けていようとも諦めない。
ジは真っ直ぐにエの目を見る。
まるで告白ではないか。
1人蚊帳の外で大量の荷物を持たされている平民の少年はイチャついているように見える2人の姿を遠い目をして眺めていた。
側から聞いていればジがエを養ってやるよなんて言ってるようにも聞こえた。
顔が赤くなっているのがバレないように俯き加減で歩くエをジは不思議そうに見ながらみんなのところに帰っていった。
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